#42 ようよう考えたら、友人とのお泊りとか初めてでは?(前世も含めて)
……数ヶ月ぶりにきなこを泡にするのは、それはそれは楽しいことでした。
「むきゅきゅきゅーむきゅー……ぷっきゅきゅ!」
顔に泡がつかないようにだけ気を付けて全身を揉み込むように洗えば、きなこはこそばそうに身を捩る。
きなこの体は、骨を感じないのでまるでぬいぐるみを洗っているような、頼りなさと心地よさを与えてくれる。
ぬいぐるみと違うところは、温かさと、こそばさに自分から身を捩る……というか暴れるところだろうか。
「きゅきゅきゅきゅきゅっ……きゅぺーーーーー!」
バシャッと洗面器から泡とお湯をこぼして暴れる。
かわいいなあ、こやつめぇ〜
にっこにっこできなこを洗い、洗面器に温かいお湯を溜めてきなこをつまらせる。
そこから俺も手早く全身を洗い、湯船に浸かった。
「はふー」「きゅぺーーーーー」
入浴というものは良い文化だと思う。
この世界でも、入浴文化は極東……-八番街-とその他一部の地域での特有文化らしい。
-八番街-には日本からの堕ち人が多く落ちてくるらしく、日本への望郷を抱いた堕ち人達が日本文化をこの-街-に反映させまくった結果、今の-八番街-が出来上がったらしい。
ユウキは冗談交じりに大体澪夢さんのせい、とか言ってたが……まぁ、この-街-の最初期から都市計画に参画してた人だしなぁ……そら、自分好みにできる立ち位置だし、道理っちゃ道理である。
まぁ、澪夢さんや、先人の堕ち人達によって、俺はこの-街-が心地よいと感じるのだから、感謝に堪えないわけである。ありがたや……
ついでに。
この世界の大体の-街-に入浴文化はないらしいが、じゃぁ、清潔保持は如何に? と問われれば……シャワーである。
後、一部種族では清拭だったり、砂浴びだったりもある。
魔術師あたりでは浄化魔法を乱用する人もいるが……これは文化ではなく、その人個人の性である。最早。
温泉とかも行きたいなぁ~。
うん。-八番街-は温泉も多いのだ。一応火山もほどほど有する地帯なのでな。
地理的には、前世で言う日本とさほど変わらないの……だが、実は-八番街-は島ではない。
有史……女神暦以前の、【大戦】の影響で地形が変わってしまっている場所がいくつかあって。-八番街-もその一つだったりする。
地形が変わっても、温泉って湧くんだねぇ……と思わなくもないけど、まぁ、この世界、超常的存在も腐るほどいるからね。
そら、大陸でピンボールする種族だっているんだから、温泉枯れても復活させるナニガシラもいるでしょう。きっと。
……思考が脱線したり、深まったり……ゆらゆら揺らめいて。
はたと現実に思考を浮上させればきなこが呆れたような鼻息を吐いた。
あ……心配された、かな?
「あがる?」
「きゅっきゅ」
洗面器から飛び出して、きなこがプルプル体を振る。
水気が動きに合わせて飛び散って、心なしかきなこの体毛がふわふわになっている。
……やっぱ、かわいいな。
バスタオルで水気を拭い、ドライヤーで乾かせば、ふわふわきなこの出来上がら意である。
「きゅっきゅー! きゅきゅーきゅっ」
めっちゃ嬉しそう。
きなこがうれしいと俺も心が温かくなる。
おはなを飛ばしつつ、自分の支度も手早くすまして自室へ戻れば、ユウキが手持ち無沙汰……というかソワソワしていた。
「……何?」
「えっ!? あっ……い、いやぁ……」
驚き、照れ、ユウキは挙動不審に苦笑した。
そんなユウキに俺ときなこは同時に首を傾げる。
「いやぁ……他人の……つか、友達の部屋に一人でいるの、初めてだからねぇ……」
なんて、えへへ、と笑いながら言い訳を言うユウキ。
……え、天地開闢から生きてる、神様なんだよね?
つか、俺のこと友達と思ってくれてるのか。
なんか、俺も感情が混乱しだす。
照れるユウキに、つられるように俺も照れた。
てれてれ……
俺ときなこが入浴している間に、母君がユウキ用の布団を運び入れてくれていたようで。俺のベットの傍に来客用の布団が置かれていた。
ユウキが無言で目を瞬いてから、体をくねらせてふざけ出した。
「はぢめての夜って、きんちょーするね☆」
「キッショ」
思わず本音が出た。
気色悪い。本当に、気色悪い。
「そんなバッサリ切らなくても……流石に俺でも傷つくぞ」
「……いやぁ……本命の彼女いるのになあにそういう系でふざけてるんですか。ふしだらよ」
「……お前って、妙なところで古風というか、硬派だよなぁ……」
「……前世のじいさんのお陰かね。今でも憧れの人だよ」
「あぁ~。あんま会ったことないけど、あの爺さんカッコいいもんなぁ……和菓子屋の店主だっけ? まだやってんの?」
「俺が存命中はまだやってたよ。じいさんの和菓子が食えなくなったことと、爺さんにひ孫を見せてやれんかったのが、あっちに残した未練かね」
「ええー? そんなけなの? お友達は?」
「……」
おちょくるような笑みで問うユウキに、俺はほの暗い笑みを浮かべた。
「お?」
「……友達、ねえ……まぁ、良くつるんでたのはここにいるから、別に? 今更何したいとかは……ないかな」
「ふーん?」
あ。
前世の話をしていてふと思い出した。
あるわ。未練。
「もう一つあった。未練」
「なん?」
「山に青しの完結を見届けれなかった」
部屋の空気が凍った。
「え、アレ……まだ完結してないの」
愕然とした顔でユウキが呻く。
それに俺は重々しく頷いた。
「してない。何だったら前世んときに最後に読んだやつの前の号から長期休載」
「まったかよぉおおおおおおおお。最終章入って何回休載してんだよ!」
四つん這いで、床に拳を叩きつける勢いで嘆くユウキ。
まぁ、わかる。わかるよその気持ち……。
「6回目……ですかねぇ……あと、バトロイドは先々週完結しました」
最後の言葉にユウキは今度こそ崩れ落ちた。
えっ!?
