#71 あ、浅桐様何しやがりますかあああああああ!
「少年ー。腹減ってないか! 焼きおにぎりいるかー?」
と蓮華さんが大量の焼きおにぎりを大皿に乗せてやってきた。
それに浅桐が「あっためすぎ! 全部あっためたんか?!」と冷蔵庫へ駆け出す。
俺はありがたく一つ頂戴した。
ユウキも「俺もくれー」と焼きおにぎりに手を伸ばす。
……うっま。
「ところで、何で浅桐様って、関西弁なんですか?」
「おん? かんさい、べん?」
首を傾げる浅桐様に、俺は内心しくじった、と思った。
いや……こってこてな関西弁喋ってるんだから、知ってると思うじゃん。
「日本語って、こういう喋りちゃうん?」
首をひねる浅桐様にユウキが「それ、シヴァに騙されてるよ。ま、関西弁も日本語だけどな。ほら、共通語でもエルフ鈍りとかあるじゃん」とフォローしていた。
それに浅桐様が納得、と手を打つ。
「なーほど。え、てかシヴァ、酷ない?」
「アイツも、あいつでなんで関西弁か謎だけどな。ヒンディーか、英語じゃねえのかよ。それかサンクスリット?」
ユウキにとっても謎らしい。
けど、シヴァって、呼び捨てしているが……ヒンディー語やらサンクリット語という単語が出てくる時点で、シヴァ神であることは確定的で……
なんでそこが繋がってんだよ。と俺からすれば絶叫したい気分である。
最早キャパオーバー。
「ん-……堕ち人で元日本人やって、聞いてたからさ、日本語で喋ろおもたんが、えらいアテはずれたなぁ……すまへんすまへん……」
「いえ……ユウキと同郷ですし……関西圏住みなんで……別に……」
懐かしいなぁとは思うけど……別に……ねぇ……。
「共通語で良いですよ……普段どおりでお願いします……」
共通語に戻して言えば、浅桐様が後頭部を掻いた。
「や、本当……変に気を巡らせたというか……こんなはずじゃぁって気分」
焼きおにぎりに手を伸ばしつつ不貞腐れる浅桐様に苦笑を返す。
いや、お気遣いはありがたいんだが……もう6年こっちで暮らしてるしね。
俺は転移ではなく転生だからか余計に、前世は前世と割り切ってしまっているところもあり、日本語で話しかけられても戸惑いの方が強くなってしまっている。
こっちの住人であるという認識が強いんだろう。きっと。
ま、あっちに戻りたいって感情も……ないしね。
爺さんには悪いとは思いつつも。
そもそも、俺は橘悠人の記憶を引き継いでるが、生まれ直しており、個人としてはハルト・アーバインである。今さら前世に戻って、じいさんに会っても……同省もないんだよね。見た目も全く違うし。
「……今まで日本語で通じてたってことは……蓮華さんも堕ち人なんですか?」
「そだよー。蓮華さんは転移だけど」
「じゃぁ、人間のままなんですか? ホモサピ?」
定命の種でよく神様と付き合ってるなぁと思ったから、聞いてみたのだが、蓮華さんは困ったように笑った。
「いやぁ? 元はホモサピだったんだけどねー? この世界、変性や変質に寛容だから……」
言ってる意味が分からなくて首を傾げると、蓮華さんは「にゃはは」と笑う。
「澪夢とおんなじ。元は人間だったけど、いろいろあって変性しちゃったから、もう定命ではない。澪夢と違って私は神様でもないけど」
「澪夢さんって神様なんですか」
ほんと、-八番街-って神様多いんだなぁ……
「んー……ちゃんと神格がある訳じゃないらしいんだけど……祟り神だよ? あの子。あっ……ごめん。言っちゃダメだった!?」
ユウキのジト目に気づいたらしい蓮華さんが慌てて口を覆っているが、もう遅いよね……
俺もユウキを振り向く。
「聞かなかったことにした方が良い?」
「本人の口以外からそういうの、言うの良くないと思うー。澪夢は気にしないと思うけどー」
蓮華さんに苦言を呈し、ユウキは俺に苦笑する。
知っちゃったもんはしゃーないけど、いちいち触れるのもいい気分じゃない……って感じかな?
返答の代わりに肩を落としてみせた。
しかし、だ。
澪夢さん、神様……しかも祟り神だったとは。
数回しかあったことないけどさ、ただもんじゃないとおもってたけどさ……
支部長補佐以上の爆弾をお持ちだとは……
今度会ったらやっぱ平服しとこ。
でもまぁ、祟り神だって他人から教えてもらうのは……普通では?
