#72 6歳児にゲームを勧める悪い大人しかいないんかここは。
ちょっとびっくりした。
やっぱ神って神なんだなぁ……
泡拭いて失神したきなこが息を吹き返すまで、緑茶を啜って待っていた。
意識を失うと液体っぽく蕩けて平べったくなっていた。
こういうところを見ると、きなこ……きゅっきゅちゃんってスライム系統の魔物なんだなぁと思わなくもない。
残った口から泡がこぽこぽ拭いてるのは、見た目がシュール過ぎてヤバイ。
……緑茶うめぇなぁ……。
きなこから目をそらして、俺は現実逃避に走る。
現実逃避ついでに、浅桐様に聞きたいこと聞いとくか。
そう思って俺は浅桐様を見る。
浅桐様も、緑茶を啜っていた。少し、冷や汗をかいているっぽいのは、きなこが失神していることに対する負い目だろうか。
……魔物が失神するなんて思わないよねぇ……そういうところ、きなこは魔物らしくない……のか?
「溶けてるところを見ると、スライムなのに、スライムっぽくないねぇ……」
溶けてるきなこをつんつんと指で突きながら蓮華さんが可笑しそうに笑っていた。
「やっぱそう思います? 俺はスライム、生で見たことないですけど」
「あはは。その歳で-街-の外にいくことないもんね」
「-街-の外へ出る外堀は絶賛埋められているところですが」
緑茶をすすりながら蓮華さんを見ると「あははー」と朗らかに笑ってから急に真顔になり「迷惑?」と問うてきた。
感情がジェットコースターか、この人。
「きゅっきゅちゃん牧場を買い取るには大金が必要なので、迷惑ではないですよ? 今すぐ冒険者になって金稼げと言われたら困りますけど」
素直に答えれば、蓮華さんが「うひゃひゃっ」と爆笑しだす。
「5歳で冒険者やれは、流石に犯罪だぁ。つか、未成年就労は原則違法なのは君もしってるだろ? ま、推薦状とか外堀を埋めてるのは確かだけどねー。ギルマス、さては言ってないな?」
蓮華さんと一緒にユウキを見れば、ユウキは楽しそうに目を細めて首を傾げていた。
「一度に言ったらびっくりしちゃうじゃない?」
悪びれもなく宣うユウキに、俺はげんなりしてしまう。
いや、まぁ……大量のことを一度に言われたら確かに混乱するかもしれないが……情報抱え落ちされても困るので、さっさと吐き出すもんは吐き出してほしい所存である。
「報連相はちゃんとしてほしいって、苦情言っていい?」
「えぇー? ま、蓮華になんかあるってバラされたし、しゃーないね? あんま急いでるつもりもないんだが……推薦状をさっさともらった理由は2つあってなぁ。一つはさっさとハネズに会わせたかった」
「あれ? ハネズ帰ってきてんの?」
話をぶった切ったのは蓮華さんだった。
蓮華さんは目を瞬いて、初耳―って呟いている。
「ずいぶん昔に帰ってきてるよ……つか、最後に世界を出たの、こいつを連れてきた時だからもう10年前くらいだろ……」
「?」
10年?