なんだったら四つん這いで、頭上に雨模様が出てるレベルで凹みだす。
……そんなに沈む?
「バトロイド、完結しましたか……ストーリー、教えていただいても?」
あ。そう言えば優樹、バトロイド好きだったな。
ロボットが戦うだけの、単純なストーリーなのだが、派手に壊れたりする演出が妙な人気を持つバトロイド。
遠い未来の、戦争で経済を回しているような世界で、ロボットたちは人間の代わりに戦争をし、時に戦友が壊れたり、敵討ちを達成したり、されたり……そんな単純なストーリーなのだが、古代兵器の存在を仄めかされ、どちらの陣営が古代兵器を手中に入れるかがミソだったのだが……
そういえば、ユウキって昏睡状態だったし、バトロイドの良いところしかしらないのか……? え、アレ……言って良いの? こいつに?
「ネタバレ、してもいいの……?」
俺は恐る恐る尋ねる。
そんな俺に、ユウキは目を瞬かせた。
心底不思議そうに、少し怪訝そうに宣う。
「だって俺、もう見れないし」
「えぇ……や、そうだけど……後悔しない?」
確かに、異世界転生してしまっている俺たちに、向こうへ帰る方法はなく……いや、待て。ユウキはこの世界の創世神で、いわば全知全能の神である。
前世……日本に戻る方法……あるんでは? あ、でも本人がもう見れないと言ってるから、戻る方法はない。もしくは、戻る意思はないんだろうね。
じゃぁ、些末事か。
だが……世の中には知らない方が良いことも多々あり、これもその一つだと俺は思うんだが……ファンなら余計に。
「え、そんなん言われたら気になる」
目をキラキラ輝かせて俺に近づいてくるユウキ。
どんな結末なんだ、と期待に心躍らせているのがありありとみえる。
良いのか……? ほんと、アレをしゃべってしまって……大丈夫か?
でもここまで言ったら、もう言わないのも……ええい、ままよ!
「……古代兵器は実は、美少女製造マシーンで、理想の少女人形を目に、両陣営のリーダーが涙ながら崩れ落ちたところで終了」
ゲロった。
ゲロっちゃった。
しばしの沈黙の後、ユウキが深く、長い吐息を吐き捨てる。
無論、嘆息である。
「打ち切りENDかよ……!」
「そうだよ。……そうだよ……」
それほどファンではない俺ですら、当時は「そんなご無体な!?」と叫びました。
まぁ、演出が派手で人気だったが、最後は……雑になってきてたからなぁ……「ストーリーが単調」とか「壊れるだけじゃ物足りない」とか、散々叩かれての打ち切りだった。……惜しい作品を無くした……。
しみじみと前世で読んだ漫画に思いをはせていたが……
「異世界転生モノの定番っていったら、チートスキル貰って無双して、女子にちやほやされて……って鉄板じゃん? 実際異世界に転生したのに、現実は創作程甘くないねぇ……」
「そらねぇ……」
「創世の神様がよく言うよ。お前こそチートじゃねえか」
「にゃはは。そうはいうがねぇ。これでも数億年以上生き抜いてきた実績がチートみたく見せてるだけでな?」
「ほーん?」
「転生したては……それこそ、『世界の外側』と呼ばれてる場所しかなかったんだよ。それを、いろんな犠牲をもって枠を作って、世界を形作って……創世神とか呼ばれもするが、俺は結局おいしいとこどりしただけでなぁ……ま、そこは関係ないか」
「何が言いたいんです?」
「ほら、生身の人間ではなくなったんだがな? 『世界の外側』って、生命が生きてける場所じゃないじゃん? そんな場所で俺は、孤軍でコツコツ世界を形作ったわけだよ。そら、死にかけることなんて……両手両足じゃ足りねぇくらいしてるし? 世界ができた、やったー。生命できた!? 見に行こう! で殺されかけたことも何回も……今でも俺を殺せる奴、居ないわけでもないしね」
「チートみたいなくせに?」
「そうみえるだけで、この体は普通の人間とさほど変わらんよ。……流石に、本体はちょっとやそっとじゃ殺せないだろうけど……でも、死なないわけじゃないんだわ。内緒な?」
寧ろ誰に言えと……?
半目でユウキを睨めば、「にゃははは」とはにかんでいた。




