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#54.5-1 ???

 意識を失ったハルトの人格と入れ替わるように、”彼”は這い出た。

 ”彼”は、見た目こそハルトと差違はなかった。

 当たり前と言えばそうだろう。

 ”彼”はハルトの奥底に眠っていた人格なのだから。

 見た目に変化がないことは当然のことだった。

 

 だが、周囲にいた者たちは、彼がハルトと違うものに変質したと理解できていた。

 

 瞬いた”彼”の、紫色の瞳が修道女を見る。

 そして、どこか痛むように顔を歪ませた。

 何かを言おうとして口を開き、すぐ諦めて閉じる。

 それを何度か繰り返していると修道女が苦笑した。


「お久しぶり、と言ってよろしんでしょうか?」


 そう言って”彼”の頭を撫でる。


「とりあえず、お疲れさまでしたって言っておきますね? あ、私。今はヴィーと名乗ってます。そのように」

「あ……えっと……?」

 ”彼”は戸惑いのままに声を挙げた。

 そんな反応をする”彼”に噴きだしたものがいた。

 

 ユウキだった。

「ふっ……ふふっ」

 腹を抱えて肩を震わせている。

 しばらくそうやって痙攣していたユウキだったが、バアルゼブルの肩を叩いて部屋から出た。

「ハルト君いなくなったし? 3人で積もる話もあるだろうしねぇ……ルシ連れて撤退するぞー。……つか、ケーキ奢るから付き合え」

「えっ? あ、うん……了……解? ほい、ルシフェル、行くよー」

 ゆさゆさと些か乱暴にバアルゼブルがルシファーの肩をゆする。

 暫くゆすっていると、ルシファーが「うぅ……」と呻きつつ瞼を開いた。

「うぇ……んー……? バアル、行くってどこにぃ……?」

 まだ眠いらしいルシファーが欠伸を噛み殺しつつ問う。

「お前……まだ寝てたのか……エルテちゃん並みに寝てるんじゃ……? じゃないな。俺の奢りでケーキ食いに行くぞー」

 バアルゼブルの代わりにユウキが答えた。

「ケーキ? ……行くー。シンフォニアのケーキがいいなぁ」

「イチゴのタルトがうまい店だっけ……まぁいいや。行くぞー」

 

 ルシファーとバアルゼブルを連れてユウキが部屋を出ていく。

 ハネズはルシファーの座っていたソファーに腰掛け、首を傾げた。

 面白そうに、心底可笑しそうに。


 ヴィーと名乗った修道女はユウキ達が部屋から出ていくのを手を振って見送り、もう片手で撫でられ続けている”彼”は心底困ったといった顔で固まっていた。

 

 そんな”彼”を見て、ハネズは傾げた首のまま頬杖をつく。


(……ハネズさんの知ってるあっくんってこんなキャラだったかにゃぁ? 転生でやわこくなったか? 良い……変化なんかにゃ? ヴィーちゃんも緊張してるにゃぁ……でもテンションは高め? 普段見れないヴィーちゃん新鮮すぎー。やっぱユウキの話にノって正解だったにゃー。みゅふふ……)


 笑みを頬に張り付かせたままハネズは考える。

 視線は二人から離れない。微動だにしない。

 

「あ……の、さ……ヴィー……さ、ん?」

「ヴィーでいいですよ。かつてのように。……なかなか、大変な目に合われたようで?」

「……ヴィーたちほどじゃ……ないよ」

 ”彼”は目を細めた。

 

 沈黙が振る。


「二人とももだもだ、おっかしーにゃぁ? ハネズさん。そんな少女漫画みたいな展開を期待して会わせたわけじゃないよ?」


 沈黙を破ったのはハネズだった。

 足を組み、膝の上で頬杖をついていたハネズは、ゆっくりと立ち上がり、二人に近づく。

 そしてニヤッと意地悪く笑った。


「この世界、どうだい?」

「創世神はアレ、なんだろう? ……が、ただ、この世界に転生してきたって訳でもなさそうな言い振りだな?」

「まぁ、ね? でも秘密は教えてあげなよーん」

「まぁ、そうそう教えてくれるタチじゃないしな。別にいい」

「ちぇっそこは『教えてくださいお願いします』って土下座する場面だろー?」

「ハネズ、せっかくの再会を邪魔しないでください」

 からかい気味にニヨニヨ笑いながら言うハネズの冗談に何か変えそうと”彼”が口を開いた瞬間、ヴィーが後ろから”彼”に腕を絡ませた。

 口を開けたまま固まる”彼”。

(初心か)

 呆れた顔で半目になり”彼”を見るハネズ。

 完全に硬直した”彼”に、想定外の反応だと驚くヴィー。

 

 再び積もりだす沈黙。


「いや、久しぶりの再会はハネズさんもだからね? 5年前は眠ってただろう?」

「このままずっと眠っておくつもりだったんだがね……まさか、ヴィーがいるとは……」

「勇者くんも連れてきてるよー。魂だけだけどな!」

「えっ」

 

 反応したのはヴィーだった。

 心底驚いたといった体で目を瞬く。

 それにハネズはにまっと笑う。


「約束したろー? 『また会おう』って」

「……律儀なやつだな。だが感謝しないと、だな」


 吐息。


「おう、感謝しろー。ハネズさんめっちゃ頑張った」

「はいはい偉い偉い」

「ヴィーちゃんと違って適当だな!? 貴様!! もっとハネズさんに対しても真面目に対応しろー!」

「ハネズ自体がふざけてるのに、なぜ?」

「扱いがお上手!!」


 たっは―。と目元を片手で隠して爆笑するハネズに、呆れた……いや、最早死んだ魚のような目を”彼”は向ける。

 ヴィーは”彼”に抱き着いたままきょとんと眼を瞬かせた。


「とりあえず、ここで立ち話もなんだし? ハネズさんの家で茶ァでもしばくケ? 紅茶しかねぇがなぁ!! 嘘、嘘。緑茶と麦茶もあるよん」

 そう言いながら裏口のほうへハネズは歩き出す。

 ヴィーと”彼”は互いの顔を一瞬見合い、それから同時に肩を落とした。

「積もる話、あるかね」

「まぁ……立ちっぱなしもあれですしねぇ……」

 ”彼”から絡めた腕を放し、ヴィーは微笑んでからハネズの後を追った。


 ”彼”は疲れたように吐息を零し、肩を回す。

 数拍。


「こっちですよ~」

 ヴィーが裏口から手招いているのを認め、”彼”は静かに後を追った。


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