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#58 おや……? 母君の様子が?

 6歳だからね、幼稚園生活も年長である。

 幼稚園生活も半年を切っているのである。寂しい。


 土曜日は武器商人……というか、ポム・グラネイト商会の職人集団と会った。

 噂にたがわぬ美人ぞろいだった……すげぇよな。あんなに種類の違う美女たちが一堂に会してるんだから。

 オーナー兼バイヤーのハネズ、鍛錬師のルシフェル様、鑑定士のバアル様、付与師のヴィーさん。それに鍛冶師と研磨師のドワーフ達がメンバーらしい。

 武器……特に魔法武器と呼ばれる類を作るのに、それだけ人員が必要だとは。

 ゲームではもっと簡略化してトンテンカンでできてしまうそれも、実際は複雑な工程があり、何日もかけて作られると知ると……圧巻である。すげえとしか言いようがない。


 やっぱ職人技ってやつは素晴らしいかな。


 日曜日は父上に公園へ連れてってもらい一緒に遊んだ。

 一時と比べるとだいぶん健康的な生活ができるようになった父上は、「運動不足解消のため」という名目のこと、時々俺を公園やら遊興施設やらに連れてってくれるようになった。素直に家族サービスと言ってくださっていいんですがね?

 まぁ、どっちにしろ、一緒に遊んでくれるのはありがたい。

 

 そうしてハイテンションで駆け抜けた土日ですが。

 そのおかげで……月曜日はすごく眠い……。


 しかし、ハルト・アーバインは6歳なんでねぇ……幼稚園なんだなぁ……


 きなこは土曜日の夜、俺を家に送ってからユウキと共に帰っていった。

 ものすごく寂しいけど、そろそろ退院だと聞いたので、頑張れる。

 

 いつも通り、幼稚園へ行く準備をしてリビングへ行けば、珍しく母君がダイニングテーブルに突っ伏していた。

 顔が見えない。

 ……ついに、過労か……?

 俺は自分の部屋に戻ってブランケットをひっぱりだしてきて、母君へ掛けてみる。

 まだまだちっこい体なので苦労したが、なんとなく掛ったので良しとしよう。

 とりあえず、朝ごはんを食べるまでに反応がなかったら救急車かなぁ……

 一応生命が危ぶまれる状況ならサテライトが即座に通報するので、命に別状がない確証はあるんだが……。うーん、心配。

 椅子を踏み台にしてパンを取り出したり、冷蔵庫から牛乳を用意したりしていると、母君がこちらを見ていた。

 あ、意識あったんね。


「……大丈夫? は……かあさん」

 母君と言いかけたが寸でで軌道修正できた。うん、大丈夫。ばれてない。

 母君はぼーっとこちらを見たまま動かない。

 母君……? 大丈夫じゃないな?

「疲れてるみたいだし……ベッドに横になられては……?」

「……ハルトって……すんごく気が利くよね……」

 ようやく口を開いたと思えば……なんですのん?

 気が利く……? や、まぁ……6歳児にしては……そうなのか?

 いや、母君におんぶにだっこな自覚しかないが? 出来ることしかしてないが!?

「んー……ちょっと休憩するだけのつもりだったんだけどなぁ……」

 そういって母君が背筋を伸ばす。

 それからくわりと欠伸をし、笑顔を向けてくれた。

「心配させてごめんね? 朝ごはん……は、追加は要らない、かな?」

「こ、これで充分です……」

 齧りかけた食パンを見せて答えた。


 トーストしない食パンなんて久々に食べたけど、やっぱこれもおいしいよね。

 

 ……母君、疲れてるんだろうなぁ……

 俺が幼稚園に行ってる間にでも昼寝してくれ、是非とも。

 うーん、料理できるなら夕食とかも作ってやりたいところだが……急にやると不審がられるよなぁ……知識はあるので大抵のことは出来ると思うんだが……逆に手間かけそうな気もして下手に動けない……うごご……

 ようよう考えたら、丸一日なんもしない日なんて、母君にないんだよなぁ……

 土曜は、俺はユウキと出かけていないけど、代わりに父上がいるし。

 父上も父上で疲れてるから母君の代わりをしろなんて無茶言えないしねぇ……

 むむむ……


 しっかし、黙って待ってるからって、母君が快調になるとは限らんのよな。

 ここは投資だと割り切って頂いて、料理を教わるか……。

 大丈夫だ母君。俺には前世の知識があるからな、コンロの使い方と各種調味料がどんな感じか教えてくれたら大体のことは出来るはずだ。

 包丁がコワイものだとは認識してるので、ふざけるつもりもないしな……!

 桂剥きとかまだできるかなぁ……とは思うけど。


「かあさん……? 今日、家帰ったら料理、教えて欲しいなぁ……なんて」

「りょうり……?」

「うん。……ぼく、料理作るの、気になってて……さ。どうやって作るんだろーって」

「……」

 少し思案する素振りを見せる母君。

 うーん、理由がアレかなぁ……でもちょうどいい理由が思いつかなくてさぁ。

 素直に「母君疲れてるみたいだし、作れるようになった、楽になるかなーって」とか言ったら、子供らしくないでしょ……?


「何か作りたい料理、ある?」

「……作りたい料理……かぁ……」

 料理を作ることは別にいいらしい。やったぁ。俺もキッチンデビューだぜ。

 しっかし、作りたい料理……ねぇ……食いたいもん言っとくか。

「だし巻き卵と、ほうれん草のおひたし……あと、五目豆……? みそ汁は豆腐とわかめがいいなぁ……」

「……」

 母君は何も言わなかった。

 すんごく生ぬるい目をして微笑んでいる。

 ……だめ、かな……? 魚の方が良かったかな?

「わかったわ、準備しとくね」

「あ、あざーっす……」

 びくびくしつつ母君を窺っていたが、許可が下りたようだ。やったぁ……。


「さ、母さんも幼稚園へ行く用意、しなきゃね」

 そういって母君はダイニングから離れていく。

 ようよう見れば母君まだ寝間着姿だった。

 ……ほんと大丈夫か……? やっぱ今日言わない方が良かったかなぁ……


「母さん? 熱あるんだったら後日でもいいよ?」

「大丈夫、大丈夫。熱は平熱よ」

「あ、左様で……」

 

 パンを牛乳で流し込んでいると、用意が出来たらしい母君が戻ってきた。

「今日の幼稚園、少し迎えに行くの遅くなるかもしれないから」

「わかったぁ」

「ありがとうね、ハルト」

「? どういたしまして?」

 何に対するお礼かわからないまま答えると、母君はにこりとはにかんだ。


 ……浮気じゃないよね?


 いやぁ、父上、顔は良いけど察し悪いからなぁ……

 嫁や息子ほったらかしでワーカーホリックしてるし。

 そら、出来た母君だが淋しさで……とかないわけも……いや、そこ俺が疑ったらだめよね……。反省。母君は人格者ですし、お寿司。


 今日は変な妄想が広がリングする日だなぁ……自重、自重……。

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