#66 あぁ……曾おばあ様可哀そうに……
土曜日だぁ!
毎週恒例になりつつある、俺を冒険者に推薦する人たちと会うイベント……という名の、俺ときなこがお出かけする日である。デートだデート。いえーい。
今日の朝ごはんは洋食ー。
サラダにー、スクランブルエッグにー、焼いたソーセージー。
……トースト―は各自焼いていただこう。スープはコーンスープ……インスタントだがな!
さくっと朝ごはんを作ったら次は昼ご飯の準備―。
今日は何作ろっかなぁ~。
ふんふん鼻歌を歌いつつ冷蔵庫の中身を漁る。
電車中で昼ご飯を食べたいので、あまりにおうものは困るなぁ。母君もにおいが強いものは避けた方が良いと思うしね。
ならサンドイッチにするか。
BLTとたまごとツナの3種盛りにするかー……とか考えつつ材料を出す。
卵はゆでたまごにしてから潰して、マヨネーズと混ぜる。ツナも缶詰から出しつつ解し、マヨネーズと会える。
ベーコンをカリカリに焼いて、レタスは適当な大きさにちぎり、トマトとキュウリも薄切りにする。
パンは耳を切って、バターを塗り、ベーコンとレタスとトマトを挟む。ソースはマヨネーズとマスタードを混ぜたもの。
後はたまごフィリングを挟み、ツナマヨ用にはキュウリもはさむ。
ラップでくるんで馴染ませ、出かける直前に弁当に詰め込もう。
6人分のサンドイッチを冷蔵庫に押し込むついでに昨日の夜仕込んだ牛乳寒天が固まっているか確認する。うんむ、イイ感じ。
流石にお弁当に詰めれないので、朝ごはんで出してしまおう。
牛乳寒天を切り分けていると母君と曾おばあ様、それに父上がぞろぞろと終結する。
「おはよう、母さんたち。ご飯できてるよ」
「ありがとう、ハルト」
「トーストとスープは各自でお願いします」
「ほんと律儀ねぇ……」
呆れ混じりの一言に、俺は曾おばあ様を見て首を傾げた。
そんな俺の頭を撫でてから曾おばあ様は母君を見た。
「……?」
なんだ?
† † †
朝食を済ませて、支度をし、お弁当を準備して玄関を出ると、玄関先にきなこがいた。
「きゅっきゅー!」
「おぁ~きなこ! おかえり~!」
飛び込んできたきなこを抱きとめて、わっしゃわっしゃと撫でまわす。
おや、少し……大きくなったか。
「きなこも成長してるんだなぁ……」
「きゅっきゅきゅー!」
きなこは嬉しそうに俺の胸に顔を押し付けてぐりぐりする。
かわいいのぅ、かわいいのぅ。
……と、
俺は周囲を見渡した。
「ユウキは?」
「きゅきゅっ」
きなこがぐりぐりを辞めて目を開いた。
金色の瞳がピカピカ輝いている。おぉー。めっちゃ綺麗。宝石みたいだ。
触手をにゅっと伸ばして外を指す。
その先を見ると、青い背中が蹲っているのが見えた。
きなこを抱えたまま近づくと、蹲った背中が何やら小刻みに動いている。
「……人ん家の庭先で何やってんの」
「おっと」
俺が声を掛けるとユウキが勢いよく顔を上げる。
淡い青銀の髪をみつあみに束ね、白いオフショルのカットソーにジーパンという格好をしている。
……こいつ、本性は男なのに、なーんでこう……エンジョイ勢か。
……耳にイヤリングを付けてるし。青い雫型の宝石に白銀の装飾がついたそれが耳元で揺れていた。
「いやぁ……あはは。とりま、君の母君に懐妊おめでとうって言ってくるかぁ」
「今曾おばあ様もいるんだよねー。へたなこと言ってくれるなよ」
「お、セレニエいんの? セレニエ元気ー?」
「見りゃわかるんじゃない? 元気だよ」
ユウキをリビングに案内すると、曾おばあ様が洗濯物を畳んでいた。
そして、ユウキを見て、驚愕し、部屋の隅、壁際に張り付くレベルで飛びのいた。
「あ、あああああ?!」
……ゴキブリを見た時みたいな反応だな。
「や! セレニエ! 元気そうでなりよりだぁ」
「ひっ!? あっ……えっ!? ……ちょっ」
あ、曾おばあ様が過呼吸になりかけてる。感情が高ぶり過ぎたか?
