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#44 俺の知らない俺が話しかけてきた。

 真っ暗闇の中、ゆらゆらと漂う意識を知覚して。

 俺はまた夢か、と嘆息した。

 なんだか懐かしさを感じる明晰夢であるが、前回は可愛いきゅっきゅちゃんの気配があったが、今回はどうやら違うよう。少し残念だ。

 闇の奥窺う気配はどこかおどろおどろしい。

 悪夢かな? 悪夢だな?

 出てくるのは蛇か、邪か、幽霊か? 


 とか、いうけどさ?

 どーやら、それでもなさそうだって、気配が感じるわけでして。何なんでしょうね、アレ。

 しばらく見えもしないけど、相手をジロジロ見ていたら、向こうから動きがあった。


「冒険者に、なるのか?」

 闇の奥から俺の声が問いかけてくる。

 少しの怯えと、不安と、そして何より心配を含んだ、小さく低い声。だが明らかに俺の声だった。


 自答自問、か?


 改めて考える。

 冒険者になるのか、か。

 まあ、なれれば、そして生き抜ける力があるなら、目標への大幅な近道が確約されたルートである。飛びつきたい気持ちはあるよねー!


 きゅっきゅちゃん牧場を買収したり、きゅっきゅちゃんを幸せにするには金がいるのである。

 ちょっとやそっとの金ではなく、大金が。

 大金を稼ぐには、冒険者は魅力的すぎる職業なのである。


 友人を考えなしに死地へ向かわせるような性悪じゃないだろうし? ユウキにとっても何か勝算? ありそうだしねえ?


 でもまあ、俺元日本人だし?

 戦闘経験、ないんだもんなあ……不安がないっちゃ嘘になる。

 あと、クリーチャーヒューマンの強みである? 魔力操作が、俺にゃ出来んしね。

 つまり、魔術師として、魔法で遠距離戦闘がかなわないのである。

 だから、俺が冒険者になるなら、近距離戦闘が主になるわけで……死なないまでも痛いことは確実である。


 幸いなことに、治癒能力はチート級だったりするので、ちょっとの怪我でどうこうはならないんだけどね……


 指切り落としても生えてくるくらいには、俺の治癒能力は少しおかしい。

 腕……は流石に試してないけど、ワンチャンいけるかも? 試してないけど。怖いから。

 切り落として生えてこなかったら、それこそ冒険者になれんしねえ! んなリスクは負いたくねえ。


 が、ずいぶん好戦的というか。

 冒険者になることに忌避感ないんだよね……不思議。


 日本人なんだけどなあ。

 戦闘経験ないんだけどなあ。


 むんむん考えていると、闇の奥から声がする。


「そこまでして、戦いたいのか?」


 戦うことは手段であって目的ではない。

 だから、冒険者になるより効率のいいかね稼ぎが出来るなら、冒険者である必要はない。それは断言できる。


 内心うんうんと肯いていたら、嘆息が聞こえた。


「我が事ながらバトルジャンキーなんだな」

 嫌悪感丸出しで吐き捨てられた。

 あ。こいつ俺の自答自問じゃないな。

 てっきり、夢の中で俺の不安が語りかけてくる形を取ってるのかと思ったが……なんか様子がおかしい。

 まんま前回の明晰夢……きなこのお母さんと話したあのケースらしい。違うのは話しかけてきた相手か。

 明らかに声は俺だが、どうやら別人のようだ。

 あれか、多重人格か? もう一人の俺か!

 ……多重人格って、トラウマだかストレスだかでできるんだっけ? そんなのかかえるような人生送ってるつもり無いけどなー。

 悠々自適快適ライフですがな。

 まあ、それはそれとして。言い返さないと気がすまないな?


「金の亡者なだけでバトルジャンキーじゃないですー。金稼ぐのに一番効率いいのが冒険者だから冒険者になるつもりがあるだけですー」

 ペッと唾を吐きつつ反論すれば、闇にまみれた相手はキョドった。

 おいおいおいおい。レスバ弱者かあ? 我が事ながら、もうちょっと歯ごたえないと情けないぞ?


「金の亡者な自覚、あったんだな……」


 ぼそっと闇の奥から吐き捨てる声。


 ……


 ……やめろよ。やめろよ……。

 そんな言い方されると、流石の俺も傷つくどころじゃないぞ……クリティカルヒットだよ……

 つか、言うほど金の亡者じゃないし……必要なものは買うし……適度に小遣い使ってますし……

 割りと早く牧場を買い取る必要があるから、一刻も早く大金が欲しいだけでさあ……


 そういえば。

 俺の両親……特に母君は俺に対する信頼が何かとおかしいので、本来子供が見れないはずの口座をちょこちょこ見せてくれるのだが……

 俺、子供とは思えないくらいの残額持ってるんだよね……

 それは、あるいは両親の積立とかもあるんだろうけど、魔導教が余剰魔力の買い取りをしていて、全く魔力を扱えないわりに馬鹿みたいに保有している俺は、かなり魔導教に魔力を買い取ってもらっているらしい。

 土地はともかく、家建てるだけならいけそうな残高に、俺はおろか母君もビビっていた。

 ……まあ。このままいけば、死ぬまでには牧場を買えるくらいには溜まりそうな気もしないまでもないけどね。

 何度も言うが、俺は一刻も早く牧場を買い取ってきゅっきゅちゃんに御奉仕せねばならんのだ。

 買い上げるだけではなく、改装費、飯代、レクリエーションのための金……大金がいるのである。

 そら、ね? 冒険者なりてーってなるやん?


 なにより。


「きなこの治療費の為にも、冒険者になるのが最適解だと思うから」

「相手は魔物だろう? そんなに大事か」

「命を賭ける価値がある程度には」

「……なるほど?」


「あの男は信用できるのか?」

 一拍おいて再び声がする。

 あの男とはユウキのことだろうけど……


 あれを、男と評せるか。評せるかあ〜。

 まあ、俺自身女装だと思ってるけどね……

 いや、前世のイメージが抜けなくって……


「信用……信用、かあ」

 ぶっちゃけどうだろ。

 前世でクラスメイトだったとはいえ、付き合いはさほどである。なんせ、こいつ、入退院を繰り返すわ、寝てばっかだったし。

 そしてこの世界であったのも、数日の付き合いである。

 人となりなんてわかるもんか。


 だが、だ。


 俺にゃ、アレに恩があるのだ。

 きなこを助けてもらった恩が。


 きなこ……きゅっきゅちゃんもユウキ関係といえばそうだが、そしてゆうきがきゅっきゅちゃんを使って俺を利用しているというリスクもあるけど。

 そこまで考えたらなんでも悪に見えてしまう。


 もう、利用されてるとしても、きゅっきゅちゃんが可愛いからいいやあって思うのは、カモの思考かしら。

 まあ、いいや。その場合は、カモらしくネギ背負っていくさあ……おいしくいただかれるさあ……

 きなこが可愛いから本望だよちくしょう……


「ん。まあ? わかった」

 声がなにか言ってる。何がわかったと言うんですかねえ? 胡乱げな目で闇を睨んでも、あちらの姿は見えやしない。小癪な……


「静観してるよ。しばらくは」

 そういう残して相手の気配が消えた。

 なんなんだ、この夢は。

 混乱よりは呆れ染みた気分を抱え、俺は目を覚ました。


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