#46 きなこ、はっちゃけてるなぁ
ユウキが起きてきたのは、きなこが朝ご飯を食べ終わる直前だった。
「よく眠れたようで?」
「うー……おはようございます」
挨拶替わりに嫌味を言ってみるが、ユウキはまだ思考が回ってないらしい。ショボショボ顔で目を擦りながら挨拶を返してきた。
……こいつ、低血圧なんだなあ……
「ユウキさん、おはようございます。朝ご飯食べます?」
「……いただきます」
イマイチ反応が遅い。
こういうユウキは初めて見る。
……あ、いや……
状況は違うが、前世であったか。
俺の前世……中学に入った頃、こいつの前世は入院していることが多く、病室のベッドで寝ていることが多かった。意識があっても、反応がいまいち薄かったっけ……やっぱ状況が違いすぎるな。
友人の、衰弱していくさまは……あまり見たいものでもなかったが、俺が面会したあとは顔色が少し良くなるとか、なんとかでユウキの親に喜ばれたので、よく面会に行ったものだ。
……うん。ユウキの親が面会に後にお菓子くれるから、それ目当てである。俺はゲンキンなやつだった。
……いや、ゲンキンなのは今も同じか。
ぼんやり顔のユウキに母上がコーヒーを手渡し、ユウキが「ありがとうございます……」と礼を述べる。
しばらくマグカップを包むように持ち、ユウキはコーヒーの水面を眺めていた。
「……猫舌?」
「いや……久しぶりに良く寝たから…… 」
些か答えになってない答えを口にしつつ、ユウキがコーヒーを一口含む。
「……」
「子供舌?」
「いや……」
コーヒーを嚥下して、しばらく固まっていたユウキに、尋ねれば、曖昧な反応が返ってくる。
「……俺がいつも飲んでるコーヒーって、コーヒーじゃないんだなあ……って」
すんごい遠い目をして呟いているが……
普段どんなもん飲んでいるんだろう……いうて家だって特別な豆を使用しているわけじゃないと思うんだが……
残念ながら6歳児にゃコーヒーは苦すぎてまだ飲めんのだ。下手に寝れなくなるのも困るしね……
きなこは食べ終わって空になった食器を恨めしそうに眺めている。
ほんと食べるのが好きだなあ、きなこは。
そんなきなことユウキを眺めていると、きなこが何か思いついたように顔を上げて鳴いた。
「きゅきゅっ、きゅっきゅきゅ? きゅきゅきゅ?」
「えっ、いや、いいけど」
目を瞬かせ、首を傾げて、コーヒーを一口。
それからユウキは母君を見た。
「きなこが修行の成果を見せるついでにここで日々の成果を見せたいとか言ってるんですが。庭借りていいですか?」
「え、ああ、いいんですか? ハルトは魔術知識ないですけど……この近く、エルフも多い地域ですから」
「あ、あー……まあ、出来るやつがいればやって見ろって感じですし? さほど心配は要らないかと。そもそも、お母さん? うちの教義は個人戦じゃなくて団体戦ですよ?」
「……まあ。それもそうですか。……でも特許いろいろ取ってらっしゃるじゃないですか?」
「まあ、飯の種も必要ですけどねー……」
うふふ、と変なほくそ笑み方をするユウキ。
話に半ばついていけずに俺はきなこを見た。
きなこはやる気のある顔で鼻息を荒く吐いている。
おおう、やる気まんまんだあ。
と、いうか。
母君?
俺は確かに魔法に対する知識ないんですけど、そう面と向かって言われるのも、なんかやだなあ?
いや、事実知識はないし、ないことを歓迎されてますが。そう言われると当事者としては複雑なんですが? つか、その言い分だと母君まじで魔導知識あるのね? 俺だけ仲間はずれですか?!
それはそれで少し淋しい……
まあ、俺に魔導知識がないから、逆に言えば堂々見てても問題ないって雰囲気っぽいし、いいもん。
……くっくやしくないんだからねっ!?
「まあ、きなこのやってること、見てもらえればわかります。寧ろ真似できるならやって見ろって感じですし? やってること理解できて、真似できるなら真剣に講師しますよ? 弟子入りしてくれてもいいくらい。理解できなくても、やる気があるなら懇切丁寧に説明しますけどね」
ははは、とかユウキが朗らかに笑っている。
なんつーか、余裕ですなあ。この、開祖は。
流石、魔術を司る神様ってか、創世神というか……




