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#54 お邪魔します、武器屋さん!

 武器屋は……所謂って感じの外観をしてた。

 長屋スタイルの店舗だが、盾と剣を重ねた看板を掲げている。

 盾に赤い果実のイラストが描かれているが……あれ、リンゴ……フォビドゥンフルーツ……? あ、いや、あれ、ザクロか。

 何にしても、ザ・武器防具屋! いいねぇ。


 店内に入ると薄暗かった。

 入った瞬間の印象は広い、だった。

 壁には武器が立てかけてあり、店舗の奥にレジ用の台座が置いてある。

 レジの奥にはさらに部屋があるようで、奥から鉄を打つ音がする。


 天井には何か所かシーリングファンがくるくる回っていた。

 いいなぁ、アレ。なんか雰囲気が良いねぇ。


「やぁやぁ、ユウキ、ひっさしぶりだぁー! ハネズさんのお店に何用かなー? あ、少年! その少年が言ってた彼だね?! おや、おやおや。こう見ると結構イケた成りしてるね?! ハネズさんは趣味じゃないけどバアルンが喜びそうな面ァしてるね?! いいよいいよぉ、歓迎するよー。まぁ寛いでくんなぁ、座るとこねーけどな!!!!」


 マシンガンのようにまくしたててくる。

 一人称が自分の名前……それが許されるのって小学生までだろ……とか、言っちゃダメなんだろうなぁ……表現の自由は尊重されるべきだし、いい歳こいた大人が一人称自分の名前でも実害ないもんなぁ……でもツッコミたい。それくらいウザい。


 銀色というか灰色の髪を長く伸ばし、赤い瞳をした女性だ。

 白いリブのノースリーブカットソーに太ももまでスリットの入った黒いロングスカート、黒いロングジャケットを腕に引っ掛けただらしない着こなしをしている。

 鼻の上に小さい丸眼鏡を乗っけていて雰囲気が胡散臭い。どうしようもなく胡散臭い。


 服装は違うが、間違いなく、俺をこの世界に(説明なく)堕としてくれちゃったあのアバズレである。うっしゃぁああああ覚悟せいやうらああああああっ!

 ……って、一発殴るつもりだったんだがなぁ……

 なーんか、やる気失せた。顔見たらなんか怒りが消えた。つーか、なんか申し訳ない気分になる……なにゆえ……解せん……


「おや少年? 何を意気消沈してるんだい? ははぁ、美女にたくさん会えると聞いたのに、ハネズさん一人で残念がってるんだね!? このおませさん! いいよぉ、いいよぉ。ハネズさんはそんな少年をそれでも許そう。そして歓迎しよう。さぁ、美女に会いたくば歩け少年! お宝は眼前ぞー!」


 ……こいつ、いちいち話しぶりがウザいな。もいっそ黙ってくんねーかなぁ……

 

「……ハネズ、だっけ……アンタ、いつもそんな喋り方なのか……?」

「んぉ? ハネズさんに興味津々かぁ? 少年。しかしなぁ、ハネズさんは少年の想いに応えられないのだ……すまんな」

「いや、寧ろ殺意しか沸かない」

「殺し愛かね?! デンジャー……デンジャーだよ少年ー。流石ユウキが推薦する人物だぜ……面構えが違うってやつだな?!」

「頼むから黙ってくれ……頭痛がヤバイ」

 俺はこめかみを抑えつつ呻くが、意を返さないアバズレ。

 こ……こ……してぇ……

 イライラが頭痛を誘発して、殺意がうなぎ上りである。

 俺とこのアバズレは相性が徹底的に合わないらしい。

「ハネズ、もう少しテンション下げてくれ。ハルトが殺意の波動に目覚めそうだ」

 ユウキも目元を覆って疲れ切った声で助太刀してくれた。

 ひょっとして、ユウキもこの女と相性悪かったりする?

 が、ユウキの声にその女ははた、と正気に戻ったらしい。

「おっと、許せ少年。ハネズさんはついついマシンガントークしてしまうのでな」

 あ、正気には戻ってねえな。たぶんこいつはもうSAN値ゼロで生きてるんだろうな。SAN値ゼロならそのまま部屋の角でくたばってろ! 畜生!

