#57 いろんな人からいろんなもの貰ってるなぁ……
「少年、そろそろ鑑定結果をメールで送ったから確認してほしい」
「あっ、すみません」
バアル様の声に、速攻で謝罪し、俺はメールの本文へ目を通す。
なになにー?
内容はショートソードの鑑定結果。
刃渡りとか重さとか、カタログスペックが羅列されており、最後に切れやすさや耐久やらの評価がグラフになって記されていた。
まぁ、可でもなく不可でもないって感じのグラフ。
「とまぁ、武器や防具のスペックを鑑定して提示してくれるのが鑑定士……バアルちゃんのお仕事なわけでして、ここから私の仕事ですわ」
そういってルシファー様は机に置かれたショートソードを抱きかかえる。
「どんな感じの剣がいいですか?」
なんて聞いてくる。
ど、どんな感じの剣……?
「お、お任せします?」
ぱっと思い浮かばなかったので、そう答えたらルシファー様は微笑んでから剣に視線を落とす。
腕の中に抱いた剣は、まばゆい光に包まれた。
数拍光っていた剣だが、光が収まると少し形が変わっていた。
「はい、再度鑑定」
机の上に剣を置いてルシファー様がバアル様にバトンタッチする。
バアル様は机の上の剣に再度鑑定魔法をかける。
そしてメールが届いた。
俺はすかさずメールをチェックする。
数値がさっきとは違っていた。全体的に良くなってる印象。
あの一瞬ですげぇ。
「元が良くないと鍛錬しても数値がよくならないんですの。ですから、腕利きの鍛冶師と鍛錬師はセットで必要なのですわ。そして、出来た剣にさらに付与師がエンチャントするんですわ。ヴィー、イイ感じにやっちゃってくださいな」
そう言いながらヴィーに剣を渡すルシファー様。
ヴィーは俺を見て「……初期セットでいいですかね~」と気軽く言ってくる。
よくわからないので「よろしくお願いします?」と言っておいた。
ヴィーは「お姉さんにまっかせなさーい」と言いつつ、何やらいろいろ準備している。
羽ペンにインク壺、瓶に入った水は……聖水か?
剣にインクをつけた羽ペンを走らせるヴィー。手慣れている。
書いているのは術式だ。
特殊なインクなようで、剣の腹に書き込まれた端からインクが吸い込まれるように消えていく。
暫く書き込んでいたヴィーだったが、羽ペンを置いて聖水を剣に振りかけ、水気を拭ってからバアル様に渡した。
「チェックお願いします~」
三度目の鑑定魔法。普段はここまで鑑定しないんだろうけど……。手慣れた感じでメール3通目。確認すれば切れ味が物騒な剣に仕上がっていた。
ちょっと試し斬りを見てみたい気持ちもあるが、自分で試したいって気分にはならないな、これ。
「はい」
しかし無常である。バアル様は鑑定し終わった剣を無造作に寄こしてきた。
重さはあまり変わらないのに、さっきの数値のせいでもつ手がプルプル震える。
え、これ、どうしろと?
「差し上げますわ。冒険者になったら、ポム・グラネイト商会を御贔屓に」
聖女のほほえみで悪魔みたいなこと言ってる。
流石堕天使。
俺は引きつった顔で笑い、ユウキを見た。
「よかったなぁ、武器が手に入ったぞ」
なんて笑い、それから首を傾げて唇に指を添える。
「ずっと抱えてるわけには、いかないよな」
そういって俺の手から剣を奪う。
「取り合えず、今日は預かっといて、家着いたら渡すわん」
「お……おう。お願いします」
虚空に剣を飲ませているユウキを見つつ答えた。
なんていうか、亜空間格納? 実質チートだよなぁ……羨まし。
これが小説だったなら、転生した俺はチートスキルを神様からもらって、前世知識で無双してかわいい女の子にちやほらされて……なんて、うはうはな人生が待ち受けてるんだろうけど、現実はそこまでうまくいかないな。
いいなぁ、亜空間格納……俺も習得したいー。
けど、あれ、明らか魔術師の領分なんだよなぁ……俺、魔術はまーったく使えないから、習得は難しそうだね。残念。
ユウキを恨めしく見ていると、ユウキが首を傾げた。
それから時計を見る。
「結構いい感じな時間になっちまったなぁ」
……へ?
ユウキの声に俺も時計を見た。
もう、昼も過ぎ、なんだったら八つ時だった。
……そろそろ帰路につかないと家に着くころには真っ暗どころの話ではなくなってしまう。
いつの間にこんな時間が経ったのやら……って、あれか。俺が意識を失っていた時か。
少ししょんぼりしてしまう。
これ終わったらきなことデートさせてもらおうと思ったのになぁ……残念。
「じゃ、お暇しますかぁ」
そういうユウキに、バアル様が手を振る。
「ケーキご馳走様。おいしかったわ」
「また誘ってくださいまし」
ルシファー様もニコニコとほほ笑んでユウキへ手を振った。
そのあとに、俺に顔を向ける。
「私にとっては10年も20年も瞬き一つの時ですわ。いつか、デートしてくださいな」
デートって……空恐ろしいなぁ……いいのか、そんな栄誉にあやかって。
一応俺はごく普通の一般人な6歳児なんだが……。
「ルシだけずるいわ? 私ともデートしましょう?」
あばば……バアル様までもそんな畏れ多いことを……いいのか? こんな恵まれて……ハッ……これがアレか?! ハーレムEND?! ……って、不敬すぎてビビるわい!
