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#61 な、なんですとぉおおお!?

 病院、病院って言われてたからさぁ。

 病気なのかなー? 内科かなぁって思うじゃん。

 まさか、産婦人科だったとは。


 産婦人科の玄関で待っていた母君は、思ったより元気そうだった。


「あ、おばあ様、ハルトも来たのね」

「ミュリス、どうだったー?」

 首を傾げる曾おばあ様。ミュリスとは母君の名前である。

 母君はふふっとほほ笑んだ。

「8週目だって」

 ……うん?


 俺は母君を見た。

 母君は笑っている。

 曾おばあ様を見た。

 曾おばあ様も俺を見て微笑んでいた。


 産婦人科。

 八週目。

 八週目……八週目!?


「父さん、やることはやってたんだねぇ……」

「ハルト……アンタさぁ……」

 しみじみという俺に、曾おばあ様の呆れた声が降ってきた。

「かあさん、とりあえずは、おめでとうでいいの?」

「そうね、しばらくはハルトにも迷惑かけちゃうかなぁ」

「……ご飯食べれそう? 八週目なら悪阻とかもあるのかな……すっぱいもの買ってく?」

「……ハルト、6歳よね?」

 心配する俺を見下ろして、曾おばあ様は再三言った言葉を再度口にする。

 6歳ですけどいい加減うるさいですよ、曾おばあ様。

「フライドポテトが食べたくなるって有名だけど、帰り道に売ってる場所あったかな……それともスーパー行った方が良い?」

「とりあえず、家に帰りましょう? ポテトは……今はいらないかな」

 苦笑交じりに答えてくれる母君。

 そうか、ポテトはいらないか。

 とりあえず、特に初期は大事だからな……無理させないようにしなきゃ……

 今日はごはん作れたし、家事を請け負える自信ができたので、そこらへん打診しよう。妊婦に無理させてはいけないのだ。

 

 そっかー、そっかー! 俺、お兄ちゃんになるのかぁ!

 前世でも妹がいたけど、アレ、実際は義理だし、血は繋がってなかったからなぁ。

 血のつながった、実の妹だか弟だかができるのだ。とてもうれしい。

 俺がお兄ちゃん……お兄ちゃんになるのかぁ……


 楽しみだ。


 家に車はあるけれど、運転できるのは父上だけなので、俺達はバスを使って帰宅した。

 帰宅して、ご飯を俺が作ったことがバレ、母君は少し呆れていた。

 けど、ご飯を食べて「おいしい」と笑ってくれたので良しとする。


 もういっそ開き直って、家事を請け負うよ? と打診してみた。

 特に朝ごはんとかは自分で用意するから、無理しなくていいというと母君は申し訳なさそうにしていた。

「体が大事な時期だから、休むことを重視して? 曾おばあ様もいるし、大丈夫」

 買い物や洗濯は曾おばあ様が請け負うとして料理は俺が主体で動くことにした。

 幼稚園も曾おばあ様が送迎してくれる手筈になった。

 よっしゃー。母君を楽させるぞー!

 

 母君は吐き悪阻といより、眠気悪阻のほうが強いらしい。

 ご飯を食べてそうそうにベットへ行ってしまった。

 ああ、だから今朝ここで突っ伏してたのかと納得。

 そういえば、最近の母君はちょくちょく眠たそうにしてたなぁと今更気づく。

 なるほど、眠気悪阻だったか。


「とりあえず、明日幼稚園に送ってもらったらついでに買い物行ってきてもらっていいですか? 曾おばあ様?」

 冷蔵庫の中身を確認しながら俺は曾おばあ様にお伺いを立てる。

 妊婦にゃ良質な栄養が不可欠である。キッチンの主導権ももぎ取ったし、作りたいもの……げふんげふん、おいしいものを母君に食べていただかねば……!

 足りないものをメモして曾おばあ様に渡せば「……何食作る気なの?」と問われたので「一週間分、僕の弁当もですが?」と答えといた。

「……一週間、足りる?」

「足りなかったら追加で買いに行ってもらいますが……」

「それもそうか」

「あぁ、僕、土曜日はユウキと出かけるんで、その日はお弁当でいいですよね?」

「……出かけるなら私がどうにかするわよ」

「ま、ケースバイケースで。朝食はパンでいいですよね?」

「……朝ごはんも用意するわよ……?」

「やっていいって許可もらったからやりたいんですよ。やらせてくださいよ」

「あっはい」

 曾おばあ様が何か悟った顔をしていた。

 ……6歳でここまで家事に積極的な奴なんて少ないだろうけどさぁ、いいじゃないか。

 前世の業だとは自覚もあるけど、やりたいんだから。

 最早趣味の境地でもあったんだからさぁ。

 前世と違って予算も潤沢だしやりたい放題していいって許可降りてるからねからね……! やったー。


「変わった子ねぇ……それくらいの年の子って、家事したいより遊びたいのほうが強いもんじゃないの?」

「遊ぶのは幼稚園でいっぱい遊んでるので? 身重の人に無理させるくらいなら家事させてほしいですねぇ……」

「曾おばあ様に全て任せていいのよ?」

「……曾おばあ様現役で働いてるじゃないですか。10カ月ずっといてもらうのも忍びないですし。できることは今からやりますよっと」

「……考えてるのねぇ……6歳なのに」

「6歳でも考えますよ」

 ジト目で返してみる。

 前世とか関係なく、6年も生きてるんだからいろいろ考えるだろ……

 幼稚園で関わる友人たちだって転生者じゃなくても、いろいろ考えてるぞ……?

