#49 気になるきゅっきゅちゃん
「おはよう、かあさん」
「ハルト、おはよう。ご飯できてるわよー」
「はあい。今日は和食?」
「焼き鮭とほうれん草のおひたしと、五目豆、それからお豆腐の味噌汁よー」
「最高じゃあないですか」
毎日毎日おいしいご飯を作ってくれて、ほんと感謝である。
俺も、包丁が安定して持てるようになったら家事に参加するからねー! 待っててねー!
母君はいつもの柔和な笑みを浮かべながら白ご飯をお茶碗によそってくれている。
俺は自分の席に座り、手を合わせた。
「いただきます」
† † †
朝食を食べて、準備をし、玄関前で待っていると虚空からきなこがペッと吐き出され、地面に着地。
Y字ポーズでキメた。うん。1000点。
そのあとユウキも虚空から飛び出してきて地面に降り立つ。なんなんだこの師弟ども。
何度も言うがここは魔術行使が原則不可の-街-中である。一応例外というか、諸手続きすれば魔術行使しても違法にはならないが、毎回申告しなきゃだめらしいので、いちいちやってるのか? こいつら。
ユウキはともかく、きなこが豚箱行きとか、泣くぞ俺は。
「きゅっきゅちゃーん!」
元気な声を上げてきなこが飛び込んでくる。
毛艶よし、痩せてもない、かわいいきなこボディーが腕に収まる。素晴らしい。
「おかえりきなこー。ユウキにしごかれてないかー? 優しくされてるかー?」
「きゅきゅっ、きゅっきゅきゅ!」
腕の中で、俺の胸に顔をグリグリ押し付けているきなこ。そうかー、きなこも嬉しいかー。
「相変わらず早いねー」
きなこと戯れているとユウキが話しかけてくる。
それに「そうか?」とだけ返した。
今はユウキなんかと話すより、きなことイチャイチャしたいのだ。きなこかわいいよ、きなこ。
そんな俺の心情を察してか、ユウキが何とも言えない複雑な顔をしている。
なにさぁ……その顔。
「何よ」
「……俺、お前の母さんと話してくるから、そのまま戯れてなぁ」
「うぇ~い」
「きゅきゅー」
ユウキに触手を振ってバイバイするきなこのほっぺたをもにもに揉みこみながら生返事を返した。
きなこはきゅっきゅちゃんである。きゅっきゅちゃんは、スライムを源流にもつ進化した魔物である……らしい。ならば、きなこの体はもちもちたぷたぷで、揉みこんでも骨の感触がないのは、スライムの系譜だからか。
……でもさぁ、こいつがスライムの進化した姿だって……なーんか、納得いかない。
現代日本の中学男児だった俺にとっては、黄色い電気ネズミ的キャラクターが代表を張っているあのゲームは日常にとけこんだコンテンツであって。俺自身も、兄貴のおさがりでちょこちょこプレイしていたから、進化というものは、どうしても良い成長……それも急激な成長だと認識してしまっている。
ダーウィン的進化論では、そうとは限らないというのも、頭ではわかっているが……なーんか、弱体化っていうか、スライムと比べて有利になってるか? と思わなくない。
だってね?
この世界におけるスライムは、某転生系ウェブラノベもびっくりな……あ、いや、アレよりは知性がない分マシか……しかし、日本で広く周知されてる「スライムは雑魚」という先入観は、取っ払わないと死ぬ。ほんと死ぬ。四の五の言う前に死んでしまう。
ゲームで言うなら、物理無効、強力な魔法耐性、驚異的な瞬間再生……そしてエリア関係なしに徘徊してるし、生命の気配を感れば猛烈な勢いで襲ってくる。
ゲームならクソゲーである。
ついでに、質量もやばい。
小さいものは両腕で抱えられるくらいだけど、大きいものはダンプカーくらいなら飲み込めそうなくらいある。
大きいスライムが-街-の近くに接近したら、最寄りに住んでいる住民は避難するくらいにはやばい。一種の災害である。
ついでに。近い対応をされるのは空中に漂う魔物……俺の目からすると空飛ぶ海産系エネミーである、タツノオトシゴ(仮称)、クラゲ(仮称)、シャチ(仮称)と、人魚である。
……人魚って、魔物型と種族型の2種類あるからややこしいよね。
魔物型と人魚と、種族型の人魚は単一の祖先から進化した存在……ではなく。
いわゆる収斂進化というやつで、似たような環境で進化してきたから似たような形状になったってやつである。
遺伝子レベルから全く別の種族らしく、種族型の人魚……マーマンやマーメイドは性別や知性があるし、有性生殖で個体数を殖やすが、魔物型の人魚……セイレーネスは知性がなく、女性型しか存在しない。とても凶暴で、歌による洗脳で獲物を誘き寄せる習性があるようだ。
まぁ、マーマンやマーメイドにセイレーネスのことを話すと露骨に嫌がる。
ごっちゃにしたらめっちゃ怒る。怒髪天である。だから、ごっちゃまぜにしたらいけません。マーマン・マーメイドとセイレーネスは全く別の種族。おーけー。
……まーた脱線した。
ま、まぁ……海産系エネミーたちはすんごく厄介な存在だ、ってこと。
そして、それにスライムも並んでるって時点で、スライムが雑魚ではないってのは明白なのである。
……そんな厄介なスライムの上位に位置するというのだ。きゅっきゅちゃん。
本当かぁ?
先ほどはダーウィンの進化論を持ち出したが、実は魔物って、ダーウィン的進化論を適用できない存在だったりする。
ユウキ曰く、魔物という存在は、タカトーがデザインし、創造した存在なのだ。
だから、基本的には後発の魔物は先発と比べて上位互換になるらしい。
ならば。
余計に意味不明というか、理解できないのである。
スライムより優れているのか、きゅっきゅちゃん。
……可愛さだけならスライムに勝ってるな。きゅっきゅちゃん。ちょ―KAWAII。




