#79 こいつ、友人の家でネトゲする気だぞ?!
「なぁ、ユウキぃ」
ふと、思いついたというか……前世からの謎を今のユウキなら回答できる確信があるので、俺は問うことにする。
ユウキは仰向けで寝転がったまま、足を組んで片目を開ける。
その目線が俺を向いていることで応えているらしい。
聞く姿勢であると確認が取れたので、言ってみた。
「存在が消えた神がいるって、俺は初耳なんだがさ? お前はその消えた神がどんな神だったか覚えてるのか?」
「覚えてるよ? 当然。記録にも記憶からも抹消された、お前たちが知りえない神を、俺は覚えてる。神喰された神を、信仰の消失で忘れ去られた神を、俺は覚えてるよ? だから?」
「……俺が文学少年だったことはご存知でしょ?」
「あぁ」
納得、とユウキが笑う。
よくあるじゃん? 題材としてさ。神喰をする奴、された奴。
そして目の前にいるのは全知全能の神様である。
全て知ってるなら、世界から消えた記憶も覚えているのか。気になるじゃん?
「俺も、詳しく考えたことないんだけどさぁ」
ユウキが鼻の頭を掻きつつ、何でもないような口調で呟いた。
「世界の記録ってのは、生半可なことではきっと消えないんだよ。というか、世界の記録は過去に向かって改変できない……というか……改変されたってことも記録に残るっていうか……説明できねぇな……」
「言わんとしてることは分かるような……ただまぁ、アレか。世界が覚えててくれるなら、たとえ死んでも、誰からも忘れられても、寂しくはない……はないか。やっぱ家族から忘れられたら寂しいな。忘れてくれ」
「……お前は生半可なことじゃ死なないでしょ」
「不老不死、だっけ? 信じられないなぁ……指切ったら痛かったよ?」
「でもすぐ直ったじゃろ?」
クスクスと笑い、イタズラっぽく言うユウキに俺は半目で応えるしかない。
治ったけどさぁ……巻き戻る様に戻ったけどさぁ……
でも腕を失ったら、心臓が潰されたら、脳が破壊されたら、戻るとは思えないし、試したいとも思わない。
「そうだねぇ……不老不死にも種類はあるけれど、お前のは格別ヤバイ。何があっても、この世界がある限りお前は死なないだろうね」
「えぇ……」
とんでもないこといわれたぁ……自覚がないから余計にコワイ。
え、そんなやばい存在なの? 俺?
ただの6歳児だと思ったのにさぁ……え、ただの6歳児よ? 俺?
「俺よりはマシだから安心しろ。俺はこの世界が消えても存在してる自信しかないんだから」
「不老不死にもレベルがあるってことぉ?」
「そだよー。条件付きの不死が最弱で核が壊れたら死ぬ奴、核がなくっても魂さえ無事なら死なないやつ、世界の祝福で生きてるやつ。……それすら超越して絶対壊れないやつ」
「……条件付きの不死、ねぇ……あれか? 何分間に何回死なないと死ねないってやつ?」
「残機あるタイプが一番お手頃よなぁ……羨ましいとすら思えるよ」
「基本死なないけど、やりようによっては死ぬことができる……いいとこどりだよな」
知らんけど。
「ハルト君も元は条件付きの不死だったのが、何をそうなってレベル上げちゃったやら……ま、最後のとどめはシステムの俺だろうけど」
「……ちょっと待てや。俺は前世で死んでこの世界に転生してんだぞ。そもそも条件付きの不死とか聞き捨てならんぞ」
「そらそうだ。あの世界は不老不死を許してないんだから。プログラムがあっても、仕様外を許容できない……っていえばわかる?」
「うーん……エー……あー……もしかして、前世の前世でも指してる?」
「うん」
輪廻転生って、あるんだなぁ……
いや、前世がある時点でそうなんだけど。
「つか、あの世界で前世の記憶がある時点で……魂が不死なのは確定というか……それ相応の何かに守られてる結果というか……」
もごもごと補足しているユウキの言に、俺は(あ、そういうこと?)と納得してしまった。
「ま、だからって無茶してほしいわけじゃないんだけどね。冒険者になってほしいけど、ちゃんと戦う術は学んでほしいというか。だから、ネットゲームに誘いたいというか」
「ネットゲーム、意味あるの? 所詮ゲームでしょ?」
「フルダイブを舐めてもらっちゃ困る―。そら、スキルアシストとかあるけどさ。戦闘スタイルを模索するきっかけにはなるんよ。あれでも」
なるほど?
そら、俺はド素人ですからねぇ……どんな武器を使う、どういうスタイルで戦う、まったく謎である。
「死なないからって、死に続けて何ともないとも限らないしねぇ……」
「こわっ……」
ユウキの呟きに、鳥肌が立った。
混成接続でフルボッコにされそうな言葉だなぁ……
「あ。そーだ。ハルト君。次あっちにつながったらさ。システムの俺に伝えてほしいことがあるんだけど」
何か思いついたらしいユウキが俺にそう頼んでくる。
そのほの暗い笑みに、何か悪だくみを感じて俺は引きつった笑みを浮かべたが、伝言の内容に目を瞬かせることになる。
「そんなこと言って良いの?」
「良いのイイの。結構長いこと戦争してるけどさ? 俺は不本意だからねぇ……」
目を閉じて笑うユウキに俺は何も言えなくなる。
良いのか……? んなこと言って……
ユウキの言葉を反芻しながら、俺は困惑する。
というか、これで好転するように思えないんだが……。
「という事で、俺はネトゲに行ってくる!」
「そういえばイベントだって言ってたか」
いや、俺が無理やり泊めたわけだが、マジで友人家でネトゲする気かよこいつ。
……いや、無理やり泊めた手前、止める権利ないんだけどさぁ……寝る前だし……
「そ! お前は早く寝ろよ!」
そういってユウキはサテライトを呼び出して「キーパー、Titan起動」という。
大の字に寝転がって数拍、ユウキの体が弛緩する。ネトゲにダイブしたらしい。
……いいなぁ……
ま、俺もすぐインできるようになるんだからあわてるものでもないけれど……
ユウキを羨ましく思いつつ、俺は布団に潜り込む。
「お休みきなこ」
声を掛ければきなこは既に寝息を立てていた。
早いことだ。
苦笑し、俺も目を閉ざす。
意外に疲れてたのか、早い段階で意識が溶けていった。




