#76 友人とのお泊りなんて一大イベント、逃すわけねぇだろ!!
「そういえば、今日の晩御飯……なあに?」
久しぶりに母君のご飯なので、内容は気になるよねー!
聞いてみれば、母君はしたり顔で笑った。
「うふふ……いろいろ用意したわよ? 唐揚げにエビフライ、フライドポテトでしょ? それに手巻きずし、サラダもあるわよ」
「パーティーだね」
指折り数えて作った料理を教えてくれる母君。
なんか、めっちゃいろいろ用意してくれてるみたい? 母君、頑張ったなぁ……
「きなこちゃん、喜んでくれるかな?」
「泣いて喜ぶよ。きっと」
きっとっていうか、高確率で感涙して涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら食べるだろうなぁ。
『ぎゅっぎゅっぢゃぁ……』って鳴きながら。
「そういえば父さんは?」
「お父さん? あぁー……朝から出かけてるわね……」
「……帰ってくるの……?」
「さぁ……? 夕食までには戻るとか、言ってたような気もするけど……」
「夕食……そろそろだよね……?」
時計を見れば18時を指そうとしている。
帰ってくる気配はない。
……だ、大丈夫ですか?
まぁ、ちゃんと平日も毎日帰ってきてるし、休日も休みである日のほうが多くなったが……こう、出かけてそのまま帰って来ないときもごくまれにあるし……
浮気する器量はないはずなんだけど、こう……疑うよなぁ?!
でも、妊娠中の嫁放置して不貞とかかましてたら……俺、実の親でも容赦できないかも。杞憂であってほしいなぁ……。
もんもんと考えていると、階段を下りてくる音がした。
そして同時に玄関から父上の声がする。あ、帰ってきた。
「帰ってきたわね」
力なく笑う母君に、俺は眉を下げる。
「一発、文句言った方がいいのでは?」
「仕方がないじゃない? パパ、忙しいんだもん」
「でもさぁ……妊娠中の母さんを置いてさ、忙しさにかまけてるのはいかがなものかと」
「おばあ様が見ててくれるし?」
「おばあ様だって、ずっといるわけじゃないんでしょ?」
「あら、ハルトの時はずっといてくれたわよ?」
「そっかぁ……」
なら、いいのか……? いや、よくねえでしょ。ちゃんと親しなさいよ。
母君は言う気がないらしいので、俺がびしっと言った方が良いのかね?
「あ、母君。明日はきなこと買い物行っていい? きなこの服、買いたいから」
「あぁ、人間モード……パパに言ってきなこちゃんのお部屋整えようかしら」
「あぁ……その方がいいかぁ……って、赤ちゃんの分は?」
「それは……まだしばらくはママと一緒にいるから……おいおい考えるわ」
流石に、部屋数は有限だからねぇ……一人ひとりに部屋を割り当てるのは無理な話なのである。
「性別に寄るけど、弟だったら、部屋一緒にしても、いいよ?」
「おいおい考えるわ……とりあえず、きなこちゃんは女の子だから、人間モードで一緒に寝るのは……不都合あるでしょ?」
「……母さん的にもきなこは女の子認識なんだね……」
「あら、違ったかしら?」
「さぁ……? きゅっきゅちゃんは無性らしいから……性自認を本人に聞くことは出来ないしねぇ……」
「じゃぁ、きなこちゃんは女の子よ」
にっこりとほほ笑み、自身満々に言う母君に俺は首を傾げた。
「わかるの?」
そんな俺に、母君は笑ったまま答えるのだ。
「だってあの子が言ってたもの」
あ、あ~~~。
その答えに、俺は苦笑した。
「じゃぁ、確定だね」
そっかぁ……魔力言語。
母君は魔術師だから、きなこと喋れるのかぁ……。
……いいなぁ。
ま、今羨んだってどうしようもないんだよなぁ……
「じゃぁ、父さんのところ行くね」
俺はとりあえず諦めて玄関の方へ走った。
後ろから母君の声が微かに聞こえた。
「……ハルトだって、聞こえるはずなんだけどなぁ……?」
……?
