#69 軽っ……軽いなぁ!?
階段を上り切ると、境内が見えた。
玉砂利が敷き詰められた、広大な境内である。
有名な神社で、今日が土曜日だからか参拝客もほどほどににぎわっている。
……縁日ではないので、ほどほどである。
しっかし……参拝客のほとんどが冒険者っぽい屈強なおっさんと……
主婦。
エプロンつけたおばちゃん! である。
いやぁ、刃物を司る神様だもんね! そして神社の下には……包丁の聖地!!
「……後で包丁買っていいかな!?」
「お前、ぶれっぶれだなぁ……いいけど」
許可を頂いたので、神様に参拝したら包丁買おう。いえい!
神社自体はさほど変わり映えがない。
普通の神社。
紅白というか、朱と白を基調にした社は、まんま、ぽい。
境内の奥に大きな本殿があり、その脇の小道は奥の院への道だろうか。
現状でも軽く登山だったから、これ以上は……しんどいなぁ……
と思っていると、赤味の強い茶髪の青年が近寄ってきた。
「いよーうユウキ!」
片手を挙げて気軽に挨拶する彼は、この世界では珍しいくらいの中肉中背で。赤味の強い茶髪を襟足で束ねている。前髪を片方に集めているため、左目は見えないが右目は紫色。……整った顔立ち。
うん。
「いいんですか、神様がこう気軽に出てきて……」
「駄菓子屋を営む神やら魔術講師してる神がいるんだから、今更だろ」
顔面を覆って呻く俺に、あっけらかんと答えるユウキ。
そうだけど。そうだけど……!!
「そっちのガ……少年がハルト君か! 南区からは遠かったろ! はるばるようきはったなぁ」
からからと笑いながらバシバシ肩を叩いてくる男性。
……今ガキって言いかけたな? ガキだけどね……否定できないけどね……。
と、いうか……俺は内心驚いていた。
浅桐様って、この世界固有の神様である……はずなのだが……
とても懐かしい話し方をする……と、いうか。
アルヴェリア共通語ではなく、日本語なのだ。しかも関西弁。なぜ?
「どうも、ハルト・アーバインです」
久々に話すから、大丈夫か? と心配だったが、ちゃんと話せた。
「自己紹介できてえらいなぁ。俺は浅桐翔真。よろしう」
そう思いつつ差し出された手を握手する。
こう見ると普通の……クリーチャーヒューマンに見える。
けど……
「神様ですよね?」
「正真正銘神様やで?」
首を傾げて答える神様……浅桐様を前に、俺はユウキを見上げた。
ユウキは苦笑している。
「威厳……ないですね……失礼な話ですが」
正直に感想を言えば、からからと浅桐様は笑う。
「その気だしたら大変やろ? みーんな委縮しよるし、人に紛れるんやったらこれくらいがちょーどえぇの」
「はぁ……なるほど?」
「ま、ここで喋ってると、巫がうるさいねん。ウチ行こかー」
かんなぎ……巫女さんか?
まぁ、こう気安い神様なら、巫女さんががみがみ言うだろうなぁ……とか思わんでもない。
「あ、しょーまくんやーい」
と歩き出した浅桐様をユウキが呼び止める。
顔だけ振り返って「ん?」と応えた浅桐様にユウキは「こいつ、神域が何たるかわかってないんだって。見せてあげてもらってかまいやせんか?」と俺の頭に手を置きながら言う。
そんなユウキに「ええでー」と気安く応え、「こっちゃ」と手招きしながら歩き出した。
「……バアル様とかでも感じてたが……」
浅桐様の後を追いつつ、俺は呟く。
「おん?」
「いや……神様ってみんなああなの?」
「人に親しくしたい神様は、みんな気を使ってるだろうからなぁ……」
「気を使ってる、か……」
「圧倒的上位だから、神様って」
ふふふっと笑いながらユウキは俺を追い越して浅桐様に突撃していった。
浅桐様が中肉中背だからか、女性型のユウキの方が背が高い。
ふざけ、絡んでいく様は……仲の良い友人のそれだ。
……。
べーつに、嫉妬してませんよー?
「きゅっきゅ?」
「きなこは今日もかわいいなぁ……。浅桐様に許可とれたら出してやるから、もうちょい我慢してくれなー」
「きゅっきゅ!」
顔を出したきなこに声を掛けると、『わかった!』とでもいうように引っ込んでいった。
改めてキャリーケースを背負い、俺は二人を追いかけた。




