#64 正攻法じゃないかもしれないが、楽しんでるんだからいいじゃない
それから周囲を見渡した。
まだまだ昼食を食べている園児の方が多い。
岩食のじゃ太郎君もデザートらしいキラキラした石にかじりついていた。
「じゃーたろーくーん」
遠慮呵責なくじゃ太郎君に絡みに行く。
じゃ太郎君は他の子たちと比べて大柄だ。
ノームは大地から生まれる精霊に連なる種族で、基本群れも作らず単独で行動する種族だからか、じゃ太郎君も友達と積極的に絡む性格ではない。
のだが、大らかで優しい性格なので、話しかけたからといって邪険にすることもなく、ゆっくりとだが受け答えしてくれる。
こののんびり感もまた、癒しなんだよなぁ~。
「……はぁるぅとぉくぅんー。どぉーしぃたぁのぉー」
「今食べてる石って宝石?」
「そぉおー。しぃとぉりぃんー」
シトリンかぁ。俺にとってはキラキラ綺麗な石だけど、じゃ太郎君にとってはおいしいデザートなんだよなぁ……食文化って面白い!
「おいしい?」
「おーいーしぃいー」
バリバリと、せんべいでも噛むように砕かれる宝石に(あれ、いくらくらいするんだろう)とか思わなくもない。
シトリンかぁ……11月の誕生石だっけ? まぁ、前世の知識だが。
こっちの世界の誕生石は、また別にあるので、何とも。
じゃ太郎君はノームである。
ノームって小人ってイメージあるじゃん? でも、この世界のノームって結構巨体なんよね。
大地から生まれる精霊である彼らは、生まれながらに完成された見た目をしている。
ので、生まれた姿から変化しない種族だ。
2m近くあるが、精神が未熟なので、こうやって幼稚園に通うのである。
産まれた時点では精神は未熟ってところが神族と違うところなんだよなぁ……
ずんぐりした見た目で体毛がもっさもっさしており、つぶらな目が愛らしい。
ノームによって体毛の色が少々違うらしいが、じゃ太郎君は黄土色っぽい色をしている。
でっけーハムスターみたいで、かわいいんだよなぁ~。
いや、ハムスターというよりは某万博のマスコットっぽいが。
なんにしろ、俺にとっての癒し枠。
ずーっとそのままなじゃ太郎君でいてくれ。是非とも。
じゃ太郎君と戯れていると、また自由遊びの時間になる。
じゃ太郎君は絵本を読むらしいので、俺はユマ君に振り返った。
「鬼ごっこしようぜ!」
「あ、僕もパス。久々に制作したい気分なんだぁ」
速攻拒否られたので、俺はしょぼくれた。
まぁ、制作したい日もあるよね。
今日の製作は……けん玉を作るのか。いいね。
じゃぁ……俺は遊具で遊ぶか。
制作も楽しいものだが、今の俺は体力作りに勤しみたいのだ。
……
鉄棒に足を引っ掛けて、逆さまにぶら下がる。
その状態でブランコのように前後に揺れる。
ぶらーん、ぶらーん。
そうやって、他の園児が帰っていく様を見送る。
今日も曾おばあ様は少し遅れているようだ。
ぶらーんぶらーんと揺らしていると、曾おばあ様がやってきた。
「曾おばあ様!」
「ごめーん、今日も遅れたあ」
合掌して謝る曾おばあ様に俺は鉄棒から降りて走って近寄った。
「今日の晩御飯、肉か魚どっちがいいです?」
「……6歳児とは思えない発言ね……」
「明日の昼ご飯は生姜焼きにしようと思うんですけど……魚の方がいいですかね?」
「ほんと主夫じゃない。主夫……園児なのに」
なんかショック受けてるけど……やりたいことやってると思ってる俺的には、その表情は解せぬ。
「洗濯や掃除はお任せしてるんで、別に」
「ふつーは料理もあそこまで主体もってやらないのよ……」
「そんなもんですかねぇ……でもなあ、曾おばあ様にも曾おばあ様の日常がありますし? かあさんにばっか負担かけるのも何だと思ってますし……父さんは仕事で手一杯で頼りになりませんしねえ……」
「それにしてもって思うんだけど」
これ、寧ろ黙ってたほうが不親切かな……?
