#77 ユウキはなんかまた大盤振る舞いしてるし、きなのが……きなこが!?
曾おばあ様までお風呂を入り終わり、曾おばあ様の勧めでユウキが風呂に入ったところで、母君が目覚めた。
「あ……れ……私、寝てた……?」
「あ、母さん、起きた。大丈夫?」
「きゅっきゅっ、きゅきゅっきゅ!」
きなこを膝の上に乗せ、サテライトで絵本を読んでいた俺は、母君の声に反応し、きなこが跳ねた。
飛び跳ねたきなこが床に着地する。そしてY字ポーズ。うん、1億点。
「あ、ミュリス起きた?」
曾おばあ様も気づいて声を掛ける。
それに母君が「起こしてくれればよかったのに……」と呟いていた。
「これ、ユウキさんから」
「ユウキさんから……?」
曾おばあ様が小箱を母君に渡す。
薄型の、長方形の箱を渡された母君は首を傾げた。
「魔力の流れが悪いからって、おめでた祝いにだってさ」
「あら……」
「ユウキ、今日泊ってくっていってくれたから。今お風呂行ってる」
「まぁ……あとでお礼言わなきゃね」
微笑んで、母君は箱を開ける。
中には……小さな小瓶と、ペンダントが入っていた。
……なんというか、高そう。
透明な、ガラスでできた小さな壺っぽいデザインで、蓋の部分に小さな穴が複数開いている。
壺の中には青い小さな球が入っているんだが……
どーみても、俺の知ってるやつなんだよなぁ……あれ。
「……曾おばあ様? そのペンダントの中に入ってる珠……魔導結晶だよね?」
「良く分かったわね」
「そりゃ……何度か見たことあるし……」
つか、たぶんきなこが今5つくらい持ってるし、俺も宝箱に1個入れてる。
……6歳の宝物入れに、豪邸1件建つレベルの宝物は言ってると考えると笑えて来るな……工芸品っぽい煙草も入ってるし……6歳児の宝物ではねえな。決して。
とか思ってたら、きなこが口に触手を突っ込んでもごもごしていた。
制止しようとしたら、きなこの口から魔導結晶が出てくる。
「きゅっ」
「あ、一緒ね……って、え?」
にこっと笑って答えた母君が、困惑に顔をゆがめた。
あ、たぶん大きさと純度だよな……うん。わかるよ。
で、たぶん価値を想像して顔を蒼白にするな? あ、した。
「ちょっと、きなこちゃん……?」
「それ、きなこが作れるようになるのが最終目標らしいよ?」
「……、……いえ、そうね。きなこちゃんならできるでしょうね……」
「……え、ミュリス? それ、え?」
「おばあ様、きなこちゃんの魔術師としてのレベルは規格外です」
母君がきっぱり言う。
それに曾おばあ様は目を瞬かせてきなこを見た。
きなこは上半身を持ち上げ、腰らしき場所に触手を当てえっへん、と胸を張る。
それから何か思いついたように、口の中をもごもごさせた。
それが詠唱だと気づいた時には、きなこの下に魔法陣が展開する。
そして魔法陣が消えると同時にきなこの輪郭が崩れ、床に液状になりながらぶちまけられた。
「きなこっ!?」
驚いて俺が叫ぶ。
が、きなこだった液体が震え、一気に体積を殖やしながら形を変えていく様に息を呑む。
変化は一瞬で
黄色いスライムが人型を取り、スライムだったからだが肌色に代わって、人型をとる。
10歳くらいの、少女に変化する。
「きなこ……?」
「はい、です?」
こてっと小首を傾げて答える少女。
腰まで伸びたプラチナブロンドに輝く髪が揺れた。
大きな瞳は金色に輝いていて、きゅっきゅちゃんのときと変わらない。
白いワンピースを身に着けているが、その他に装飾はない。
明日は買い物だな、と心に誓う。
ま、買い物の件は一時保留として、だ。
「似合う、です?」
こてっと小首を傾げるきなこに対し
俺たち一家は感涙にむせび泣いていた。
「かわいい」
「かわいい……」
「かわいいわ……」
「ありがとう、ありがとう……」
「……なんでそこまで感動できるんだキミタチ」
ただのお着換えシーンだろう。
「俺たち一家はきなこに脳を焼かれているのです」
呆れた声で呻くユウキに、俺は淡々と言う。
どんな姿でもきなこはかわいい。
が、かわいい服着たきなこはそれはそれはかわいいのです。
「さて、ご飯にしましょうか」
両手を叩いてにっこりとほほ笑む母君。
……そういえばご飯食べてなかったね……
「ごはん!」
金色の瞳をきらきらと輝かせて喜ぶきなこ。
やっぱ、食べることが大好きなんだねぇ……。
……
「改めて、きなこちゃん退院おめでとう」
「おめでとうー」
ダイニングに移動した俺たちはそれぞれ適当な席に座り、『きなこの退院おめでとう会』をする。
普段4脚しかないダイニングテーブルだが、今日は2脚臨時に椅子を引っ張り出してきて座る。……少し窮屈なので、どうにかしないといけない気がする……まぁ、父上か母君がなんとかするだろ。
ダイニングテーブルの上には御馳走がいっぱい。
母君も言ってたが、唐揚げやポテト、エビフライという揚げ物コーナー、ポテトサラダとシザーサラダ、手巻き寿司はセルフで巻く感じらしい。海苔と具材、そして桶に入った酢飯がドンとおかれていた。それに煮しめと、タケノコの土佐煮もあった。
わあい、俺感激。手巻き寿司用以外にも別口でだし巻き卵が乗っていたので感動が倍プッシュである。俺はだし巻き卵が好きなのだ。
「すごい……おいしそうです」
目をキラキラ輝かせてきなこがいう。
「さぁ、いっぱい食べてね」
「じゃぁ、いただきます」
「いただきます、です」
「いただきまーす」
ユウキときなこ、そして俺が同時に手を合わせる。
それに母君は小首を傾げて微笑んだ。
……きなこは兎も角、俺とユウキは元日本人なので、いただきますは外せんのだ。
……つか、ユウキもやっぱ日本人なんだな……日本人であった時代より、こっちで生きてる方が圧倒的に長かろうに……子供のころに沁みついた文化は抜けないのだろうか。……三つ子の魂なんとやら……。
「ユウキのご飯もおいしいけれど、母君の作るご飯もおいしい、です」
「そう? うれしいわ」
「……母君のだし巻き卵……大好きなのです」
ずびずび鼻水を啜りながら言うきなこ。
『ぎゅっぎゅぢゃぁ……』ではなかったが、感涙しながら咀嚼しているので、想像通りといえば想像通り……かな?
母君の料理を味わいつつ、やっぱ母君の料理はうめぇなぁと俺も思う。
自分で作るご飯も、不味くはないんだが……というか、味に自信はあるんだが、他人が作ってくれているというスパイスを差し引いても母君の料理はおいしい。
優しいんだよなぁ……味が。出汁をちゃんと効かせたり、素材の味を活かしてる。
まだまだ学ぶところが多いな……明日以降の料理に反映させよう。
だし巻き卵を食べて、感情が決壊したらしい。
「お゛い゛し゛い゛て゛す゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛」
滂沱の涙を流しながら鼻水をずびずび啜り始めたきなこに、俺達はきなこを宥めつつ笑いあったのだった。




