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#50 いろいろ考えたり、お荷物とそしられたり、仲間意識を感じたり?

 でも。

 でも、である。

 

 魔物は、この世界を犯す存在である。

 タカトーは、この世界を赦していないのである。敵愾心を抱いていると言って良い。

 かわいいだけの存在を、産み落とすわけがないのである。

 ……というのはユウキの言だけど。

 

 俺が出会ったタカトーは、そういう風には見えなかったから。

 あの二人……いや、一人か? 元は同一存在だし。でも人格が違うんだっけ……ややこしいな!?

 俺が知ってるタカトーは、あの場所で話しただけで。

 それこそ、本人でもあるユウキとは見えているものが全く違うのだろうけど。

 うーん、難しいな。

 まぁ、俺が考えても詮無いことだけどねー。


 今はきなこをかわいがることに専念する!


「むきゅきゅきゅきゅ」

 俺はユウキが戻ってくるまできなこの体や頬をもみくちゃにすることに集中した。


 † † †


「なにしてるの」

「おっと」

「むきゅぺっ」


 怪訝そうなユウキの声に、俺は両手を放す。

 きなこは重力に導かれて地面に落ちた。

 べしょり、ときなこが地面に広がる。そういう姿はスライムの名残があって、いとかなし。……じゃなくて。

「わっ、ごめんきなこ!」

 地面に広がったきなこを抱え上げると、きなこは「きゅぺー」とだるそうに鳴く。

 

 それを見て、ユウキは何とも言えない顔をしていた。


「なによ」

「いんやぁ? 仲いいなぁって」

「なんじゃそりゃ」

「それは兎も角、行くか」


 促しがあったので、俺ときなこは片手を挙げて応えた。

「はあぁ~い」

「きゅきゅ~ん」

 いまいち締りが悪い。


 ユウキもそう感じたらしい、げんなりとした顔をした。


「とりあえず、バス使って、電車の駅まで行きますか」


 そういいつつきなこを俺から奪い、肩に乗せる。

 あぁ、返せよ俺のきなこ……。


「さっきは転送魔法使ってたわりに、俺が混ざると公共交通網に頼りだすのね。なんで? 魔力効率悪い?」

 ちょこちょこ気になっていたことを尋ねつつユウキに近寄る。

 ユウキは「んー?」と俺を振り返りつつ首を傾げた。

「なんでって……なんで?」

 なんでそんな質問するんだ? と不思議そうに問い返してきたユウキ。

 なんでって……

「いや、転送魔法使った方が速いじゃん? 圧倒的に。まぁ、-街-内での魔術行使は原則不可って知ってるぜ? でも、ならばここ来るまでも使わない交通手段使えばいいじゃん?」

 思ったことをそのまま問えば、ユウキは納得、と手を叩く。

 それから苦笑し、小ばかにした質問を投げてきた。

「あ。あぁー……ハルト君、まさか俺らが-八番街-で特訓してるとでも?」

「違うのか」

「こんなところで毎回、あんな特訓したらご近所迷惑だろー? きなこは今-13番街-で療養してんの」

「-じゅうさ-……?」

 アルヴェリア王国って-12番街-までじゃなかったっけ?

 思ったことが今度は顔に出てたのか、ユウキはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「んま、常識では-12番街-までだな。一般人は知らんよ。でもまぁ……いつか連れてってやらんでもない」

 ちょっと偉そうなのが癪に障るが、事実こいつはこの世界で一番偉く、尊い神様である。文句は言えない。

「で、まぁ。-13番街-から-8番街-まで徒歩は流石に無理だからねぇ。ここまでは転送魔法で通勤してるわけ。そのための”通行手形”も発行してるけど、そっからもう一回手続きするの面倒くさくってねー。公共交通網(使えるもの)は使いたいってことだね。あと単純にお荷物(ハルト君)付きの転送は魔力消費が重い。俺が転送するのはきなこが嫌がるからなぁ……」

 好かれてんねぇ色男―。とかユウキが茶化してくる。

 それにうざったさを感じつつ、俺はユウキからきなこを取り返す。

 きなこも、抵抗なく俺の腕に収まってくれる。

 きなこは確かにユウキに指示しているが、俺の家族なんだからなー?


 母君に挨拶し、改めて出発である。

 とりあえずはバス停まで徒歩で移動し、電車の駅へ……目指すは中央区!

 公共交通網を使うので、きなこは俺の背負ったリュック型のキャリーに入ってもらう。キャリーのなかには、本日のお土産その1であるうさぎのぬいぐるみ(手のりサイズ)をあらかじめ入れていた。

「きゅきゅー!」

「あ、ぬいぐるみ見つけた? お土産だよー。ぐるみ屋のうさぐるみ」

「きゅきゅきゅー!」

 黄色いリボンを首に巻いたかわいいウサギのぬいぐるみをきなこは触手で抱き上げて喜んでいる。そんなきなこが一番かわいい。

 きなこの喜んでいる様を見ていると視線を感じた。

 見返せば、ユウキ。

 驚き半分、興味深そうな顔で俺……というかきなこの抱くぬいぐるみを見ている。

なん?」

「いや……おまえ、もしかしてぐるみ屋のファン?」

「ん? なんでまた?」

 肯定の代わりにさらなる疑問を投げれば、ユウキは笑みの質を変えた。

 どこか、悪だくみに近い、嫌な笑みに。

「……な、何……」

「いんやぁ? しっかしこれは……ウケケケ」

 笑いかたがキショい!

