#56 実際に職人技をみるのは圧巻である。すげぇ。
「ですが……私、感動しましたわ、ハルト様」
興奮に上気し、白い肌に薄紅を乗せたルシファー様はなかなか目の毒……つか何を感動なされましたかルシファー様。そんな感動する展開あったか?
マジで理解できなくて首を傾げていると、ルシファー様は微笑みを深くしながら教えてくださる。
「……そうですわねぇ……どこからお話すればよろしいやら……ですが……ええ、私たちも、この子達のことは気にかけてましたの」
そういってきなこの頭を撫でるルシファー様。
気にかけて……って、そうなの? 澪夢さんは「飼い殺しにしてた」とか言ってたけど。つか、秘匿されてたんでは……?
俺の嗜好が顔に出てたか、口に出してたか、ユウキが俺の肩を叩いて笑う。
「別にアレ、秘匿はしてないぞ。まぁ? 大々的には宣伝してないけどな。パンフがああなのはマツヤのせいだし。俺らアルカディア……あー……ネトゲ仲間はちょこちょこ見に行ってたよ……」
「お前……まさか、今回の推薦状もらったやつ全員ネトゲのギルメンか」
なんか、断片的だが見えた。
半目で睨めば図星だったらしい。ユウキが苦く笑った。
「まぁ、うち廃人ギルドだけど、所属メンバーみんな高ランク冒険者だからねぇ。数貰うなら手っ取り早いの」
ハートマークが見えるレベルの茶目っ気だった。うぜぇ。
つか、廃人ギルドなんだぁ……アルカディア……楽園、かぁ……もともとは古代ギリシャの一地方なんだっけ……? つか、ちょくちょく前世ネタ持ってくるなぁ……ユウキ。異世界感薄くなるからやめてほしい。ただでさえ文化水準あんま変わんねえのに。
「……まさか、ギルメンにアシカだかアザラシだかいないだろうな?」
ふと思ったことを言えば、ユウキはげんなりとしたような……というか、『何をバカなことを……』と言いたげな顔で俺を見返した。
「うちは知的意識のない個体は遠慮してまーす」
まぁ、そらそうだ。つか、知的意識のない個体はサテライト契約ができないから、逆説的にネトゲにログインできないのだ。Q.E.D.
「ともかく、あの牧場を再建なさるために冒険者になられますのね? 私、これでも鍛錬師ですの」
「たんれんし」
初めて聞く職業……鍛冶師とは違う……のか?
「この世界特有の職業かもしれませんわね……武器の強化をする職業ですわ。そうですわね……それだけなら鍛冶師も同じことを致しますが……鍛錬師は鍛冶師よりは付与師と似ていますの。やってるところを見た方が早いですわね」
そういってルシファー様は立ち上がり、部屋をでた。
暫くして何事もなかったように戻ってくる。
手には鞘に入ったショートソードがひと振り。
あぁ、アレ使いやすそう。
一般的な両刃のショートソードで、革の鞘に納められていた。
そんな剣をルシファー様はバアル様に渡す。
「鑑定士さん? お仕事してくださいな」
そう言って。
バアル様はルシファー様から剣を受け取り、ローテーブルに置く。
何も言わず、ローテーブルに剣を置いた瞬間魔法陣が展開、立体的に構築されたそれはどうやらスキャン機能があるらしい。
すぐに電子音がして俺のサテライトにメールが届いた。
差出人はポム・グラネイト商会。柘榴商会……? あぁ、ハネズだから?
ハネズ……朱華……柘榴の万葉名だっけ。だから、ポム・グラネイト? しかも、たぶんグレネイド……手榴弾とも掛けてるよな? 目玉商品か?