俺は返答を曖昧に、苦笑する。
イエスともノーとも言いづらいんだよなぁ……
「えっと……もう少し大人になってから……改めて……?」
「えぇ、よろしくてよ」
「冒険者になったら、ちょこちょこ顔、見せてくれるんでしょう? 期待してるわ」
そんな二人を置いて、ヴィーさんとハネズが店先まで見送ってくれる。
そういえば、ヴィーさんと余り喋ってないなぁ……ま、いいか。
冒険者になったらちょこちょこ来るんだろうし? いつか話せるだろ。
でもまぁ、顔見た瞬間俺が意識を失ったから、驚かせたし気まずかったんかね。それならば悪いことしたな……
「あ、えーと、ヴィーさん、だっけ。いきなり気絶しちゃって、びっくりしましたよね……? ごめんなさい?」
「体調は大丈夫ですかぁ? 驚きはしましたがぁ、私は大丈夫ですよぉ。優しい子なんですねぇ」
紫の瞳が細められて、ヴィーさんが俺の頭を撫でる。
ちょっと、くすぐったいというか、おもばゆい。
「そうそう、ハルト様?」
ルシファー様がにこやかに微笑みながら俺を呼ぶ。
何か言い忘れたことがあったのか、追いかけてきてくれたらしい。
お優しい方ですなぁ。
「私のことはルシフェル、と。親しい仲間たちにはそう呼んでいただいていますの」
「ルシフェル、様」
「はい、ハルト様。これからも長い付き合いになると、私感じておりますの。ですので……またいつか、デートいたしましょうね」
にっこりとほほ笑んで手を振り、見送ってくれるルシファー様。
あぁ……聖女って感じでいいですねぇ……血よりも赤い輪が頭上に浮いてるけど! 翼が真っ黒だけど!!
「きゅっ……きゅぺぇえええええええ……」
何故かきなこが威嚇していた。
極短毛の体毛がぼわぼわと逆立っている……稀にみる威嚇っぷり。
……いや、初めて見るぞ。威嚇自体。えっ、そんなに威嚇するもん?! あのきなこが?!
考えれば考えるほど異常事態である。きなこが他人を威嚇するなんて……意外~。
威嚇するきなこを腕に抱え、3人の見送りを背に帰路に就く。
結局デートは出来なかったが……まぁ、きなこをこうして抱っこできるだけでも俺的には幸せである。よしとするかぁ……
中央区にある高速線の駅には結構大きなお土産屋がある。
前世でいうキオ〇ク的なやつ。
そこで、母君へのお土産ときなこ用のおやつ、そして俺の昼食とおやつを買い込んで電車に乗り込んだ。
電車に座ってもそもそと遅めの昼食をとり、きなこにおやつをあげ、きなこが満足して昼寝に入ったのを確認してから、俺はユウキに話しかけることにした。
「今日の面々、すごかったなぁ……」
「んー?」
「ユウキの友人ってすごい人ばっかだなぁ……あれか? 半分くらい神様だったりするの?」
何気ない疑問だったのだが、ユウキが真顔で指折り数え……
「半分……で、きくかなぁ……」
「それは、知り合いが少ないってこと……? 多いのにそういうレベルってこと……?」
「……この世界にいる外津神……異世界の神様ね。大体一度はボコってるって話、しとく?」
「わ、わあい……」
流石創世神やでぇ……。
「ボコってるってのはまぁ、半分嘘だけど」
なんて悪戯っぽくクスクス笑うユウキ。
冗談が冗談に聞こえませんよ?
「まーぁ、あれだ。神って、世界の最上位種じゃない? だから、好き勝手されると困るのね。いろいろ。だから……一柱一柱話付けてるの。だからこの世界にいる神霊とは一度は話しているし、大体の神様と友好関係を築いてる。キミの大好きな邪神様もいるぜ? 化身の一柱だがな」
「まじですか。え、邪神って、あの邪神?」
「タコやらイカやら」
「まじかぁあああ……」
実在するのかあの邪神様。
ユウキの言葉に俺の胸が跳ねる。
や、だって、邪神である。
小説で良く出てくる、名状しがたい冒涜的な邪神様である。
お目通りが叶いそうな雰囲気じゃない? 狂信者じゃないけどさぁ、お目通り叶うならSan値0にしてもいいかもしれない。
……いや、きなこやきゅっきゅちゃんの為にも俺は正気で生き続けねば……あぶないあぶない。でも赤の女王とか見てみたいよね。
「いつか会えるといいなぁ……あの神は気まぐれだから」
ふふっと笑うユウキを横目に、俺は跳ねまくる心臓を落ち着かせようと躍起になる。
今日は、すごい収穫だった。きなことはデートできなかったけど。
ルシフェル様にバアル様、それに邪神様の情報……
この世界はまだ神代なんだなと改めて実感する。
この人生、前世の俺が知る神様と、どれくらい出会えるのやら。




