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#59 濃い日常を送ってる自覚がないわけではないのだけど……

 幼稚園は相変らず楽しい。

 小学校からは勉強が主体になるからなぁ……今のうちにしっかり遊ぶぞぉー!

 遊びの中から体を作るのです。体力づくりじゃー!


 最近は専ら外遊びで走りまくっている。

 やっぱ体力がモノ言うからねぇ! 体力があればすべて解決するんだよ。

 ふーはははは。


 まあ、おかげさまで現在幼稚園一元気な子供である。やったぜ。


 今日も全力で遊びたおして、帰ったら……晩御飯だな!

 今日は晩御飯を母君と作るのだ。

 しっかし、今日の母君……大丈夫だろうか。

 迎えに来なくって、病院に搬送されてるとか……ないよな……? 

 ナイヨネ?


 原則、幼稚園や学校内ではサテライトの使用は禁止になっている。

 緊急回線以外はオフラインにしないといけないのである。

 なので……母君が病院に搬送される事態になったら流石に連絡は来るだろうけれども、俺から母君にチャットや通話をすることは出来ないのだ。

 

 まぁ、やきもきしてもどーしょうもないんだよね!

 ……今は出来ることをするしかない。つまり、幼稚園を全力で楽しむ……!


 ……


 午前中の自由遊びが終われば昼食である。

 母君の作るお弁当は、今日もおいしい。

 今日はオムライス弁当だった。

 チキンライスにソーセージが混ざっているのがニクい。

 うまうまとありがたく完食し、お茶を飲みつつ一息ついた。

(……体調悪そうなのにお弁当用意してくれたの、ありがたいけど、やっぱ心配だなぁ……)

 内心やきもき、もやもやしつつ午後のカリキュラムをこなすと、思ったより早く帰る時間になっていた。

 

 が。


「……お迎えが来ない」

 周りの園児が保護者と一緒に帰っていく中、ぽつんと俺だけ残されている。

 珍しい。

 基本時間ぴったりに迎えに来てくれるのに。

 うーん、やっぱ母君体調悪かったのかなぁ。体調悪かったんだろうなぁ……

 もっと早く気づいたらなぁ……ちょっと甘えすぎてたかなぁ……

 ちゃんと家事しないとなぁ……


 なんて悶々と考えていると、予想外の人がお迎えに来た。


「はあい、ハルト。迎えに来たわよ」

「曾おばあ様?!」

 

 曾おばあ様。うん。曾おばあ様なんだ。

 見た目が20代後半くらいで、下手すれば母君より若く見えるけど。

 白いローブにストラをひっかけた姿の彼女は、長い銀髪を襟足で束ねている。

 長いエルフ耳は彼女がハイエルフだから、で……つまり母君はクオーターエルフで、俺にもエルフの血が若干でも流れているんだよなぁ……と曾おばあ様を見るたび思う。

 翡翠の瞳を笑みに和ませて手を振る曾おばあ様に「かあさんは?」と尋ねれば、曾おばあ様は苦笑を滲ませた。

「君のお母様は病院に行っててねぇ。お迎えの時間に間に合いそうにないから、曾おばあ様がお迎えにきたわよー」

 耳が長いことと、色が違うってだけで、大体のディティールが母君と一緒な上、口調や声が全く一緒なので、目を閉じたら母君と区別つかないんだよなぁ……曾おばあ様。目を開いているから曾おばあ様って理解してるが。

 ……ほんと、似てるな……。


 先生を見ると、事前に連絡が来ていたらしい。

 ちょっと困惑気味なのは、思ったより……いや、想定外に曾おばあ様が若く見えるからだろうか。……見た目20代だもんなぁ……曾祖母が迎えに来る言ってたのに。

 ハイエルフは身近に居る長寿種族の代表格だからなぁ……アレでも1000年ほど生きてるらしいから、ハイエルフの寿命って、反則だあ。


 ついでに、ハイエルフの1000歳は、人間でいう15歳くらいらしい。まじか?