 

 ……

 

 ブロロ……とバスに揺られて30分。

 それからガタン、ゴトンと電車に揺られて3時間弱。

 さらにバスで10分強。

 そこから徒歩で15分。裏路地らしい道を行ったり来たり。

 

 ……


 いやぁ、長旅だった。

 

 俺の家は、南区の中では比較的中央区に近い位置にあるんだが、それでも駅まで行くのにバスを使わにゃ行けないし……いやぁ、疲れたね。

 

「結構……歩くねぇ」

 別に疲れてはいないんだが……こう、ユウキの背中を延々追いかけていくのは……流石に飽きたね。


 きなこは最早寝ている。

 俺の頭の上で寝てる。

 鼻提灯をぷうぷう膨らませて寝ている。熟睡である。


 いいなぁ、俺もぷうぷうお昼寝したい。


「んま、そろそろ着くけどねー。っていうか、アレか? お前、来たことないのか」

「んー? 中央区なんて地の利得るほどいけねぇよ……住んでるところ南区だ……ぞ……」


 思考が止まる。

 歩いていた足も止まる。

  

 震える手で口元を覆う。

 俺の視線は、その店舗の屋根に釘付けになっていた。


 具体的には、屋根に乗っかった看板に。

 その、ウサギの横顔をデザインされた、『ぐるみ屋』と書かれた看板に。


「ハルト君、ファンなのに店舗に行ったことないってニワカ晒してますよー?」

 ニマニマと嫌な笑顔のまま煽るユウキが視線のなかにはいるが、俺は反応する余裕が一切ないので、しばらく煽ってたユウキも大人しくなる。

 その頃には俺は感動で涙ぐんですらいた。

 それに気づいたらしいユウキが最早憐れみに近い表情を浮かべている。

「……ま、まぁ……基本土日に絶対開けないもんな、あいつ……」

 そういいつつ、ユウキはぐるみ屋の扉を無造作に開ける。


 まじか、まじか! まじか!!

 え、入っていいの?! マジで!? 


 いつか行けたらなーって思っていたお店が、今目の前にある。

 しかも、入っていいらしい。

 マジで!? 夢じゃない!?


 ユウキの後を追って、恐る恐る顔を覗けば……

 

 店舗内は静かで、薄暗かった。

 壁には前面に棚があり、商品らしいぬいぐるみが所狭しと詰められている。

 基本的には動物モチーフのぬいぐるみたち。憧れの、ぬいぐるみたち……!

 中央にも机があり、小さなぬいぐるみがたくさん並んでいる。

 足元も、注意しないと小さなぬいぐるみの入った藤篭のバスケットを蹴りそうである。

 それくらい、店内はぬいぐるみで埋もれていた。


 ……はぁ、幸せ。


 視線を奥へ向ける。


 そこにいた店主は、若い女性だった。

 

 お、おお……?

 イメージした店主とはずいぶんと違った。

 彼女はとても若く、そして気だるげな雰囲気を纏っていた。

 ……温和なおばあちゃん的マダムを想像してたんだがなぁ……


「……」

 襟足で2つに束ねた、おさげの髪は紫混じりの黒髪。

 紫苑の瞳は眠気に閉ざされ気味で、座っているのでわかりづらいが、結構な長身の、モデル体型。

 ダウナー系美女だなぁ……ほんと意外。

 腰の曲がった、ショールの似合うご婦人だとイメージしてたから……。

 いやぁ、先入観、偏見って恐ろしいね……


「……」

 ……

 

 店主は何もいわない。

 俺も、無言である。


 ……


「なんか喋れよ!!!」

 降り積もる沈黙を破ったのはユウキだった。

 絶叫に近いツッコミをありがとう。


「えっと……ここに連れてきたってことは……」

 推薦人はここにいるってこと……だよな?

 周囲を見渡せど、この空間には、ユウキと俺ときなこ、それからぐるみ屋の店主しかいないわけで……

 つまり。


「ぐるみ屋の店主様って冒険者だったんですねぇ……」

「のほほんとしてる場合かよ。ってなわけで? ネイト、これが例のやつ」

「あぁ……うん」

 店主……ネイトさんというのか。ネイトさんの返事はいまいち覇気がない。

 やる気なさそー……っていうか、推薦しといてこの人、興味ないよね。俺に。 

「ふっつーの、少年だね? 意外」

「そりゃ、善良な一般市民に何を期待してんだお前……」

 若干失礼な感想を述べつつ立ち上がるネイトさんにユウキが呆れ混じりなツッコミを返す。

 そんなネイトさんを俺は若干、複雑な感情で見つめた。


 ……奇をてらった方が良かったのかな……

 

「きゅっきゅっ」

 唐突にきなこが鳴いた。

 俺の頭に垂れたまま、触手だけを伸ばして「あいっ」と挙手している。

「ん?」

「お?」

 俺とユウキが同時に声を挙げた。

 ネイトさんは

「ヒュッ」

 息を呑んで、両手で口元を抑えていた。

 眠たげに半ば閉ざされていた目が見開かれ、キラキラしている。

 その姿はまるで、先ほどの俺。

 ぐるみ屋の看板に釘付けにされた俺のよう。


「なに、そのKAWAII生き物」


 ネイトさんの一言に俺は顔を上げる。

 同時にきなこが顔を伸ばして俺を見下ろした。


 あっ……お仲間。


 俺はきなこを抱え上げる。

 きなこは両の触手を伸ばして、ネイトさんのほっぺに触った。

「きゅっ」

「はうっ」

 ネイトさんは急激に大量の尊みを摂取した影響でとれた。

 

 わかる。

 わかるよ、ネイトさん。

 俺もそれの餌食になったし、何だったら母君も鼻血を出したこと数度。

 きなこの尊みはヤバいのだ。


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