リビングから出て、玄関の方へ行こうとすれば、父上が洗面所から出てきた。
少し話しているうちに移動してたらしい。
「父さん、お帰り」
「うん、ただいま。ハルト」
「お疲れだね……? お仕事?」
「ちょっと会議が長引いてね……心配かけてごめん」
本当かぁ? と思ってしまう俺は……ちょっと余裕ないね。
自戒自戒……
頬を掻き、何かを言おうとして
「いよーう! 颯太くん! 仕事バッカにかまけてると義理のおばあ様とArkのNo2が怒髪天だぞ? つか、No2は怖いぞ……アイツ、自分のことは棚に上げて他人の仕事中毒は目の敵にしてるから……」
後半、死んだ目でガタガタ震えだしたユウキに、父上がビビり散らしてカタカタと震えだした。
「今の颯太君、まじで澪夢の地雷原でタップダンスしてるからな? 身重の嫁さんをばあ様に任せて自分は仕事にかまけてるって……まぁ、浮気するよかマシだけど。あと長男……つか6歳の子供を不安にさせるとかだめだぞ? ほんと……役職上がって舞い上がってるのは分かってるが……怒られるぞ?」
「ひぃっ……自重……します」
「その方が良い……ついでにたぶん、ばれてるからな?」
小鹿のように震える父君を横に、俺も震えるより他ない。
いや、あの人……-八番街-を統括してるんだけど……だからって一職員まで把握してるのかあの人……化け物か? ……化け物か……人外だもんね……
「とりあえず、贖罪の為に、明日買い物に付き合うつもり、あります?」
父上を見上げて問えば、父上は混乱の坩堝から抜け出せてないようで困惑したまま首を傾げている。
「え、えーと……?」
「きなこが人間モード習得したんで、人間モードで生活できるように生活品整えなきゃダメなんですよ。主に衣服類。だあから、明日買い物付き合ってね? ほんとは母さんに来て欲しかったけど、身重じゃない? だから、贖罪ついでに家族サービス」
「あ、はい」
自分で言っておいて情報量おおいなぁ……と思わんでもない。
情報量に圧倒されたらしい父上は言葉少なに頷いた。
今だったら、いろいろ頼み事しても安請け合いしてくれそうだな……
「帰りに喫茶店寄ってほしいなー?」
「喫茶店? まぁ、いいよ」
やったぜ☆
ラ・ブリーズでチーズケーキ食べるんだ。
きなこはフルーツタルトかなぁー。
げへへ。
しっかし、なんか、毎回ユウキがいることによって俺の問題が解決してる気がする。
舞台装置かなんかか?
あ、いや、今回は解決してるか良く分かんないけど……
俺がもやもやしてると鶴の一声よろしくユウキが動けば一気に解決するから……
借りばっか作ってるな?!
返せねぇよ……こら、何言われても断りづらくされてるような……
困った。
「きゅっきゅ? きゅっぷぷー」
ユウキの肩に乗っていたきなこが、俺の肩に飛び乗ってきた。
おぉ、きなこだ。
極短毛な体毛が頬を擽ってこそばゆい。
……ん? 今気づいたがきなこから花の匂いがする。
甘いような、さわやかなような……香水……なんて付けないだろうから、なんだろ? ユウキの家の匂い……ではなさそうだけど……なんだ?
んー、と思考しても心当たりがないから、わからない。
でもいきなり聞くのも……ハラスメントっぽいしなぁ……でももやもやする。
……しばらく悩み、それから吐息した。
諦めたのだ。俺が悩んでも解決しそうにないから。
「とりあえず、みんなでリビング行こうか」
「きゅっきゅっ」
俺の提案にきなこが鳴いて応えてくれた。
きなこは優しいなぁ。
リビングに戻ると、ソファーで母君が寝ていた。
あら……睡魔こらえて俺と喋ってくれてたのかな。
眠り悪阻、大変そうだなぁ……いつでもどこでも眠くなるらしく、最悪意識を失いかけるくらい強い睡魔にも襲われるので、フォローの為に曾おばあ様が家にいるわけである。
曾おばあ様が何も言わずタオルケットを持ってきて母君に掛けている。
曾おばあ様の見た目がすんげー若いから、姉妹のように見えちゃうんだが、こう、甲斐甲斐しく母君の世話をするところは、正しく孫と祖母である。
「どうする? ご飯……食べちゃう?」
「……母君が作ってくれたんだし、母君置いて食べるのは……ちょっと気が引けるね。といっても今起こすのも忍びない……先にお風呂入っちゃおうか」
「きゅっ!」
「ということで、父さん先お風呂入っていいよ」
「あ、えーと、おばあ様先に入られますか?」
「私は最後でいいかなー。颯太さん先はいっちゃいなさい」
「あ、はい。ではいただきます」
頷いた父上が風呂へ向かう。
父上、俺ときなこ、曾おばあ様の順で入ることになった。
ユウキは「俺はご飯のお相伴にあずかったら帰るから」と断られた。
「泊まったらいいに」
「いやぁ……ネトゲしたい」
「泊まったらいいに」
「いやぁ……今日イベントなんよ……ギルドの。流石にギルマスがインしないのは拙い」
「サテライトを使ったフルダイブだろ? うちでもできるだろ」
「察しろよー。酒キメてネトゲしてーんだよ」
「お前も察しろよー。俺だって友達と一緒にお泊りしたいのー」
「えっ」
なんか驚かれた。
え、友達じゃないとか言います?!
「歳は違えど親友だるぉー?! 違うとは言わせねーぞ!?」
元クラスメイトのヨシミとか、そんなレベルでは言い訳できないくらいお世話になってるし、親友ってよりももっと深い何かになりつつある気がするが……
寝る前にまだ語りたいのー。いいじゃない。一緒の部屋で寝るくらい。
嫌らしいことになんてならない……というか、なりようがないんだからいいじゃない!!
「一回泊ったことあるんだから、二回も三回も一緒でしょー? ねーえー。泊ってけよー」
駄々こねて見たら、ユウキは困ったように曾おばあ様を見た。
父上を見ないところ、流石。
曾おばあ様は首を傾げ、逡巡し、それから俺に「お布団、ハルトの部屋にひけばいいの?」と尋ねてきたので、全力で「うん!」と頷いといた。
「え、じゃぁ……一泊お邪魔します」
「やったぜ」
なんだか、ユウキの顔が赤く感じるけど、気のせいだね? 気のせいだな!




