#74 餅は餅屋ってはっきりわかんだね
「あ、ここ、ここ」
と、浅桐様が一軒の鍛冶屋を指差して言う。
外観は周りとあまり変わらない。木造の家屋。
店内は床が三和土になっていて、壁側にずらりと商品である包丁が並んでいる。
……なんか、すごいね。
「ごめんくださいな―」
圧倒されている俺をよそに、浅桐様が店の奥に声を掛ける。
数拍して若い女性の声で応えがあり、パタパタと駆け寄ってくる足音がする。
「あぁ、いらっしゃいませ。浅桐様また来てくださったんですね」
「お客さん連れてきたよー。おやっさんは?」
「父は工房にこもってまして……」
世間話らしい。話し込む二人をよそに俺は掛けられている商品を見る。
うーん……知識ないから、『たっかそー』って感想しか出てこないんだが……
前世でも触ったことないくらいヤバイ感じがする。
ステンレスとかじゃない。日本刀と似たような雰囲気を感じる。
しゅごーい。
目を輝かせて商品を見ていると、ユウキが隣にいた。
「浅桐、いいとこ知ってるなぁ……俺も買っちゃおうかなー」
「……ユウキは浅桐様に今まで聞かなかったの?」
「うんむ。スーパーで買ったやつで充分って思ってたし? でも、ナマで見るとやばいね。買っちゃおうかな……」
「初心者には三徳包丁がおすすめっすよ旦那」
「……料理を全くしないわけじゃないんだぜ? ハルトくんよぉ」
半目で睨んできたユウキに対して舌を出して笑えばユウキが小突いてきた。
イタイ。
俺は包丁のセットと、三徳包丁を1丁手に取る。
金額的には……ま、スーパーで買うそれとは比べ物にならないが、買えないほどの額でもなし。プレゼントにはもってこいってくらい。
清算するとき、店員さんに少し目を見開かれて驚かれた気もするが……何。6歳児が買い物して悪いか。……穿ち過ぎか。
清算を済ませると、ユウキも包丁を一丁手にして店員さんの方へ行く。
結局買うんだぁ……
「蓮華さんはかわないの?」
「れんれんはねぇ。お気に入りがあるから今日は良いのだ」
ちょっと影の滲んだ苦い笑みを浮かべる蓮華さんに、俺はそれ以上触れるのはやめようと思った。
なんか、変な闇を踏み抜きそうな雰囲気がある。
「それよかハルト君は良い買い物できたかい?」
「満足いく買い物でした。あと、呼び捨てでいいっすよ」
「じゃぁ、君にもれんれんのこと、れんれんと呼んでいいぉ。又はちゃん付けを許そう。……つか、さんづけがなんかむずがゆい」
「じゃぁ、蓮華ちゃん?」
「わあい。やったぜ」
精神年齢が低そうな喜び方をする蓮華さ……蓮華ちゃんを横に俺はユウキを見る。
……
ハネズより大人っぽいとか思ってたが……まさか……まさか、ね……。
おばあちゃんになると赤ちゃんに戻っていくとかいうけど、蓮華ちゃん、そんな感じなのか? 見た目的にはまだまだ若いけど。……長く生きてるくさいし?
「ハルトくんやい。女性に年齢と体重関連の話はご法度だぞ」
「……口に出てました? 蓮華ちゃん」
「口には出てないけど、考えてたんだね?」
カマかけだったか……。
俺はしくじったと顔を歪ませた。
素直に謝罪するのが得策かと、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「素直で良い子だなぁ、君は。ユウキとは大違いだなぁ?!」
「あにおう? ……まぁ、うん……そだね」
蓮華ちゃんの言葉に、後半尻キレトンボというか、凹みだすユウキ。
蓮華ちゃんが「あっあっ……ごめ、そんなつもりじゃぁ……」と慌てながら慰め出すくらいには凹むユウキ。
……何があったのん……。
いや、300億年以上生きてるらしいから、ユウキの中ではいろいろあったんだろう。それを思えば……寧ろ素直に生きてる方では? 俺よりよっぽど素直だろうに……。
死んだ目で凹むユウキに慰めようと慌てる蓮華ちゃん。
すこし離れてそんな二人を見ながら呆れた顔を浮かべる浅桐様。
そんな3人を見つつ、俺は、浅桐様と似たような顔で立っていた。
† † †
「さて、いい時間になったか……名残惜しいねぇ」
買い物も終えて、駅前の広場に戻ってきた俺達。
浅桐様が「来週テスト受けんの?」と問いかけてくる。
それに俺は逡巡し、それから首を傾げた。
「とりあえず、やった方が良いんでしょ?」
ユウキを見上げて言えば、ユウキは親指を立てた。
ネトゲさせたさに法の穴突こうとしてるんだが、悪い大人だなぁ……
「ハルトがTitanするなら、れんれんも復帰しようかなー」
「お、マジで? 待ってるよ」
「君に魔導士系究極職獲られたから、萎えてたけどさぁ。期待の新人が入るっていうならモチベとしては十分だよねー」
究極職……なにそれ。かっこよ。
「ふははは。魔神の座はあーげない」
「ぺっ」
自慢げに宣うユウキに蓮華ちゃんが唾を吐くふりをする。
仲が良さげで何よりだ。
「タイタンって、ネトゲ?」
「そ。TitanOn-Line。TitanもしくはTOLとか呼ばれてることもあるな。シンボル型じゃ、動作環境的にちょい悪いから、冒険者資格貰ったらサテライトもアップブレードだな。……どんな子がいい?」
「どんな子って……見た目の話? どんなんでもいいの?」
「いいぞー。……流石にうつぎみたいなのは無理だが」
ガチの女の子っぽいサテライトは俺も困る……。
「俺のサテライトはキーパー……ゲートキーパーな」
と言いながらユウキが自らのサテライトを呼び出した。
白い体毛に覆われた黒肌の、青い瞳を持つ羊といった見た目。
空中に二足歩行で立ち上がり、『何か御用?』と問いかけてくる。
ユウキにひつじってイメージはないけれど、これはこれでかわいい。
「れんれんのサテライトはメイジ・メイジ。魔女っ娘型だよん」
と、2頭身の魔女っ娘が飛び出してくる。
大きなウィッチハットで顔がほとんど隠れていて、ぶかぶかなローブのせいで体系もわからない、そんなサテライトだが手に持った杖とかで魔女っ娘ってわかりやすいデザインをしている。かわいい。
「翔真くんのサテライトはちょい珍しい現象型なんだよね」
蓮華ちゃんが言った瞬間、桜が舞った。
浅桐様のサテライトらしい。
「といっても、本体もちゃんといるんだが。ウィズダムのスノウフライと違って」
見れば浅桐様の肩にデフォルメされた甲冑の侍が座っている。
「ウィズダム? スノウフライ?」
「-七番街-の妖精王ウィズダム。しらない?」
「あいにく-八番街-のことも知らないので」
まだこの世界に生まれて6年だぞ。
でも、聞いたことあるような……あれだっけ? 竜の姫に恋した妖精の……?