え、怨霊といか御霊とか、祟り神、荒神なんて大体伝聞だろうに……
でもまぁ、人を捉えてそういうの、あんま良くないのもわかるけど……。
悪口みたいだし……良い意味の言葉じゃないからねぇ……。
でも、本人の口から「私、祟り神なんですよ」とか普通言わんよな。
想像してもシュールだわ。
まぁ、性質としての祟り神であるとは、わかっているけれども。
この世界、割と面白いのが、やろうと覚えば変質・変性が出来る環境があるってところ。
人が神に成ったり、妖怪やそれ以外の何かになる土壌があるところだろうか。
流石に不老不死は神の特権らしいけど。しかし人のまま1万年以上生きることも出来てしまう。……ま、その場合人間ではなくなってるけどね。
この世界で言う「人」というくくりは、知性ある種族である、というのとほぼ同義である。
だから、ドラゴンや神も人のくくりに入ってしまう。
まぁ、知性あるならばすべて人か、といわれると……きなこみたいな例があるので、何とも言えないが……おおよそ、ニアリーイコールなのは間違いないことだ。
いくら知性がありそうでも、魔物は魔物である。
それは、この世界の《《人》》が思っている常識である。
きなこが蓮華さんから焼きおにぎりを貰って「きゅっきゅ!」と鳴いている。
ありがとう、といってるのだろうか。
蓮華さんは「よくおたべぇ……大きくなるんやでぇ……」と生暖かい目できなこを見つめつつ言っている。……すげぇ顔である。
きなこはきなこで、焼きおにぎりのおいしさに気づいたらしく、目をピカピカ輝かせながら2個目を貰ってるし……。良かったね……。
「きなこー、あんま食べると晩御飯食べれなくなるぞー?」
「きゅ!」
晩御飯が食べれないのは、困る、とばかりに焼きおにぎりの2個目を口に入れると、蓮華さんの前でぺこっとお辞儀をする。
それから机の周りをぐるぐると2周走ってから俺の膝の上に鎮座した。
おかえり、きなこ。
「そのきゅっきゅちゃん……きなこちゃんは賢いんだねぇ」
「蓮華さんはきゅっきゅちゃんに会ったことあるんですね」
「うんー。きゅっきゅちゃん牧場にはたまに行くよー。あいつら、集団できゅっきゅきゅっきゅしやがって……ふへへ」
……言ってる言葉と表情が合ってない。
たまに行って大変癒されているようだ。
やっぱり、きゅっきゅちゃんって、あんな場所で埋もれて良い存在じゃないよな……なんか、何人かには認知されてるみたいだけど。
……俺の目標はこの世界をきゅっきゅちゃんで埋め尽くすこと……
いっぱい増えていただいて、QOL爆上げして頂いて……
俺はきゅっきゅちゃんに囲まれ……挟まれ……潰されて……幸せに生きるんだぁ……。
そのためにはやはり牧場を買い取る。
……のにお金が必要だから、金稼ぎをしつつ牧場管理のノウハウを学ぶのだ。
やることいっぱいだな。
ふぅ、と吐息すれば、ユウキが微笑している。
なんだあ? その生ぬるい目はぁ。
「9人に会ったわけだが、どよ?」
「んー……そうそうたるメンバーだなぁ……と。全員で集まることなんてあるの?」
「ゲーム内ではちょこちょこ。オフ会もするぜ?」
「仲いいのねー」
「流石に、リアルがアレな面々バッカだから……俺も含め。オフで揃うことはまずないけどな」
話に割って入ってきた浅桐様が苦笑する。
アレって、あれですよね。リアルがすごすぎるからって意味……。
そら、神やらなんならが一堂に会するとか……出雲のアレか?
一回見てみた~い。
この世界には神族がたくさんいる。
それも、実体化し、人々の見るところにいる。
この世界は、有史から2万年以上が経つが、いまだ神代なのだ。
だから、
「一度は神様が一堂に会するところ、見てみたいなぁ……」
ぼそっと言った一言に、ユウキと浅桐様が俺を見た。
「えっ、いや……それはちょっと……」
「やめといたほうが……いいと、おもうなぁ……」
二人とも引きつった顔でそう、言った。
……?
