#68 浅桐神社のおひざ元―! いやぁ、遠いなぁ!?
東北区が、浅桐神社が全域を支配している地区だ。
だからか、他の地区と比べて街の構造が全く違う。
大きく違うのは区の外周を回る鉄道。
南半分がないのである。
そして鉄道が南半分に走ってない理由なのだが……険しい山岳地帯なので、通せなかったっていう実情がある。
結界はないとこの区を維持できないので、意地で張ったらしいが、流石に鉄道を走らせる余力はなかったらしい。
しかも、その山岳地帯まるまる浅桐神社の神域となってれば……余計に、ね。
大体の区は幹線道路は車が通れるようにアスファルトで舗装され、中央区から見て放射状に走っているが、東北区だけは真ん中に走るぶっとい道は参道になっており、車が通れない。
それで文句言われないんだから、信仰の力は絶大である。
この区は鉄鋼の町でもあり、大体の家庭が炭鉱夫や鍛冶、鋳造業に従事しており住居兼工房という家が多いためか、居住区とか工業区とか区切っておらず、入り混じっている。
スチームパンクの町って、こういうのを言うのかな……いや、想像より数倍ゴツいが。
……あれだ。地上にある小ペクダ・バザード。ペクダ・バザード行ったことないけど。
ペクダ・バザードは、地下にある国である。
この世界には国は3つしかない。
工業大国ペクダバザード合衆国、魔法大国フェンファーゲン連邦、そしてすべてを受け入れるアルヴェリア王国。
すべてを受け入れると言えば聞こえはいいが、実際は闇鍋である。
種族も、宗教も、文化も、価値観も、全てを取り込み肥大したこの国は、いい意味でも悪い意味でもカオスである。
一応、ゾーニングというか、住み分けみたいなものはあるんだけどね。
現に東北区はノームやドワーフ族、コボルトが大半を占める。
あと熱心な浅桐神社の信奉者。
森や自然の少ない東北区にはドリュアス……ドライアドやエルフ族は生きづらい。
そういう種族は南区に多く住んでいるし、極寒の地でしか生きることができない雪女やイエティ、氷食族は専ら北区に住んでいる。
まぁ、じゃ太郎君の家族みたいに、ノームでも南区に住んでいることもあるし、東北区にもエルフはいないこともないんだろう。知らんけど。
そういえば、北西区もエルフの集落があるらしい。
曾おばあ様が言うには、あっちはゴリゴリの貴族主義の連中がいるから北西区に行くなら気をつけろとか言われてたっけ……。
南区のエルフ族はハーフやダークが多いんだよね……実は。
純潔エルフ……特にハイエルフは専らフェンファーゲンにいるし、アルヴェリア国民だとしても北西区で固まっているらしい。そこら辺の事情は良く分からん。
まぁ、混血からすると……純潔や曾おばあ様以外のハイエルフは怖い存在である。
理性とか抜きに、本能が一緒にいることを拒むというか……あれだ。被食者が捕食者に見つかった時のような。
……ハイエルフに会う機会なんて、庶民でアルヴェリア国民な俺には滅多にないんだけどさ、これ、生まれがフェンファーゲンだったら地獄だったろうな……
この混血エルフがハイエルフなど純潔エルフに感じる恐怖心は、クリーチャーエルフにはないものらしい。と、いうか、エルフ族以外には持ちようがないもの、といった方が良いのか。
そう考えると、やっぱ俺は曾おばあ様の曾孫で、エルフの血が流れているんだろう。……これ以外で特徴無いけどな!!
流石に参道を端から端まで歩くのは、長すぎるので、参道の真ん中には路面電車が走っている。ちんちん電車! ちんちん電車!!
石畳の参道の真ん中を路面電車の線路が突っ切ってる光景は……映え、だね……
停留している路面電車を背景にきなことパシャリ。いい記念が出来たな……
自撮り棒がなくても、カメラマンを雇わなくても、サテライトが最適な写真を撮ってくれるので便利である。
ついでに、この世界も線路への立ち入りは原則禁止されているので、ホームからの撮影である。当たり前なんだよなぁ……。
俺たちが乗り込んで数分、ゆっくりと路面電車は走り出す。
基本的には、路面電車と言っているが車が線路内を横断しない道路の作りになっている。そもそも、路面電車を挟んで、両脇は歩道だしね……じゃぁ、車は如何するんだと言えば……歩道のさらに外側を走っている。
つまり東北区の中央幹線道路は幅が馬鹿広い。
交差するところは車だけ地下を潜る仕様になっていて……路面電車と謳っているが本当かぁ? といいたいところである。
けど、踏切ないし、やろうと思えば横断できるんだよなぁ……ここの電車。
路面電車に揺られているとやはり眠くなる。
うとうとしていると、肩を叩かれた。
あっという間に終点に着いたらしい。
あっという間、というが……30分程度は揺られていたらしい。
……電車の入眠導入能力は半端ないな……。
電車から降りると、参道はまだ続いていた。
が、ここからは階段である。
駅の周囲は広場になっており、お土産屋や飲食店が集まっている。
その奥には工房や鍛造所など工業団地がひしめいているが、この広場の周囲は観光地らしい装いがうかがえる。
広場から神社の方を見れば……神社はまだまだ高い位置にあるらしい。
鳥居の奥、長々と階段が見える。
「……ロープウェーはないんですか」
「金毘羅さんにタメはれるけど、頑張れ!」
思わず口走った言葉は、ユウキの満面の笑みの前に砕け散った。
金毘羅さんにタメはれるって……1000段前後あるってことよね……?