 年少のころなんて、前世の知識がある分俺に対する違和感を敏感に感じ取って距離を置く子、それでもかかわってくる子、純粋に恐怖を感じて泣く子、そんな泣いてる子を慰める子……いろいろいたんだし。

 そんで数年関わって「ハルト君はハルト君だし?」と割り切って関わってくれる子、友人として接してくれる子、「何考えてるかわかんない」と距離を置く子……いろいろである。

 あぁ、俺に対して人生相談してくる子もいたなぁ……最近両親が離婚して、母親の方についていったが父親のことも気がかりで。でも母親は面会させたがらなくってどう言ったらいいかわかんない……なんて。

 ……難しい話だよなぁ……そう、難しい話も考えているのである。

 あんま、見くびらないでいただきたい。

「赤ちゃん返りを心配してた私がばかみたいねぇ……」

 曾おばあ様がそう笑う。

 それに俺は目を瞬かせた。


 赤ちゃん返り、赤ちゃん返り……か。

 5歳でも、なる子はなる、かもしれない。

 が、俺はどっちかといえば「お兄ちゃんフィーバー」の方が強いらしい。

 妊婦(母君)に無理させちゃダメってのもあるけど。

 ……酷かったからなぁ……前世。


 しみじみと思い返していると、曾おばあ様が「ハルト?」と声を掛けてきた。

 急にアンニュイな顔をした俺に不信感を覚えたらしい。

 

「なんでもないです。……曾おばあ様、しばらくこっちいるんですよね? お風呂、先入ります?」

「ハルトが先に入っちゃいなさい。そろそろ寝る時間でしょ?」

 時計を見れば確かに良い時間だった。

 俺は頷いて風呂に入ることにした。


 さくっと入って、曾おばあ様と交代する前に、曾おばあ様用にバスタオルを用意して声を掛ければ「ほんと、6歳?」と問われた。だから6歳だってば。

 

「じゃぁ、寝ますんで。おやすみなさいー」

「はい、おやすみなさい」

 風呂場へ行く曾おばあ様に声を掛けて自室へ向かった。


 † † †


 ベッドに横になってチャットを開く。

 相手は当然ユウキだ。


ハルト:ユウキー! 母君が妊娠したんだが! おめでた!!!!


 チャットを送れば、返事の代わりに音声チャットが飛んできた。

 

『妊娠ってマ?』

「マ。まだどっちかは謎だけど」

『ついにお兄ちゃんかー』

「お兄ちゃんだぞ。……っても、無理させたらダメだし、どう転ぶかわからない時期だからなぁ……とりあえずご飯作る権利はもぎ取った」

『おめでとう』

「きなこはどんな感じ?」

『隣にいる。感動しすぎて涙流してる』

「きなこー、きなこも母君ときょうだいを守ってやってなぁ。……でもきなこが無理しちゃだめだぞ」

『きゅっきゅ!』


 少し遠いがきなこの声がした。

 鼻水を啜ってる音も聞こえるが、元気そうで何より。


「そういえば、曾おばあ様にきなこのこと言ったんだよ」

『お前の曾婆さん……セレニエだっけ? なっつかしいなぁ』

「亡命の時に手助けしたんだって? うちの曾祖母がお世話になりました」

『大したことしてねえよ』

 カラカラと笑い声が聞こえる。

 それに俺は肩を竦めた。


「しばらく曾おばあ様が家にいるらしいんよ。きなこも退院するし? 曾おばあ様にきなこの修行風景とか見せて良ーい?」

『たぶん君のお母さんと似た反応するんだろうなぁ……絶叫させちゃれ』

『きゅっ、きゅきゅっきゅ!』

 きなこの頼もしい声が聞こえた。

 けど、曾おばあ様を絶叫させるのは困るなぁ……

 ハイエルフで見た目は若いけど、1000歳以上だからなぁ……曾おばあ様。


 重要なことは話したので、あとは世間話のようなことを10分ほどキャッキャしてそれから通話を切った。

 布団に潜り込み、目を閉じる。


 母君が妊娠かぁ……俺がお兄ちゃん……うふふ。

 完全にお兄ちゃんフィーバーである。けど、滅多にないイベントだしなぁ……!

 

 基本的に、異種族間の妊娠はしづらい。

 まぁ、母君はクオーターだし、だいぶ人間の血が濃いとは思うけれども。

 それでも、エルフ自体が妊娠し辛い種族で、さらに混血だからか妊娠する可能性は高くないらしい。だから、出来ても一人っ子が多い、らしい。

 ん、だが、兄弟ができると知ると、望外にうれしい。

 そら、フィーバーだってしちゃうってば。


「……父上、教えてもらったかな?」

 ま、チャットじゃなくても帰ったら誰かから教えてもらえるでしょ……

 父上用の朝ごはんも作らなきゃ出し、明日は早起きしなきゃなぁ……

 そう思いながら俺の意識は溶けていった。すやすや。

 

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