「とりあえず、我が職場の精鋭たちを紹介しようかね」

 そういってアバズレは背後にある扉をくぐる。

 扉を開けた瞬間、鉄を打つ音がより一層大きく聞こえだした。

 

 こう、職人の工房に行けるっぽいけど……いいのかな。ちょっとドキドキする。

 このアバズレの店ってのは癪だが、あのアバズレと職人たちは違うもんな。

 ……違うよな……?

 ちょっと別の意味でドキドキしつつドアをくぐれば、店舗は打って変わって明るかった。

 

 奥の方でドワーフが鎚を振るっている。

 リズムよく、一定に叩かれるその音は高く、澄んでいる。

 鍛冶師は一人ではないらしく、数人が鎚を振るっていた。

 そして周囲には補佐役のドワーフも忙しなく動いていた。

 すっげー、やっぱ職人の仕事場は気が引き締まるなぁ……


 なんて、ぼんやりドワーフの仕事風景を眺めていたら首根っこを掴まれた。

 おん?

 見上げれば俺をアバズレが片腕で持ち上げて移動させている。

 ……猫かなんかか、俺は。


「ほい、バアルンとルーちゃんねー。バアルン、ルーちゃん。これがクライアントだ」

 ぼすっとスツールの上に置かれた俺の肩を掴んで、アバズレが適当な紹介をかましてくれた。ニックネームでわかるかぁ! ……と叫びたいが、まぁ、ユウキが事前に教えてくれたからな。バアルン……が、バアル様で、ルーちゃんがルシファー様なのは分かった。つか、神に向かってニックネームで呼ぶとか、このアマ何者よ。ま、俺もユウキに対して呼び捨てだが。


「武器商人のバアルよ。よろしく」

 ……雨と嵐の神、武器商人してんのか。

  

 改めてマジマジと見てみれば……お、おぉ?

 金色の髪をバレッタで束ねた、クールビューティー……やっばい、タイプだわ……

 スリーピースをバッチリ着こなしているバリキャリウーマンの雰囲気……最高ですね!


 俺はゆらりと立ち上がると、バアル様の手を取り、言ってやった。


「御姉様とお呼びしても?!」


 ぶっはっ……

 バアル様から液体が噴き出た。

 鼻から、赤い液体が。


 それが手を取った俺の顔面に掛かる。


「目がぁああああああああああ!? 目がぁああああああああああ!?」

 バアル様の手を放して俺はのたうった。

 ある業界ではご褒美かもしれんがな?! 俺はその業界の者ではないのでな!!

 血液で目つぶしされたらそら絶叫するしかないわけです。


「う、うわあああああ!? ご、ごめんなさい?! 大丈夫?! 大丈夫ですか!?」

 

 悲鳴……というか絶叫に近い声を挙げるバアル様。

 それにハネズがげらげら笑いだした。

 何だったら床に腰を落として足をばたつかせての捧腹絶倒である。


 何やってんだお前はよ……!

 もちょい真面目にしろよこんにゃろ……!

 いや、この惨状の9割は俺のせいだけど。バアル様? バアル様は鼻血をお出しになられたけど、もろにかぶった俺が悪いだけで……バアル様はなんも悪くない。

 残りの1割はきっとハネズが悪い。


 ……つか、神の血って赤いんだな!! ……新しい知見!

 ……って、現実逃避だな……

 俺はずいぶん緊張しているらしい。


 予想以上にドタイプな女性だったので、ビビったわ……いや、神な時点で畏敬の念はありますが。人間でしたらマジで口説いてたかもしれんね……


 ついでに、バアル様の隣にいらっしゃったルシファー様は黙ったまま座っていた。

 バアル様が鼻血を出そうが、俺がバアル様の血を被ってのたうとうが、ハネズが爆笑しようが、無反応だった。つか椅子に腰かけて足組みし、鼻提灯を作ってた。

 おめぇもまさか……あのアバズレ側か?!

 

 バアル様がおろおろしているのを尻目に俺は現実逃避をしつつ床をのたうち回っていたわけだが……


「遅れて申し訳ございませーん」

 バタバタと慌てた足音と共に訪れた声に身を起こし

「ヴィー、ただいま出社し……」

 裏口らしき場所から顔を出した女性と目が合い……

 

「ちょっと!?」

「えっえっえっ?!」

「うぉ!? 少年ー!?」


 驚きと混乱の声を挙げる美女2人と面白枠1人の声が聞こえるなか、俺の意識は闇へと溶けた。

 最後に


『すまん、ちょっとだけ時間をくれ』


 と、聞こえたのは気のせいか……はたまた……


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