そんなやばいこと、言ったのかしら。
「そもそも、宗教でも一神教と多神教って明らかに矛盾っていうか……相性悪いじゃん? そういう土台がある神様だからさ。一神教の神は、その成り立ちから他の神様と相性が悪いんだよ」
「お前一神教の神じゃん」
ユウキに対して俺が言えば、ユウキはにへっと笑う。
なんだったら浅桐様も一神教の神だし、ここに2柱の神が存在していること自体が矛盾の塊なんだが……。
そして自慢するように、胸を張る。
「俺はほら、心は日本人だから」
「すんげぇ矛盾を言ってるのわかってる?」
「俺を唯一の神と思ってるやつはいるけど、俺と宗教は関係ないからねぇ……思ってるやつに訂正する気もないけど」
「人間から神に成ったから?」
人間であった時代に培った価値観があるから、他の神とは違うのか? と問えば、ユウキは苦笑しながら首を振る。つまりは否定だ。
「いや? 人間が存在する前から神だったから。……って。俺みたいなイレギュラーの話は良いんだよ。俺は特段イレギュラーが多いんだから」
イレギュラーな自覚はあるんだな……でも確かに話の骨を折ってる気はするので、俺は真面目にユウキの話を聞く姿勢をとる。
ユウキは人差し指を立て、教師が授業をするように言葉を紡いだ。
「ともかく、他宗教、多くの神を受け入れているこの世界だが、それなりに住み分けやらルールをもって神たちは暮らしてるの。それを、一か所に集めたら……大混乱必死だぞ? 出来ないこともないんだが……やらんほうがこの世界の為だ」
「大体の神はこうやって、自分の神域を作って引きこもってるしね。俺も祭事とか、何かがない限りは奥の院かここにいるようにしてるし」
ユウキの言葉を引き継ぐように、浅桐様が笑いながら言う。
「そもそも、神って、他の生命と比べて魂の密が圧倒的なんだよ。存在というか? 浅桐が初めに言ってたろ? 『その気になったらみんな委縮する』って。意識して威圧しないようにしてるんだって。神はあるだけですべての存在をひれ伏せられるからね。そんなのが一堂に会してみろ。圧倒される前にみんな死ぬぞ」
「そ、そんなに……?」
「浅桐君、ちょっと本気出す気なあい?」
「……まぁ、俺の方が適任か」
にっこり笑顔で提案するユウキに、浅桐様は吐息し「外、出ようか」といって玄関の方へ歩いて行った。
何気ない一言だったんだが……なんかとんでもないことになってる?
ちょーっと、背中に冷たい汗が流れてる気がしないまでもない。
けど、気のせい……気のせい……だよね?
浅桐様の後を追って外に出ると、浅桐様は家から少し離れた広場に佇んでいた。
家から出た俺に気づいて、浅桐様が手をあげる。
そして、少しまだ距離が開いているが「そこでいてな」と制止した。
言われたように立ち止まると、ユウキが俺の肩に手を置く。
「ん?」
「まぁまぁ」
によっと笑ったままなあなあにするユウキに俺は首を傾げたが、浅桐様が「ちょい深呼吸しなー。はい、すってー、はいてー」と促すので、素直に従った。
こういう時に逆らったら碌なことにならないって、俺知ってるんだ!
数度深呼吸を繰り返した瞬間
圧が来た。
俺は思わず息を止め、仰け反りそうになる。
が、ユウキが支えてくれているので倒れない。
このためのかー。と思ったがもう、遅い。
それは、浅桐様が神としての存在を隠さなくなった、だたそれだけで起きた圧だ。
実際に風が吹いたわけではない。魔力が動いた気配もない。
ただ、存在が圧として感じてしまうくらいに密なだけだ。
浅桐様は、薄く笑っているだけである。
別段何をしたというわけでもない。
数舜の出来事だったはずなのに、永劫に感じるくらい、長い。
が、圧倒的な存在感は唐突に消え失せた。
そして浅桐様が「気絶しないとは、すごいなぁ」とほめてくださった。
「威厳ないとか、ナマいって申し訳ございませんでした」
「くるしゅうない」
にこにこ笑顔で許してくださった浅桐様は、寛大な神様なのだろう。
俺は感謝と、尊敬の念を抱くことにした。
ついでにきなこは気絶していた。
というか、家の中で泡拭いていた。
「わああああ、しっかりするんだ! きなこちゃん! 傷は浅いぞー!」
慌てふためく蓮華さんがきなこの前で奇妙な踊りを踊っていたが……
俺は見なかったことにするべきなんですかね……?