今度は俺が首を傾げる。
それにユウキが苦笑した。
「シームレスに異世界転生できるとお思いか?」
……
「いや、知らんて」
「そらそうだ。……が、そこらへんの理屈を口で説明するの、めっちゃ難しい……」
両手……というか指をわちわち蠢かせつつユウキが呻く。
その動き、マジ気持ち悪いんだが……。
「詳しい解説聞いても多分、理解できない」
「それもそう。端折って説明するならば……魂の再構築と適合に4年くらいかかってんの」
「再構築と、適合……」
「そら、地球に似た環境といいますけどね? 魔力やら魔法やら……やっぱ異世界なんすよ……こっち。魔法やら別法則だってあるしねー」
「へー……」
やっぱわからん。
どっから情報が……それも結構重要な情報が落ちてくるか謎だから、ばっさり話を切るのも怖いのだが、延々だらだらと脱線話に花咲かせて、本題を聞きそびれるのも、それはそれで怖い。こう、叩けば埃のようにいろいろ落としてくれそうだから、どこまで掘ればいいのやら……。
まぁ、話は戻すか。一番重要そうな情報、今から話す本題だろうし。
「で、二つ目の理由は?」
「ネットゲーム、やる気なあい?」
「なーんで、幼い子供にゲームさせようとしますかねぇ」
「そりゃ、イメトレよイメトレ」
ハートマークを飛ばしつつユウキが笑う。
顔良いからって、きゃぴきゃぴしやがって。
「特防連で訓練とかもあるけどさ? イメトレだけなら今からでも早くないしー? 実際に死なないから気やすいだろ?」
「6歳なんだが」
「やったねハルト君! 廃人プレイヤーが増えるよ!」
「おい馬鹿止めろ! ほっんとやめろ……」
星が飛ぶようなウィンクをしてふざけるユウキに、俺は切迫した顔で制止叫ぶ。
いや、アレの原典は呼んだことはないが、ミームとしては知ってるからな。
原典は……俺は対象年齢じゃなかったからね……いや、そもそもジャンルとしても俺には受け付けないが……俺はハピエン厨なんや……。
「つか、俺6歳だから、ネトゲするにもまだ6歳足りないって」
「そのために、冒険者登録するんだろー? 来週テスト受けに行こうぜ」
「……冒険者資格って、割と特権だよな……」
ワープ使用権とか、一部割引とか、特防連関連施設使用権とか……
「お気づきになられましたか……」
したり顔で胸を張る蓮華さん。
……なんであなたが自慢気なんです。
「まぁ、冒険者って死んだり怪我したりする率も高いけど、居ないと困る職業だからなぁ……結界だけじゃ魔物を防げないし? 給料だけじゃ足りないから特権も付けちゃう感じ?」
「ダメなの? 結界だけじゃ」
「顔パスがいますし、スライム系は結界すら侵食して壊してくるから……スライム系が出てきたら上級冒険者は徴集されるんすよ」
顔パスと言いながらきなこを掲げるユウキ。
きなこはまだ気を失っているのでどろっどろに蕩けていた。
まだまだ意識は回復していないらしい。お労しい。
結界を侵食するスライム系や、そもそも顔パスになっちゃうきゅっきゅちゃんって……しゃれにならない存在だな……。特に、顔パスだし小さくて隠密性のあるきゅっきゅちゃんがやばい。こいつらに攻撃性がなくって良かったな……。牧場で飼い殺ししているのも、残当といえば残当なんだな……。
「ってか、魔物が顔パスできるってやばくね? 対策できねえの?」
「んー……今はきゅっきゅちゃんも通さないようにしてるけど……結局鼬ごっこだからなぁ……ほら、元は俺じゃん? システムだけど。元が同一だから手口もお互い筒抜けでなぁ……だから、対策されても対応されるといいますか……」
「あぁ……なんというか……」
対症療法はあるけど、根本治療が出来ないというか。
遠い目で釈明してくれるユウキに、俺も遠い目になった。
やっぱ魔物、こえぇわ……
まだまだ人海作戦に頼っているので、なれる素質があるやつは一人でも多く冒険者になってほしいっていう実情があるから、ユウキも焦ってんのかね。
でも俺6歳よ?
あとアンタ施政者じゃないよね……愛国心か? でも本拠地フェンファーゲンじゃ……?
……まぁ、いいか。
思考することを諦めて、違うところに目をつけようと思う。
あれだ。
「来週テストって、いきなりやって大丈夫なの? 筆記とかある?」
「心理テスト的なもんはあるけど、文字読めるなら大丈夫では?」
「テスト苦手だなぁ……」
「寧ろ、実技の方が心配じゃね? 近接だろ?」
俺がぼやいてると、浅桐様が問いかけてきた。
実技もあるのかぁ……
実技……実技!?
「実技って、俺剣を振るったことなんてないぞ?!」
「そこはほら、講習あるし……ランク付けの為のやつだから、そこまで技量は必要ないかな」
何気なく言ってくれちゃってるが、ハードル高いよねぇ!?
「一回やってみたらあ? 案ずるより産むが易しってやつだよぉ。不合格になっても、再挑戦できるしぃ。どうせいつかは冒険者なるんでしょー?」
「や、そうだけど。そうですが」
でも来週って、早すぎない?
早すぎない? と周囲を見れば、全員が首を傾げていた。
畜生、こいつら子供時代を遠い過去に置いてきてるから……!