「落ち着け―。ほら深呼吸ー。すってー、はいてー」
曾おばあ様がそこまで取り乱すの、初めて見たかも。
ユウキが苦笑のままドウドウととりなしている。
が、それ、たぶん逆効果……
曾おばあ様にとってユウキは尊敬する大魔術師で、いわば、推しアイドルが間近にいるファンと同じ状況だろう。
いるだけパニックの原因になってるの、理解できてないんだよなぁ……こいつ。
……というか、思った以上に……曾おばあ様にとってユウキの存在ってそこまで大きな存在だったんだなぁ……
なんてぼんやりと考える。
あぁ、曾おばあ様可哀そうに、最早有頂天通り越して顔が青白くなっていっている。
「とりあえず、部屋で休んでこい、な?」
とユウキが曾おばあ様に言い、俺を見る。
顎で曾おばあ様を指すあたり、「付き添え」という事らしい。
俺は吐息し、曾おばあ様を客室へ連れて行った。
きなこが後を追ってくる。
「ハルト君やーい。俺はお母さんと喋ってくるよーん」
「あいよ」
応え、曾おばあ様を見上げた。
「曾おばあ様、大丈夫?」
「……取り乱して、ごめんね」
すまなさそうに謝る曾おばあ様に俺は首を振る。
「まぁ……自分の立ち位置に頓着ないですよね……あの人」
苦々しく苦笑で答えれば、曾おばあ様は俺を見下ろして呆れた顔を浮かべる。
「貴方の言動も畏れ多いと思うんだけどなぁ……ハルト君?」
「あ、あー……前世で同級生だったんですよ。アレと。彼の人はずいぶん過去に転生して、俺は……曾おばあ様の知っての通りです」
「なるほど? ……クラスメイト、かぁ……」
納得、と頷いて、それから俺の後ろに目線を向ける。
「その子がきなこちゃん?」
「きゅっきゅっ! きゅきゅっきゅ!」
上半身を起こして触手を伸ばし、やぁ、とでも言いたげに鳴く。
「きなこ、こちら、俺の曾おばあ様です」
「きゅっ!? きゅきゅきゅ……」
すごすごと五体投地の勢いで床に体をこすりつけるきなこ。
『これは失礼しました』とでも言いたげである。
「家族なんだから、そんな畏まらなくていいのよー。きなこちゃん、曾おばあちゃまは暫く家にお邪魔するから、よろしくねぇ」
手を差し出す曾おばあ様に、きなこは触手を伸ばして握手する。
「……スライム……ではないのね。知性もあるみたい」
ぼそっと呟く曾おばあ様。
俺は曾おばあ様を窺い見た。
細められた目の奥、光る眼光は鋭い。
「曾……おばあ、さ、ま……?」
曾おばあ様だって魔導教の司祭なので、魔術師としての腕は馬鹿にできない。
母君と違ってちゃんと修行を積んでいるし、今だって現役なのだ。
……きなこが魔物で、魔術師であるとはいえ……曾おばあ様がその気になると無事では済まされないだろう。
……が、無理やりきなこを奪って曾おばあ様を刺激したらそれこそ……きなこが危ない。俺が取れる手段はないに等しかった。
ど、どうする……?
しかし俺の心配をよそに曾おばあ様は苦笑を返し、きなこを撫でる。
「ミュリスやハルトが決めたんでしょ? きなこちゃんは家族だって分かってるわよぅ。そんな不安げ顔しなくて大丈夫よぉ」
「きゅっきゅっ」
曾おばあ様にだっこされてきなこが鳴く。ご満悦である。
曾おばあ様に害意がないことには安心したけれど……嫉妬しちゃう。
きなこは俺のだぞぅ? や、家族だけど。




