表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

アルベルトと僕と妹のリーチェ

クラウディオ 、アルベルト 13歳。

ベアトリーチェ 5歳。


クラウディオ視点です。

 

 僕はクラウディオ タンクレーディ。侯爵家の跡取りだ。


 家族は父上と長男の僕、5歳の妹のベアトリーチェ。病気がちだった母上はリーチェを産んでから身体がどんどん弱ってきてしまって。僕が魔法学園にいる間にとうとう亡くなられてしまった。


 母上そっくりな金髪碧眼の可愛いらしいベアトリーチェ。なかなか魔法が使えないリーチェを母上は最期まで心配していた。


 一部の貴族を除いて忘れられつつあるけど、魔力持ちは似た魔力の持主が側にいると早く魔法が使えるようになるらしい。


 僕は父上とそっくりな魔力だったから魔法を使えるのが早かった。


「クラウディオ様は2歳で炎魔法を使い、壁を焦がしましたね。」

 執事長が苦笑いしながら言う位だ。

「水魔法で書斎を水浸しにした時は、旦那様もさすがに呆れていました。」


 周りは大変だったらしい。


 だがリーチェは違った。妹の魔力は誰とも似ていない。5歳になっても魔法が使えないのは、きっとそのせいだ。


 かつて。強い魔法使いが属性が違っていても魔法が使える様に導いてくれた、なんて言い伝えがあるが。父上や僕以上の魔法使いなんて滅多にいない。少なくともリベルタ国には。


 このまま、リーチェは魔法が使えないのだろうか。


 ◇ ◇ ◇


 年々、強い魔法使いが減っていくなか苦肉の策としてリベルタ国で作られたのが魔法学園だ。


 表面上は魔法指導の場だが、本当の目的は魔力を持つ貴族子弟を集め、似た魔力の持ち主同士を近づけること。


 そうして魔法の目覚めや強化を期待しているんだ。似た魔力の持ち主と一緒に過ごすとそれだけで魔法が発現する機会も増えるし、使える魔法が強くなるから。


 退屈な授業とお遊戯レベルの実技ばかりで、物足りない毎日だ。


 その中で一人、面白い奴がいた。

 それがアルベルト・モンテフェルト。公爵家の三男だ。


 ある日、魔法実技の授業でアルベルトと組んだ時にあれっ?て思って呼びだしたんだ。


「...タンクレーディ侯爵子息、何か?」

 黒髪の前髪を長く伸ばしたアルベルトはすぐ下を向いた。

「モンテフェルト公爵子息。アルベルトと呼んでいいかな?実はさ、さっき実技授業で気づいたんだけど――」

「...何だろうか?」

 アルベルトが顔をあげて警戒するように黒髪の間から濃い緑の瞳で僕を見つめている。

「君、俺の魔法を全部避けてたじゃないか。どうやったんだ?」

アルベルトは笑みを浮かべて言った。

「ああ。...たまたまだよ。」

「バカな事を言うなよ。6発連続で『たまたま』なんてあるかい。僕の魔法を学園で避けられる奴はいないぞ。」 

 アルベルトはしばらく黙ってから躊躇うように言った。

「……魔力の、流れが見えるんだ。」

「……は?」

「魔法を発動する瞬間、魔力がどう動くか……それが見える。だから、避けられる。」


 それを聞いて僕は興奮したね。思わずアルベルトの肩をばしばし叩いた。


「ええっ!それ、すごいじゃないか! 魔力の流れが見えるなら、先制攻撃もできるし精神攻撃も防げる! 魔導具の開発だってできるぞ!?」

 でもアルベルトの反応は鈍い。

「……理論上はね。でも、僕の魔力は弱いんだ。発動させるのにバカみたいに時間がかかるし。……魔力を外に出さない身体強化ならできるけど。」

「それでも十分すごいだろ!」

「そうでもないよ。公爵家の三男が大した魔力も持てず、ただ『見える』だけだから…。」

 彼はどこか自嘲気味に笑った。



 それから、僕らはつるむようになった。今日も僕はアルベルトに学園の不満をこぼしている。


「……でもさ、僕はどうかと思うよ。単に魔力をぶっぱなす攻撃魔法ばかりが重視される貴族社会じゃ、攻撃できない魔法属性の子はバカにされて軽視されるんだから。」


 アルベルトは相変わらず黒い前髪を伸ばして目を隠しながら頷く。


「……そうだね。癒しの魔法や毒魔法の魔力を持つ者が高位貴族に囲われて使い潰される話はよく聞くね」

「はは、アルベルトも知ってるか。そういう話を聞くと、魔法に目覚めない方が幸せなんじゃないかって思うよな。…まあ、父上には『有能な魔法使いを見つけてこい』って言われてるんだけどさ。」


 学園で教わる魔法はやっぱり物足りない。あ〜あ、僕も父上の様に戦場で魔法を使いまくって暴れたいのに。



 それからしばらくして。アルベルトはすごく時間かかるけど魔法が発動するようになって珍しく興奮していた。

「信じられない...今までこんなに早く発動できたことなんて…」

 うん、発動まで5分もかかるけどアルにとっては大きな進歩だ。

「やったな!やっぱり俺たちの魔力の色が似てるからかな。よかったな、アル!」


 アルベルトが僕とアルベルトの魔力が同じ白だと言ったので。手を合わせて互いの魔力を入れあう「魔力合わせ」を試してみたんだ。学園では推奨されていないからこっそりとね。アルベルトの身体に魔力を入れようとしたらバチッと小さな雷が走ったように反発してお互いに痛い目にあったけどめげずにやってよかったよ。


