#80 あいつにとってはずいぶん……気の遠くなるほど昔の話だったか……
瞼を開くと朝だった。
……びっくりした。
熟睡、したんだろうなぁ……
目を閉じて、気づいたら朝だった。
ここまでよく寝たのは……久しぶりかもね……。
ベッドの下を見れば、我らが創世神は無残な姿で寝ていた。
あぁ……女子の姿ではしたない……
いや、男でもダメだな。アレははしたなすぎる……。
おっぴろげはいかんだろ……おっぴろげは……。
ユウキからペットベッドに視線を映せばきなこがいない。
目を閉じて気配を探れば……リビングにいるらしい。
目を開いて、俺はベッドから立ち上がる。
「とりあえず、朝飯だな」
……
キッチンへ向かい、エプロンを装着する。
今日の朝ごはんは和食にしよう。
みりん干しのままかりを焼いてー、ほうれん草の白和えに……ひじきの煮ものにすっか。
「みそ汁は、豆腐が良いです」
後ろからきなこの声。
「和食にするって良く分かったなぁ」
「? 洋食でも豆腐の味噌汁飲みたいです」
「あ、はい。みそ汁好きなの?」
「みそ汁、ほっとするです」
「そっかぁ、じゃぁ、おいしい味噌汁作るね」
……きなことこうやって話すことができるなんてなぁ……
しみじみと感動しつつ、朝ごはんの準備をする。
出汁を取り、ままかりを焼いていると家族がぞろぞろと終結する。
最初に来たのは曾おばあ様で、母君、父上と続いてくる。
きなこは目を輝かせて俺の手元を見ていた。
「気になる?」
「おいしそう、です」
目をキラキラさせながら見る様は、きゅっきゅちゃんモードの時と変わらない。
人間モードでもやっぱきなこはきなこなんだよなぁ。
ままかりが焼けたところから皿に映し、きなこに机へ配膳してもらう。
白和え、ひじきの煮もの、更にみそ汁を注ぎ、きなこにサーブしてもらう間にご飯をよそう。
きなこと俺の分をよそい、後の人には各自に装っていただく。
「ご飯は各自でどうぞ―」
「いつもありがとう」
どぞどぞといいつつ自分の席に座れば、きなこも隣に座る。
「お魚です?」
「ままかり―。みりん干しのだから、ほんのり甘くておいしいんだよね」
「みりん干し。あまいです?」
こてっと小首を傾げるきなこに、「食べてみ?」といいつつ俺は手を合わせる。
いっただきまーす。
母君、父上、曾おばあ様とそれぞれにご飯をよそって席に座り、それぞれに食べ始める。
「おいしい」
恐る恐るままかりを口にしたきなこが呟く声に、俺は内心ガッツポーズをする。
きなこは好き嫌いがないので、食べさせがいがあるのだが、ままかりとか変わり種は食べたことなさそうだったので、まずいと思われたらどうしようってちょっとドキドキしてたんだよね。
きゅっきゅちゃんの時はフォークとスプーンで食べていたが、人間モードでは指が器用になったおかげか箸で食べていた。
……初めてとは思えないお手前……これはユウキのとこで練習してましたな。
きなこがもっそもっそと食べているとユウキが起きてきた。
相変わらず眠そうである。
「おう、おはよう」
「……おはよう……ございまふ……」
ふあぁ……と欠伸を噛み殺して開いている席に近づくユウキに「ご飯はセルフサービス」と伝えれば、伏せた茶碗をとって炊飯器へ近づいていった。
「ユウキって朝弱いねぇ」
「……いやぁ……そういうわけでは……ないはずなんだけど、なぁ……」
歯切れの悪い返答をしつつ、空いた席に座るユウキ。
手を合わせてから食べ始める。
「うっま」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「畏まり過ぎてコワイ」
感情なんてほとんどこもってない言葉に、ユウキがひく動きを見せた。
心がこもってないのは一目瞭然なので、まぁ、ジャレというか戯れだよな。
だから曾おばあ様、『ユウキ様になんて態度を……!』みたいな顔しないでください。元クラスメイトっていうか、お友達って関係知ってるでしょ!?