曾おばあ様なら俺が転生者って言っても納得してくれそうな気がする。
母君は言ったら最後、パニクって拒絶してきそうだけど……なんか勘ぐって怯えてた時期もあるし。
その点、曾おばあ様は説明したら納得しそう。
我が子ではないってある意味線引してるしね。
「ま、転生者なんで」
「でしょうね。っていうか、なんでいきなりゲロる気になったの?」
案の定、曾おばあ様は納得と言った体で嘆息した。
「下手に勘ぐってもらうのもアレですし? でも母さんには内緒の方面でなにとぞ」
「ミュリスには何も言ってないんだ?」
「というか、ユウキ以外だと曾おばあ様が初めてですよ。厄介事に巻き込みたくないですし」
転生者や墜ち人自体はそこまで珍しい存在でもないようだが、率先的に首を突っ込みたい案件でもないのはこちらの世界だって一緒だろう。
施政者ならともかく一般人なら尚更。
だから、積極的に吹聴したいものでもないし、する気もない。
「私なら厄介事に巻き込まれてもいいと思ってる?」
「そう思ってるなら全部ぶちまけますけど……巻き込まれたいですか?」
まっすぐ曾おばあ様を見れば後ずさった。
「……そう言われると困るわ」
そらそうだ。
「でもまあ、どん詰まりそうだったら素直に甘えなさい。可愛い曾孫が困ってるのにそっぽ向ける私じゃないから」
「じゃあ、ユウキに冒険者になれと言われてるんですがどう思います?」
「あいつは何を考えているの?」
あ、ついに曾おばあ様がキレた。
すげえ人だと知ってるのにあいつ扱いしだす曾おばあ様に俺は微笑むしかない。
呆れたように嘆息を吐き捨てた曾おばあ様は、俺の頭を撫でると困ったように微笑んだ。
「転生者だろうが、前世の記憶を引き継いでようが、貴方はハルトでしょ? まだ6歳で、遊んでていい年ごろなんだから、家族に……大人に甘えなさい。無理して大人にならなくていいのよ。そのために曾おばあ様が助けに来てるんだから」
「やりたいようにやってるんですけどねぇ……」
ほんとよ? 出来ればお菓子作りなんかもしたいけどねー。
……ゼリーとか作ったら母君食べやすいんでは? 果物ゼリー。いいね。
んまぁ……気持ちはわからんでもないんだけどねぇ……
前世でも、こっちの世界でも、6歳で料理をしてる子供なんてあんまいないだろうしねぇ……。
特にこっちの世界……というかアルヴェリア王国では「子供はしっかり遊ぶもの」「労働は大人のやること」って意識が強いらしくって、家事も手伝いは兎も角主体的にやるのはもっと大きくなってから……ってのが一般的らしい。
待ってらんねー! 俺は作りたいように作りたいの!
……母君の料理も好きだけどね? 絶品だし。
確かに甘えてても良かったんだが、母君が妊娠して、少しでも負担を減らしたいって思惑もあるし? ちょうどいいかなーって。
え? 曾おばあ様に任せりゃいいじゃないって?
……曾おばあ様はいい意味でも悪い意味でも俺にとっては他人だからなぁ……。
ずっと同居は、曾おばあ様のプライベート的にも無理だしね。
曾おばあ様は魔導教の司祭だ。
魔導教は、魔術の神を信仰する宗教であるから、信者の大部分が魔術師だ。
曾おばあ様も、司祭なので、もちろん魔術師である。
それはすごい魔術師なのである。
……俺には実感ないけど。
なんせ俺の知る他の魔術師がユウキときなこだから……
仕方がないよねぇ……ねぇ?
兎も角、魔導教の司祭というのは、宗教上の祭事を司っているのと同時に、熟練の魔術師でもあり、魔術学という学問の徒であるという……ぶっちゃけ、忙しい立ち位置なのである。
そういう立ち位置を知ってれば、産まれるまで……もしくは産まれたあともしばらくは居てくれ……というのも俺としては申し訳なく感じるわけで。
生まれてくる《《きょうだい》》は確実に俺より手のかかる子になるしな。
……それが健全であり普通だって俺だって認識してるが。
さて、帰ったらご飯作るぞー。
今日は明日のためにフルーツゼリーを仕込むのだ。




