#7 遠足の前日って、なかなか寝れないし、早く起きがちだよね……だよね?
おはようございます。ただ今午前6時です。
まあ、いつも通りの起床だが。
楽しみすぎてあんまり寝れなかったねー。
『外側』では既に会ってるけどさ、5年ぶりの再会だし? ようやく、あの可愛い生物をまた、間近でみれるなんて……素晴らしい。
今度はいっぱい愛でるんだ。何食べるのカナ?
猫みたいな見た目だったが、性格も猫っぽいのかな? じゃらしとかでじゃらせるのかな?
わくわくと胸を踊らせつつ窓を開けて部屋の空気の入れ替え。
……あー、春の風は心地いいですなぁ……。
……といっても、もう夏近いからね……ちょっと暑い。
着替えてから再びベッドに座る。
サテライトを呼び出して、ウィンドウを開く。
サテライトは銀行口座……というかお金の管理をする他に、電話やチャット機能、ネットでの調べ物などスマホのような機能がある。もちろんゲームもできる……が、シンボル型のサテライトは燃費がいい反面性能はさほど良くない。その上俺は5歳なので、親から多くの機能を制限されている。
まず銀行口座はあるのだが、俺はさわることができない。あとは特定の時間(具体的には深夜から早朝にかけて)は動画が見れないとか、通話も両親しか登録してない。ゲームはもちろん知育系のパズルとかそういうのしかない。
前世が読書オタクというか、ライトノベル大好きっ子だったので、インターネットの海でネット小説を読み漁れないのは痛い。が、絵本のサブスク契約はしてくれているので、読んだりする。
最近は『ふわふわひつじさん』シリーズばかり読んでいる。いや、結構読み応えあるし、面白いのよ。
ふわふわな体毛をもつ変わった羊のふわふわひつじさんが森の中で友人と物々交換して暮らしている話から始まり、女の子に捨てられた動いて喋るぬいぐるみであるポーラと旅行に行く話や、季節の果物を食べに行く話、街に買い物に行く話など……日常の、ありふれた話なのだが、イラストが優しいタッチで書かれているし、可愛くって和んでしまう。
絵本ながら文章もしっかり書かれていて、児童本に近いボリュームがある。
そして何よりサテライトが読み聞かせてくれるので、語学勉強にもうってつけなのだ。
1時間ほど読書にふけこんでから、サテライトにラジオ体操を流してもらう。かるーく運動、ね。
最後に窓を閉じてから部屋を出た。
窓を開けっ放しで放置すると虫さんが入ってくるからね。あまり得意じゃないのよ、虫さん。
階段を降りて、洗面所で歯磨きと顔を洗い、リビングへ行けば母君がキッチンで朝食を作ってくれていた。
俺は母君に挨拶してからカトラリーを用意する。
黙って待っててもきっと母君は何も言わないし、全て用意してくれるだろうけど、なんとなく動けるんだから手伝うようにしている。
なんとなく、いたたまれないというか。じっと待つのが性に合わないというか。
……思えば前世では小学生あたりからごはんは自分で用意していた。一人も多人数もあまり変わらないから家族全員の朝ごはんとお弁当を必要な人数分を用意していたわけだが……今は食器を並べることくらいしかしてないから楽なもんである。
と言っても、14歳の体と5歳の体は勝手が違う。
食器を落とさないように気をつけなければ。手が滑ったら大変である。
「ありがとうね、ハルト」
母君が微笑んでくれる。すこし気恥ずかしい。
照れ隠しに頬を掻いた。
「9時くらいに迎えに来てくれるっていってたから、ご飯食べたらすこし、散歩に行ってきて良い?」
幼稚園に行く日はやらないが、休日は家の周囲を軽く散歩するのが日課だったりする。
今日も本来は幼稚園に行く日なんだが、ユウキと遠足? に行くのでお休みを貰ったのだ。
ユウキ、俺に幼稚園を休ませるとは悪い子め。
まあ、きゅっきゅちゃんのためだ。致し方ない。
内心のわくわくが抑えきれずに顔がにやけてしまう。
母君は「あまり遠くに行きすぎないようにね」と散歩を了承してくれた。
アルヴェリアの国民性か、この辺の地域性か……はたまた母君の性格ゆえか幼児の独り歩きに割りと寛容だったりする。
流石にサテライトを活用してある程度の行動は見守ってくれているみたいだが、軽い散歩程度なら一人で行かせてくれたりする。
一人の時間欲しいもんね。お互いに。
パントリーから水筒を取って、台を引っ張ってきて冷蔵庫のお茶を出す。冷蔵庫は流石に踏み台がないと届かないんだよね……。こういうときはやっぱり、前世が懐かしい。あと10年もしないうちに追いつくけどね。
……追いつくよね?
いや、ほら……クリーチャーヒューマンは日本人より高身長になりやすい人種なのだが、こう……物事には個体差というものがついて回るからね……?
澪夢さんとか憧れるよねー。あのガタイ、あの身長……涼やかな麗人……ぐふふ。
「澪夢はやらんぞー」
口調は暢気なものだったが、ゾッとするくらい凍てついた声が背後からする。
「ヤ、ヤダナア……ユウキサン、ボクハネラッテナンカナイデスヨ……」
無意識に両手を挙げて降参のポーズをとりつつ振り返る。
ユウキはニコニコと笑っていた。
青い髪を後ろで三つ編みに束ね、ワイシャツにジーンズ、カーディガンを羽織っている。
昨日とあまり変わらない見た目。だが背後にはブリザードが吹いていた。吹雪いていらぁ……
前世の友人に威嚇なんて、殺生な……俺に男色趣味はないのです……そういうのは見るだけでいい……
「まあ、ハルトくんが澪夢にそういう感情ないの知ってるけどね」
殺気を消してそう宣うユウキに俺は脱力しながら吐き出す。
「なんじゃそりゃ」
胡乱げにユウキを見ると、ユウキはニカッと笑った。
「君はどっちかって言うと金髪碧眼の西洋美人が好みでそ? 確かに大和男児っぽい澪夢をカッコイーとは思ってるけど、恋愛感情っていうより俺もああなりてーっていう羨望。違う?」
「……」
前世の友人とはいうが、こいつとの付き合いはそんなに長くない。こいつは入退院を繰り返していたし、俺の友好関係は広く浅くだったから。
なのに、性的趣向まで言い当てられるのは……かなり癪だった。
だからこの件には何も言わないことにする。