「ハネズさん、手榴弾とか売ってんの?」
「お? ハネズさんのことを敬称付けて呼んでくれるのか! 一応年上だと認識されてたのか! ありがてえ!」
「もういいや、こいつのことは呼び捨てで呼んでいいよな?」
「あやぁ~。ハネズさん、一瞬で見下されたぁ! でもその目線、いいぜぇ……いいよぉ……ぞくぞくする」
こいつとはまともに関わったらだめだな。俺の堪忍袋が炸裂する。
「いいんだぞ? 今からてめえの商品はらあいっぱいねじ込んでやっても……」
「おっほー……5歳児にのされてるハネズさんザッコ―……一応少年、うちは幅広く商品を取り扱ってるから手榴弾も扱ってはいるが……冒険者にはあまり人気ではないものでなぁ。基本在庫はそれほどおいてないのだ。ハネズさんが満腹になるほど詰めこめはしないのさぁ~……だから買い占めて詰め込むなんて馬鹿な行いはやめるのだ。……いや、マジで。やめてくださいお願いします」
流石に俺の目がマジすぎたか、ハネズの口調が真面目になった。それでいいんだよそれで。
「畜生……何故ハネズさんはこうも扱いが悪いのだ。不当だふとー。正当な対応を求む―!」
「てめぇ……豚箱にぶち込まれる覚悟はできたか……?」
青筋が立っている自覚がある。
なんかこいつだけはぼっこぼっこにしなければならない気がする。
……まぁ、一般的な6歳児くらいの力しかないんだがな、今の俺!
でもなぁ、胸倉掴んでるからそのまま首を絞め揚げるくらいはできるんだよ俺でもなぁあああああ!
……ま、こいつたぶん……いや確実に人外なので、首絞めたくらいじゃ死にもしないし意識も失わないだろうなぁ……こいつ、呼吸してる感じしないし。
いや、呼吸はしてる。が、血流に酸素を届けるっていうよりは、換気? たぶん酸素なくっても……最悪真空でも平然としてる予感がする。
なんかげんなりした。
頭の片隅で『ふはははは、ハネズさんからは逃げれないのだよー!』と腕組み仁王立ちでハネズが笑っている気がする。
叩き潰してぇ……こう、ぷちっと。
だが潰しても潰してもまた新しいハネズが頭の隅で煽りだし……って、何考えてるんだ俺は……最早被害妄想の域だな。そして俺の想像するハネズはゴ〇ブリか。
よくよくかんがえてみれば、ほぼ初対面に対してゴ〇ブリ扱いはマジでやばいな……初対面がアレ過ぎたのが悪いので、俺はそこまで悪くない。そこまで悪くない……はず。たぶん、メイビー、きっと、そう。
「豚箱以前にあの世に還元されそうなんだがががががが!」
首をキュッと絞めつつガクガク揺さぶっていると、ハネズが抗議を上げてきたので、いい加減許して差し上げた。力を緩ませれば、重力に従ってハネズの頭が床に落ちる。
ガンッとなかなか痛そうな音がして「アイター!」と悲鳴が上がった。
まだネタに走る余力があるみたいなので後悔はない。
当然、反省もない。
「チッ……」
舌打ちをうち、手のひら同士を打って埃を払う仕草をすれば視線を感じた。
今日は視線を多く感じる日だなぁと思いながら視線の主を探すと、きなこが怯えた目で見ていた。
はうあ?!
ぷるぷると震えながらユウキの足を抱きしめている。
「きゅっ……きゅぺぇ……」
涙目で俺を見るきなこはかわいいが、それ以上に怯えさせた罪悪感がすごい。
「きっ……きなこっ、ちがっ……そんな心算じゃぁ……」
土下座の勢いで謝ると、きなこは俺の腕に戻ってくれた。
やったぁ、やっぱきなこさんお優しい。
きなこさんを頭に乗せ、周囲を見渡せばハネズ以外が生ぬるい目で俺を見ている。
な、なにさー!
軽く睨むみつつ威嚇していると、バアル様が小さく「かっ……かわいい……!」とか呟いていた。
バアル様……大丈夫だろうか……? 何でもかわいく見えてない?