……がんばるぞぉ……おー。
「まぁ、ガチの奥の院までいくことはないじゃろ」
「奥の院?」
「うんむ。浅桐が祭事する場所。山一つ越えた先だから、時間的にも、ね?」
「……それは勘弁してほしいなぁ……って、浅桐神? 主神ってさ、ここに住んでるんだよな?」
「んー……」
どう答えたかなーといった風に迷った素振りを見せるユウキ。
それに俺は首を傾げた。
「えっとだなぁ……まず、神社ってさ、人が祈るための場所じゃん?」
「?」
「神様だって、実体持ってるのよ。こっちの世界。前世だったら……こう、ご神体に宿って……とかでもいいけど……肉体あって自分で動けるなら、生活したいじゃん? 飯食ったり、風呂入ったり、娯楽に興じたり」
「ふむ」
「職場と居住は分けたいじゃん? お互いの為に。だから、雰囲気あるいかにも『儀式するよー』って場所を用意して、普段は別の場所で暮らしているわけよ」
「ほんほん?」
「信者の身になってみろ。神がおる場所ですって案内される場所が普通の家……よくって社務所みたいな場所だったら萎えるだろ」
「あぁ……」
「だから、儀式をするばしょ、祭事をする場所はそれそうおうに荘厳な場所を作る訳で。それが奥の院とか本殿とか」
「……という事は、これから行く場所は?」
「プライベートだから」
そういってユウキはにこっと笑った。
「喜べ、神域に行けるぞ」
さもありがたいことを言っているらしいが。
俺は首を傾げた。
「神域って、ここじゃないの?」
神社の敷地は神聖な場所……つまり神域だろ?
きなこも良く分からんと、キャリーケースから顔を出して首を傾げた。
それにユウキも首を傾げる。
「……いや、神社は神社だろ? 聖域だが神域じゃねぇよ……まぁ、そこらへん聖職じゃないとわからんかぁ……神域は、ガチで神がいる場所だよ」
「……だから、神社がそうなんじゃ?」
「んー……どう言ったらいいか……次元が違うんだよなぁ……確かにこっちに神族は顕現するけど……神の世界というか……神が構築した神による神だけの世界というか……」
「???」
理解が出来ずに首をひねるばかりである。
きなこなんて首をひねり過ぎて体が雑巾みたいに絞られている。セルフきなこ絞り。
「行ったらわかると思う……わかんないなら俺の神域連れてくわ……」
「そういえば、神でしたね……貴方」
「そうだよ。……そうだよ……」
がくっと首を落とすユウキに俺は苦く笑うしかない。
や、だって、そんな感じしないし……
良くも悪くも旧友だから……君。
石畳でできた階段は、家の階段を比べればかなり急な部類である。
高齢者や幼児は登るの苦労するだろうなぁ、といった高さがある。
俺? 俺はほら……体力に任せてだなぁ……。
それでも登山している気分だ。まぁ、マジで山登りだが。
遠足で行った登山を思い出すなぁ……1000m級の山なんだが、登山道の一つが前面階段に整備されていて……へばった校長先生を生徒数人で押したり引いたりして登り切ったのは懐かしい思い出だ。
きなこを背負ったまま上っているせいか、きなこが時々「きゅっ」「むきゅっ」と鳴いている。ごめんよ、きなこ。
「きなこ! 大丈……夫?!」
「むきゅっ!」
鳴き方的に大丈夫そう。
すまん、しばらく大変だろうけど、がんばれー!
内心詫びつつ登る。
階段は急だが、時々待避所というか、休憩ポイントが設置されていて座って休憩する用の東屋とベンチがある。
そしてなりより階段の両脇には桜並木がみっちり植え込まれており、季節になればたいそう綺麗な風景だろうと思う。
また、春に来たいなぁ……
お弁当と、ジュースとか持って、さ。
母君はまだ妊娠中だろうから……来年はちょっと難しいかな。
再来年とかどうかなぁ……桜……団子……じゅるり。
休憩スペースとは別に、時々広場みたいな場所も見える。
お花見スポットだな。覚えた。
ちょっと再来年を楽しみにしながら、俺は階段を上り切ることに精を出す。
あぁ~体力作りに良いですなぁ~~~~!!!