「いやぁ……ハルト君の料理うまいねぇ……」
ままかりをもっしゃもっしゃ咀嚼してユウキが言う。
……そういえば、昨日のサンドイッチ弁当は兎も角、俺のまともな料理をユウキが食べるの、久しぶりなのでは? 俺の感覚では6……いや、11年前? ユウキの感覚ならば……ほぼ300億? うわぁ。
サンドイッチは挟むだけだからねぇ……誰が作ってもある程度うまいと思うのだ。
そういういみではままかりも焼いただけだがな……ままかりうまいし焼くだけだからいいよね。素晴らしい。
前世ではクッキーやフルーツタルト、それに弁当なんぞ何度かあげたことがある。
「お前が女だったら嫁にしたいくらいなのになぁ」とか冗談も言われたっけ。
……今こいつが女の姿をしてるのって……まぁ、澪夢さんのためか。
冗談でも澪夢さんをネタにしてはいけない。こいつは澪夢さん関係だけは導線に着火済みのダイナマイトレベルでヤバイ。俺は知ってるんだ……。
触らぬ神に祟りなし、である。
もう関わってるから一生懸命祀らなきゃ……。
朝食を食べ終わり、人心地ついているときなこが「ここで修業、していいです?」と首を傾げた。
それに母君が「いいわよー? 危険なことしないわよね……?」と承諾しつつ不安を零した。きなこは「魔導結晶、作るのです。安全」と答えて虚空から何やらアイテムをどちゃどちゃ出して、机の上に並べ始める。
……-街-の外にある触媒なのかなー……透き通った葉っぱとか、なんかキラキラした羽とか、なんかの鉱物みたいなやらいろいろ広げている。
そしてきなこは両手でお椀を持つようなポーズをとる。
小さな魔法陣が手の内に展開し、瞬く間に小さな結晶が生まれる。
おぉ~と感心してみていると、きなこの手の周りに魔力が集まっていくのが感じる。あれをどんどん結晶化させていくのかな。……ということはここからは時間の問題というか……めっちゃ時間がかかりそう。
曾おばあ様と母君は興味深そうにきなこを覗き込んでいるが、俺は見てても良く分からないといった感想しか出てこないので、朝ごはんの片づけとかしようと思う。
……来週はパウンドケーキでも焼くか。最低2本焼こう。
ユウキのお土産用に酒をたっぷりしみこませたブランデーケーキ……ドライフルーツをたっぷり混ぜ込んだ、さぁ……
……いいね。
「なーに考えてるのー?」
ユウキがいつの間にか隣にいた。
「手伝うよん」といいつつ俺が洗った皿を布巾で拭いてくれる。
「さんきゅー。……何考えてるって、これからのこと?」
「ふーん? つか、いつもあのレベルの朝ごはん用意してんの?」
「いやぁ? そこまで……パン焼いてスクランブルエッグとウィンナーとフルーツヨーグルトとかもざらにあるよ」
「最低ラインそこなの? 俺、朝ごはんは菓子パン1個とかザラにあるんだが……マメだな?」
「やりたいようにやってるだけだけどねー。菓子パンうまいから十分では?」
「メロンパンとミルクティー……」
「女子高生の定番ランチかなんかっすか」
「ハイカラウドンにマヨ付き唐揚げじゃないの?」
「そっちは男子高生では?」
中学男子でもメロンパン一個で昼飯満足できるとでも?
……って、こいつ男だったが病弱過ぎて小食なんだっけ。メロンパン一個も食べきれない……
その点、今は普通に食えるらしいので、いいことなのか、どうなのか……
ま、前世も今世も食ったって栄養にならないのは変わらないらしいから、アレだけど。
いくら食っても太らないのは羨ましいことだが、そもそも栄養にならないなら食う意味がないのだから、それはそれでどうなん? と思わなくもない。
味は感じるらしいから、まぁ、娯楽だよね。
「そういえばユウキって好き嫌いないの?」
「ジャンクおいしいよな!」
あぁ……病弱だったから、前世で食べれなかったやつに執着してるのか……
「ジャンクねぇ……来週のお弁当はハンバーガーセットにするか?」
「お、ハンバーガー? 作れんの?」
「前世じゃパンも焼いてたよ。食ったことあるだろ?」
「あったっけ……?」
「ほら、ホワイトデーに……って、お前にとっては300億年前か……」
「んー……んー……クッキーは覚えてる。オレアレスキ」
「なんで片言なんだ……? そういえばキャラメルクッキーの食いつきやばかったな……土曜作ろうか」
「澪夢もキャラメル好きなんだよねー。できれば多めにお恵みクダサイ」
頭の上で手を合わせるユウキ。
なるほど? じゃぁ、ブランデーケーキとキャラメルクッキーを仕込んでおこう。
「材料費渡すのでこの通り……」
「いらないよぅ……日頃のお礼と思って受け取ってくれやぁ……」
サテライトでかなり多めの材料費を押し付けようとするユウキに、受け取り拒否する俺。ほんと、きなこのことなりなんなり、世話になってるのはこっちだし、これ以上材料費とかもらったら悪すぎる。
きなこの作業が終わったら父上と一緒に買い物に赴くわけだが……ついでに来週の土曜用の材料もいろいろ買おう。
あれだな、きなこは人間モードでいくから、ペットキャリーは必要ないが……買い物の量が多そうなのでキャリーカートは必要な気がする。
ま、父上を巻き込むからには移動は車なので、買い物量に遠慮は必要ないのが良いことだよねー!
生クリームなどの液体類や小麦粉など重いものばっか欲しいので、ちょうどいいというものである。




