ある日の光景
小話です。
ベアリーチェちゃん 8歳。
クラウディオ、アルベルト 16歳。
アルベルト モンテフェルトがタンクレーディ家に遊びに来る度にベアトリーチェは「アル様〜」「アル兄様〜」と言ってアルベルトについて回っている。
アルベルトも自身が末っ子で年下の子どもが珍しいのかベアトリーチェを「小さなお姫様」と言って殊の外可愛がっていた。
友と妹の交流を微笑ましく見守っていたクラウディオだったが。
ある日、ベアトリーチェの発言で激震が走った。
「リーチェね、大きくなったらアル兄様と結婚するんだ!」
アルベルトは微笑んでベアトリーチェを見下ろした。
「そうか!結婚しよう、ベアトリーチェ!私は今からでも構わないよ」
「アル兄様、本当?じゃあ、ずっといっしょだね〜」
「そうだね。」
キャッキャウフフな二人を見て普通にドン引くクラウディオ。
よっぽどの政略結婚じゃない限り、幼い少女相手に結婚とか普通に事案だし。
しかし。残念な事に友アルベルトの目は本気だった。
やばい。俺の友人は少女趣味だったのか?
確かに友と妹は相性が合いそうだし、行く行くは二人でブルラエルべを治めて貰えば良いかと思っていたのは自分だ。
アルベルトがずっと努力して見違えるように魔力も魔法も成長したのも間近に見て知っている。
だが俺の勘は狂っていたのか?このままではリーチェが危ない!
亡くなった母に顔向け出来ないし、何より親父に殺される。危機感を覚えたクラウディオは止めに入る事にした。
「ちょっと待ったリーチェ。お前はまだ8歳だろ。相手を決めるのに早くはないか?」
「え?そう?クラウディオ兄様。でも私、結婚するならアル様が良いの!」
「いやいや。予め条件を決めておかないと将来、苦労するぞ。ちょっと顔が良いとか顔見知りとかで簡単に相手を決めるのはよろしくない。結婚は一生だ。人生は長いぞ」
アルベルトは舌打ちした。
『クラウディオ、余計なことを。』
「何か言ったか、アルベルト?」
「いや?」
と言いつつクラウディオの足を踏むアルベルト。
「そっか〜。じゃあリーチェはアル兄様みたいに遠乗りとバイオリンが得意な人が良い!」
「うん、うん、そうだね」
よしよしと頷くアルベルト。
「それだけではな。ずっとリーチェを守れる男でないと。滅亡した家に残される妻子の末路は悲惨だぞ」
「そうよね〜。」
考え込むベアトリーチェ。
「それなら。ちょっとやそっとじゃ死なない強い人でかしこくてしたたかな人と結婚したいわ。後、いざとなれば一人でも生きぬけて冒険者とかどんな仕事もできる人」
のっけから高いハードルきたっ。
「……時間を貰えば大丈夫かな」
引きつり笑いのアルベルト。
「後、りょう土を守れる良いりょう主様が良いな。民を苦しめる人はさいていですもの」
ごもっともです。貴族だから。
実現するにはハードルは高いがな。
「……そうだね」
「アル兄様ならできるよね ! 」
「うっ。努めよう。(死ぬ気でやればなんとかなる……)」
きらきらした目でアルベルトを見つめるベアトリーチェ。
『ふふふ。さすが我が妹、やるな』
「あと、しんしゅの気しょう?というのがまつり事に大切だってエンリコもビアンカ様もおっしゃってたわ。アル兄様は大丈夫よね!」
(よし!エンリコ爺様もビアンカも良い仕事しているな。)
めちゃくちゃハードル積み上がってないか?
「そうだね。が、頑張るよ。」
「ハッハッハ。リーチェの結婚は当分先になりそうだな」
(ざまあみろ、アルベルト。せいぜい頑張れ。)
心の裡で高笑いをするクラウディオ。
俯いて拳を握るアルベルト。
「……リーチェの成人まで後8年ある。クラウディオ、私は武者修行に行ってくる。」
「お、今からか?」
(アルベルト、やるのか。本気かこいつ。愛に盲目過ぎて我が友ながら怖いな。)
やっぱり、内心ドン引きのクラウディオ。こんな友の姿は見たくなかったし知りたくなかった。
「ぐずぐずしているとあっという間にリーチェは大人になるぞ?」
「リーチェの成人まで間に合わせる。絶対にだ!」
で、ああなる。