「ウィズ君は竜の谷から出てこないからねぇ……」
蓮華ちゃんが苦笑する。
ああ、やっぱ竜の姫に恋して、鎖国していた妖精国を開国したり竜の谷に単身飛び込んで大波乱を起こしたあの……
絵本になってて、「話盛り過ぎだろう」と笑ったが、あながち盛ってるわけでもないらしくってドンびいた記憶がある。
「ま、サテライトのことは、おいおいでいいぜ? カスタマイズにちょい時間がかかるけど」
「なんでもいいなら……あれだ。こう……丸くてさ、手足が格納された丸い蓋がついててパカパカ開いて……はr……」
「版権はだめっすよ旦那ぁ……」
キャラクター名を言おうとしたら止められた。
そうか、版権はだめかぁ……。
「声は電子音しい声がいいなぁ……ネラエウテー……シールドビットテンカイ……」
「……ハルト君ってロボット好きだっけ……?」
愚問を問うユウキに俺はほの暗い笑みで返した。
「男の子で、ロボット嫌いな子、いるぅ?」
「愚問かぁ……」
そう言うユウキに俺は「愚問だよなぁ」と答えておいた。
「ともかく、来週のテスト、ガンバ」
「わ、わあい」
「気負うことはないって」
からからと笑う彼は、高ランク冒険者……もう過ぎたことなのでそう言えるのである。しかも、たぶんかなりかつての過去に済ませたことだからこそ。
そして、彼はおそらく忘れている。
学生は、テストという存在が嫌いなのだ。
テストと聞くだけでげんなりする生き物なのだ。
それを思い出して俺はげんなりするのである。
† † †
「……きゅっ!?」
きなこが気づいたのは、浅桐様と蓮華ちゃんとお別れして暫く……路面電車に乗り込んでからだった。
「あ、気づいた」
キャリバックの蓋を開けると、きなこが顔を出してくる。
元気そう。安心した。
「結構な時間意識失ってたなぁ……」
ユウキが言う言葉に俺は頷く。
2時間程度意識がなかった気がする。
電車のドアが閉まって走り出した。
揺れる電車のなか、きなこは周囲を見渡す。
俺とユウキ以外乗客はいない。
実質の貸し切り状態。やったぜ。
「結構、疲れたなぁ」
ユウキが腕を伸ばしつつ呟く。
「来週でお出かけは一応終了か」
「おう。俺もようやく通常業務だよ」
「魔術講師だっけ?」
「そ。……でもまぁ、そろそろ……いや、まだいいか」
「なに?」
ユウキがもごもごと何か言いかけて、やっぱりやめる。
そんな態度は気になる。俺は首を傾げた。
そんな俺にユウキは「何って……きなこ、前にたまにうち来て修行の続きしたいって言ってたじゃん?」と、ひとさし指を立てる。
「言ってたな」
「それで、スケジュール決めるのに、きなこもサテライト持ってた方が楽だけどさ」
「きなこきゅっきゅちゃんじゃん」
市民権の得れないペット扱いの子なので、サテライト契約なんて……って、そういえば、きなこって人型擬態が取れるなら市民権獲得のチャンスあったんだっけ。
「来週、一緒にとったらよくね? きなこの市民権チャレンジ」
……マジで?
……まじか。
「でも、魔力効率悪いんじゃ……?」
「だから、これを何個か授けよう」
と、高濃度魔導結晶を虚空から5つ取り出したユウキがそのままきなこに手渡す。
ごろごろとキャリーケースの中に落ちていく魔導結晶達。
やべえな。これ一個で豪邸建つやつが5つも……。
「家に帰ってから一週間。人間モードをとり続けるようにしな?」
「きゅっ!」
あいっと挙手するきなこに「いい子だなぁ」とユウキが頭を撫でた。
ちゃんと師弟してるんだなぁ……。
ほのぼのしてしまう。
そして、数拍。
「はっ?!」
人間モードになる?!
ユウキの言葉を反芻した俺があることに気づいてその場で跳ねる羽目になった。
「もう人間モードになれるの!? きなこ!?」
俺の驚きに、ユウキどころかきなこも、呆れたような顔をした。
「……何のための修行だったと……?」