 曾おばあ様が先生と話始めたのでその間に俺は帰る準備をする。

 といってもカバンを背負って靴を履き替えるくらいだけどな。

 話し終えるまで段差に座ってアリの行進を眺めていると、「じゃ、帰りましょうか」と声が降ってきた。

 顔を上げれば曾おばあ様が笑んでいる。


「母さん、そんなに体調悪かったの?」

「んー、私が病院に送って、それから受診してるからねぇ。そもそも病院に言った時間が遅かったってだけで……」

「……帰ってくるの、まだまだかかりそう?」

「かかるだろうねぇ……だから、今日は曾おばあ様とご飯食べて、お風呂入ろうね」

「……お風呂、一人で入ってるって話していい?」

「まじ? ハルト5歳だよね?」

 あぁ、やっぱ一般常識だとそうかぁ……そうかぁ……

 4歳の時に思いっきり直訴して、それからは一人で入ってるんだよなー……いや、流石に……前世の記憶があるので……情緒は実質14歳以上なんですよ……。

 思春期前後のおのこが母親とはいえ美女と風呂入るのは……ちょっと抵抗あるのん……もちろん、曾おばあ様ともそれは然り。できれば一人で入らせてぇ~。

 湯船も浅いから、溺れるようなへまはしません。大丈夫だってば。


 世間話をしつつ帰路につくと、思ったより早く家に着く。

 まぁ、徒歩10分もいらないからね。

 

 家に着いたらとりあえず曾おばあさまをリビングに案内して、自室へ戻った。

 服を着替えて、リビングに戻ると曾おばあ様はソファーに座って寛いでいる。


 普段なら夕食の準備を母君がするから、この時間ここまで静かなわけはないのだが……ごはん、どうしよう?


「ご飯、どうします?」

「んー……宅配で何か頼むー?」

「宅配、ですか」

「嫌? 外食でもいいわよ?」

「ほんとは今日、僕がご飯作るつもりだったんですよねー……曾おばあ様? 危なくないよう見ててもらいます?」

「何度も聞くけど、貴方5歳よね?」

 混乱から抜け出れてない様子で曾おばあ様が問う。

 そんな曾おばあ様の様子を背中で感じつつ、料理を作る準備をする俺。

 ふはははは、もーえーてーきーたー。

「6歳ですよー? でも、やれんことはないです……よっと」

 踏み台を持ってきて、冷蔵庫から材料を取り出す。

 とりあえずたまご。ほうれん草のおひたししたいからほうれん草を出して……

 五目豆は、豆が戻せないから中止……お、インゲン豆があるから胡麻和えにするか。

 あときゅうりとわかめで酢和えでもするかな。

 冷蔵庫を漁り、パントリーから乾物を取り出し、献立をざっと考える。

 

「手慣れてるわね……」

 気圧されている曾おばあ様の声がする。

「はじめてでーすよ」

 ハルトとしては。

 でもまぁ、お手伝いはしてたので、道具や材料の置き場所くらいは把握しているのです。ふふん。


 コップに麦茶を注ぎ、お茶請けに煎餅を数枚出して小さなお盆に置き、曾おばあさまに渡した。

「そこ座って見ててくださいな。万一危なそうだったら教えてください」

「……初めてなんだよね?」

「初めてですが?」

 何度も言うが、ハルトとしては。

 橘悠人(前世)では腐るほどやったことである。

 体の大きさとか、勝手が違うことは認めるけど、そこまで違いはないはずだしなぁ。

 コンロも勝手はガス火と一緒だしね。

 流石に前世のノリで使うには材料が違い過ぎるので、勘に頼り過ぎず味見を挟みながらするけど。

 思ったよりはうまくできた。


「という事で、だし巻き卵とほうれん草のおひたし、キュウリの酢和えといんげんの胡麻和えです」

 あと薄揚げとわかめのみそ汁ね。

 出来た料理をダイニングテーブルに広げると、呆れた顔の曾おばあ様が俺を見ていた。

 なんか思うことがある表情ですなぁ……

「……何か嫌いなものでもありました?」

「好き嫌いはないつもりだけど……何度も聞くけど6歳よね?」

「6歳ですが」

「料理、初めてなんだよね?」

「初めてしますね」

「……手慣れ過ぎでは?」

「気のせいですよ」

 気のせい気のせい。

 

 曾おばあ様の視線から顔を背けつつ母君と父上用のおかずにラップをかぶせていく。

 ご飯はよそわず、茶わんだけおいといた。

 ご飯は炊いててくれたから、客人用のお茶碗に曾おばあ様のご飯をよそう。

「ご飯の量、どうします?」

「少な目でいいわよー。……ほんと気が利くわね……本当に6歳?」

「邪推しないでください~」

 お茶碗にふんわりよそって曾おばあさまに渡す。


 時計を見れば6時近く。まだ母君は帰って来ない。


「母さん、連絡こないね」

「ちょーっと、ごたついてるのかなー」

 のほほんと返ってくる曾おばあ様の声。

 曾おばあ様はある程度事情を察してるらしいので、そんな曾おばあ様が慌ててないんだからそこまで深刻……それこそ生死を彷徨うとか、手術するほどの大病を患っているとか、そういう事態ではなさそうだけど……6時になっても帰って来ないのは、些か不安である。

 ……どっかで事故ってるとか、ない……よね?

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