 それでも完全に同じというわけではないからか。アルベルトは発動しても暴発して制御できないことが多い。 


 そんなアルベルトだが。剣術に力を入れていて。そちらはなかなかの腕前だ。

「アル、剣術は強いよな。」

「次兄と一緒に平民落ちしても暮らしていけるように剣術と身体強化だけは鍛えたんだ。」

 彼はどこか寂しげに笑った。

「バイオリンもな。演奏だけで食べていけるんじゃないか?」

「魔法がうまく使えない分、一芸は必要かと思ってね。バイオリンだけは父上も姉上も褒めてくれる。」

「…公爵家の者がそんなこと言うなよ。」

「所詮、三男だからね。」


 三男だから。

魔法がうまく使えないから。


アルベルトはそう言って自分の事を卑下する。


確かに、モンテフェルト家は、優秀な跡取りと才色兼備な長女ばかりがもてはやされて。その下の次男と三男は魔法がろくに使えない出来損ないという評判だ。


 だけど。そんな枷に囚われているアルベルトを僕はもどかしく思う。

こいつは、こんな風に貶められてよい男じゃないんだよ。



 ◇ ◇ ◇


 それで、夏休暇にアルベルトをブルラエルべに誘うことにした。


「本当にいいのか?魔力が弱い公爵家の三男なんて…」

「いいからいいから!それに、君は友達だろ?堅苦しいこと言うなよ。」

「ありがとう、クラウディオ。」


 アルベルトは照れくさそうに前髪で目を隠しながらそう言った。


 こいつ、絶対にすごい潜在力があるのに頑なにそれを認めようとしないんだよな。


 もったいないな。きっかけさえあればアルベルトは凄い魔法使いになれそうなのに。



 それにアルベルトの「魔力を視る力」が、ブルラエルベにいるリーチェの魔法を目覚めさせる鍵になるかもしれない。


 少し期待しているんだ。いや、かなり期待してる。アルベルトの目でベアトリーチェの魔力の種類が分かれば、似た魔力の持ち主を探せるのではないかと。


 この夏休みにきっと何かが変わる気がするんだ。


 ◇ ◇ ◇


 久しぶりに訪れたブルラエルべはごつごつとした灰色の岩が目立つ荒地になりかかっていた。


 ブルラエルベはリベルタ国の東北部に位置し東北の国境沿いにあるタンクレーディ本領とわずかに接している。タイロールの山々と山からの雪解け水から流れ出すネーレ川に囲まれた鄙びた小さな村だ。タンクレーディの祖父が魔女の末裔と恋愛結婚して以来、我が家の所領になった。


 魔法使いだった高祖母モルガナ様が曽祖母を産み落とし長らく滞在されたと言われるブルラエルべ、『魔女に祝福された地』。強い植物魔法と癒しの魔力が土地に根付いているおかげで長年、強い薬効を持つ薬草を産出してきた。


「少し見ない間に、ここまで酷くなるなんて。」  


不思議そうな顔をするアルベルトを前に僕は呟く。


「以前とは違うのかい?」

「ああ、数年前までは一面、薬草の花畑だったんだ…、薬草の出来が悪いと報告はあったけど、ここまでとは。」


見渡す限りの大地を覆っていた薬草の花畑はほとんどが消えて所々に下草が生えているだけになってしまっている。魔力が枯渇してるんじゃないかとは聞いてたけど。


「この様子じゃ酪農も無理なんじゃないか。」

「うん。移住も考えないと行けないかもな。」


 酪農に転換しなければならないかと父上と話していたがこれ程とは。

憂鬱だ。僕は内政より戦で暴れたいのに。


 ◇ 


 母上の遺言で今、ベアトリーチェはここで静養している。僕が駆けつけてきた時はリーチェは母上の亡骸にすがって泣いて泣いて、見ている僕の胸が痛かった。母上の死はリーチェのせいではないのに。


 夏休暇に入り、学園から出発する前にブルラエルべのタンクレーディ館の執事から報告があった。なんとリーチェが行き倒れの男を拾い、館で面倒を見ているという。


「何でそんな男を家に入れるんだ、リーチェに何かあったらどうするのですか!」


 父上に抗議すると、父上は眉根を寄せて顎髭を撫でた。


「それがな。モルガナ様の肖像画に描かれた男と瓜二つだと書いてきておる。もしかしたら儂らの親戚かもしれんな。」


 館にある高祖母モルガナ様の肖像画。麗しいモルガナ様の隣に、銀髪金眼の男性が描かれている。その男はどうも我々の先祖らしく、私と父上に似ている。ブリトーニア出身の魔法使いだという以外、詳しいことはわかっていない。


 考え込む僕に父上が言う。


「クラウディオ。リーチェの様子と共にその男を検分してはくれんか。」


 という訳で、親友を連れてやってきたんだ。アルベルトの目で見れば騙りかどうかも一発でわかるからな。

いいんだよ、アルベルトだって公爵家で肩身が狭いから良い息抜きになるだろう。


 館の者はリーチェは男を拾ってから元気になって今日は近くの山に出かけていると言う。まだ母上がお元気だった頃にピクニックに出かけた花畑だ。

ついでだからアルベルトを連れて迎えに行こう。リーチェには知らせていないからきっとびっくりするだろうな。


最後までお読み頂きありがとうございます。次話アルベルト(13歳)視点に続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