#4 知らない美男美女が尋ねてきました。
「……」
どうも、ハルト・アーバインと申します。
ええと……5歳になりました。
今は、我が家のリビングで、座っています。
隣には母君。
長いまつげにアーモンドの瞳をしたアジアンビューティー……
アジアねーけどな。この世界。
髪は亜麻色で腰まで伸びている。
ナチュラルといえば聞こえは良いが、着飾ることを良しとせず、素朴な身なりをしている。
まあ、美人さんなんで何してても美人さんなんだがな。
クリーチャーの一般女性だ。
あ。クリーチャーとは人間の種別だ。
オリジンとハイ、そしてクリーチャー。
この世界には3種類の人類がいる。
オリジンは獣から進化した人類で、前世の人類とほぼ同じ、らしい。が、もはや絶滅一歩手前の希少人種だ。
で、クリーチャーは実は神が創造した人類で……。そう、神様。この世界には神様がいるのよ。
しかも一柱じゃない。この国……アルヴェリア王国にはそれこそ八百万の神がいる。
で、そんな八百万の神が好き勝手創造した人類がクリーチャーヒューマン。特徴は創造した神によって様々だが、大体は魔力操作に秀でている。
ハイヒューマンはクリーチャーヒューマンが進化した人種と言われている。オリジンほどではないけど、ハイも少数だ。
まあ、母親が隣に座っていて、向かいにはカウンセリングの先生。それから一組の男女が座っている。
カウンセリングの先生はスーツをパリッと着こなしたインテリ系女性。年齢は40手前くらいか。
バリキャリって感じ。メガネが似合う。
そしてその隣には良いガタイの和服の男。
超 絶 美 男 !
ノンケでも惚れる
俺はBL本(全年齢に限る)も嗜んでたから、分かる。
両方からモテてるだろう、お前。
がっしりとした筋肉に覆われた靭やかな肢体は、艶めかしいほど白い。おまけに長身。180……いや、190手前くらいあるだろう。羨ましい! 10……いや20cmくれ!
黒銀の髪を項を覆うくらいに伸ばしており、切れ長の目は琥珀色。涼やかな目元である。日本男児か。かっけーな。この世界には日本ねーけど。
色白だが白人というより黄色人種っぽい。だから日本男児かと言いたくなる。かっけーな、おい。
濃紺の長衣に角帯、帯飾りに黒と赤の組紐を三重に絡ませている。粋な着こなし。
前世のじいちゃんが和菓子屋で、和装を好む人だったから、俺も嘗ては和装を自分で出来るよう仕込まれていた。なんだったら女子も浴衣くらいなら着せれたのだが……よく夏祭りにいく女子を着付けたなあ……懐かしい。まあ、彼女は出来なかったが。
『悠人君は彼氏っていうより気さくな友人じゃない?』
ってなんじゃい!
……なんだよぅ……
まあ、化粧とかもしてやったけどさあ……ばあちゃんが教えてくれるんだもん……そら着飾ってやりたいじゃんかあ……俺にはできる能力があったんだもん。
「ええと、ハルト……くんだっけか? 急に落ち込んでるけど……大丈夫?」
最後の女性が話しかけていた。
青みの強い銀髪の美女だった。
隣の男は壮年……30から40くらいの年頃に見えるが女性の方はえらく若い。10代後半くらい多く見積もっても二十歳前後だろう。
男よりは血色の良い肌色で、大きな瞳は宇宙のよう。星雲の煌めきを湛えた濃紺の瞳は吸い込まれるほど美しい。長いまつ毛は付け睫毛なのか、自前なのか……すっと通った柳眉、手入れを怠っていないのがわかる。女性は何かとタイヘンデスヨネ。
白いシャツにチノパンで、カーディガンを羽織り、更に大判のストールを腕に引っ掛けている。
なんか雰囲気がタカトーに似ているが、こちらは女性だし、アイツはあの場所から動けないとか言ってたはずなのでこの人はタカトーではないはずである。
で、なんで我が家のリビングで相対しているかといえば。
定期的に行われるカウンセリングである。
いつもならカウンセリングの先生と俺と母君の3人なんだが、今日はなぜか追加で二人増えたということだ。
そして、この二人はカウンセリングとは関係ないそうな……
なんの御用で?
「では、おかあさんは別室で……」
カウンセリングの先生が母君を伴って部屋を出ていく。
俺は母君に微笑んで手を振った。
母君は少し不安そうにしつつも手を振り返し、先生と伴にリビングから消える。
数拍してから女性が動いた。
その場で手をアジャスト。
その瞬間、リビングの雰囲気が変わった。
結界。しかも遮断型。
情報遮断と人よけ?
そこまで読み取って俺は椅子から飛び退いた。
二人から距離を取ろうと後退する。
が、二人は一向に動こうとはしなかった。
変わりに女性は笑う。
抱腹絶倒、と言わんばかりにコロコロと笑う。
「見たか? 澪夢? 流石だな。あの一瞬で結界を読み解いちまった!」
ケタケタと笑い転げ、愉快そうに言う女性。
反面男性は両手を挙げた。無抵抗のポーズ。危害を加えないという意思表示、か?
「ハルトくん、ですね? 落ち着いてください。私も、このひとも貴方や貴方の家族に危害を加えるつもりは全くありません」
深く、沁みる声だった。
見た目もイケメンで声もイケメンとかズルい。
前世の声優で言えば誰だろう? バリトンボイス。うっらやましーーーー。
「悪い、ハルト。この結界は、今からの会話を絶対に外部に漏らさない為に張ってる。聞かれちゃ不味いんだよ。悪いな」
見た目に反してやたら男っぽい言動の女性である。対して男性は所作が嫋やかというか中性的だ。
「ついでに結界の内容は情報遮断と人よけ、それに時間干渉、だ。どこまで読めた?」
「……情報遮断と人よけまで。時間操作って……浦島状態になるのか?」
「時間加速ではなく、鈍化だよ。ある意味浦島かもな。10分の1にしてるから、ここでの1時間が6分になる」
「長話する気なんだな?」
「ま? 色々聞きたいことあるしな?」
クスクスといたずらっぽい笑みを浮かべる女性。
俺は何故かこの女性に親近感を覚えていた。
どこか懐かしいというか……タカトーに似ているからか?
「っと、まずは自己紹介からだな。俺はユウキ。よろしくなっ」
…………。
あの……。
「お前、タカトーだな? 『外』のアイツがややこいこと言ってたがそういうことか!?」
何か確信があった。
体はタカトーでも人格が違うとか言ってたが、つまりは眼の前にいるこいつが、タカトー本来の人格なんだろう、と。
俺が叫んだ瞬間、二人の様子が一変した。
「『外』……?」
「『外』のアイツとは、どういうことです?」
首を傾げたユウキと、真顔で問いかける男性。あまりの気迫にたじろぐ俺。
「え、いや……」
まっずいことを言ったらしい。失言か。やっばいなぁ……怒られる? それとも事情聴取される感じ?
「こっちも説明するが、まずはお前、今まで何があったか説明してくれるな? システムに会ってるなら……大事なことなんだ」
ユウキが俺に詰め寄ってきた。
素が中性的だったのだから、女性になると美少女だ。そんなのが詰め寄ってくるのだ……
「ちょ、まって……話す。話すから……はなれて……」
ドギマギして腰が砕けてもしゃーないやん?