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#40 望外の知らせに衝撃しか感じないよね。

「きなこ、晩飯食ったら向こう戻る感じ?」

「そだねえ、仮退院は1ヶ月後、かな」

「……めっちゃ早いな」

「そんだけきなこが努力したんだよ」

「まあ、ユウキには迷惑かける」

「……もともとは俺のせいだぞ?」

「……きゅっきゅちゃんを産んだのは世界の外側にいる優樹で、お前と優樹は別人格なんだろ? 連帯責任とか言っちゃうやつ? そもそも、産んだだけで責任感じるのもどうかと……保護してんのは俺なんだから、今回の件は俺の責任だろ……?」

「うーん……ガキにそう言われて折れたら大人である俺としてはちょっと複雑」

「何言ってんのさ」

「だが、まあ。きなこがあんなに優秀だとは思わなかったし、きゅっきゅちゃんに対する考えも変えてくれたわけで……君等には感謝すらしてるわけだ……やっぱお前は俺の恩人だわー」

 感謝感激雨あられ、と対して感謝してなさそうな態度でいうユウキに俺は胡乱げな顔をするしかない。


 だから、俺はお前に何かした覚えはないし、恩人言われてもこまるんだっての。


 こっちこそ、めっちゃ良くしてもらってこの恩どう返せばいいかわからんっていうのに。

 きなこの命を救ってもらってるし、こんな……豪邸建つレベルのアイテムをポンとくれるし。


「豪邸建つレベルのアイテム……治療費払えんぞ……俺」

「請求するつもりないってば。もともときなこは俺の眷属って言っても過言ではないし」

「過言だろ。優樹とユウキは別人じゃねえか」

 俺の言葉にユウキは瞬いた。

 数瞬考える素振りをして、それから笑う。

「……なら請求するか……」

 あ、やべ。ようよう考えたら豪邸建つレベルの金銭用意できねえわ。

「前言撤回させてもらってもよろし?」

「にゃははは。やだ」

 一笑してから真顔で拒否された。

 感情がジェットコースターかよ。

 そして俺の感情こそジェットコースターだ。

 家族を破産させちゃう……

「ま、最早半ば趣味の域だしね。きなこの件は。魔導結晶が作れるようになったら、きなこを数日貸してくれ」

「え、ええー? 俺じゃだめ?」

「……お前……魔導結晶作れるの……?」

「無理ですね。ナマ言いました」

 しかしきなこの身を無断で貸すのは……人身売買みたいでやだ。

「きなこ自身に許可取って、いいって言ったらでいいです……?」

「イイヨ」

「温情感謝します……」


 もう、そうしか言えないよね……ハズカシイ。


「まあ、お前はお前をもっと知ってから……かな」

 すんごく微妙な、形容しがたい顔でそう呟くユウキ。生温い顔っていうか、遠くを見る目というか。

 なんというか、いい意味にも悪い意味にも取れる、やな表情だった。

「おん?」

「俺からはそうとしか言えんかなあ……ネタバレは、ねえ……?」

「……?」

 首を捻るしかないね。

 ユウキの言葉は少しむずかしい。


「そいえば、お前幼稚園はどうなん? 日本と違うでしょー?」

 あ、話そらされた。

 が、まあ……今はありがたいか。

 素直に話に乗っかることにする。


「園児の勝手としては変わらんけど、異種族が多い分、差異はあるかなー。サキュバスもいるからびっくりしたというか」

「ああ……ファンタジー知ってるならビビるか……そりゃ」

「園児同士だからなんもないけどね……でも、成人したら……とか想像の余地あるよね……」

「いうて、あっちにも選ぶ権利はあるからな……?」

「そりゃそうだろ……つか、なっちゃんはユマくんが好きだし、俺が間に入る余地ないし……? つか余地あってもやだわ。俺は傍から生ぬるい目線を送ってたいだけで俺自身が巻き込まれたいわけじゃない」

「……複雑な精神してるんだな……」

 なんか哀れなものを見るような目で見つめられた。

 真っ当な精神だと思うが……解せん。


「でもインキュバスとかサキュバスって、どんな種族でも子供できるんだろ? どういう構造なんだろうな? ノームとかも孕ましたり孕まされたりできるの? 気になるねえ……」

「お前……時々マッドっていうか……サイコパス味を感じるな……実験するなよ?」

「しねーよ! 倫理観はちゃんとあるから!」

 俺の未来を心配するなっての!

 とはいうが。

 もっと不思議生物が目の前にいるんだよねえ……


 神。

 神だぜ?

 神っていや、人間と交わったり孕ませる逸話がごろごろあるじゃん?

 こいつも、異種族……いろいろ……あるんでづかね!?


「そんな期待した目で見られても、俺とヤッたとして子供はできねーぞ」

「あら、そうなの?」

 意外だった。

 ほら、だって前世の神話とか、神様ってどんな種族とでも子供で来てるっていうか……ね?

「魂の格が違いすぎるから、子供ができることはないかな」

 なんていうユウキ。

 へー。魂の格が……魂に格なんてあるのか。

「へー。この世界じゃ神の子ってできないんだ?」

「いや、俺の規格がおかしいだけで、格を下げたりして一時的に人と同レベルにしたらできることもあるんじゃないかな。俺が無理なだけで」

「どんなけ規格外なんだ」

 あれやん。小説の主人公やん。

 いや、文字通り神か。


「だいたい、俺は相手は一人と決めてるのー。操たててるんですー。変な妄想に巻き込まないでくださーい」

 なんて茶化した口調で宣うユウキ。

 妄想に巻き込むなって……別に、お前をどうこうしたいわけじゃないし……そもそも俺は二次元専門で、ナマモノ系は苦手なんだが……

「えー? 想像するくらいいいじゃんー。ケチー」

 でもクチでは調子乗っちゃう。

 これくらいの軽口は許してくれる仲だと思いたい。

「やだよ腐男子! おま、そんないうならイベント連れてくぞ!?」

 が、返ってきたのは俺の想像した反応とは違った反応だった。なんか、想定外というか、サプライズ?

「イベント?」

「……幕張」

 幕張……? 幕張?!

 幕張って、あの? あの?!

「は?」

 内心は最早お祭り騒ぎを通り越して狂乱。

 頭が処理落ちした結果外面のリアクションは内心とは反比例に静まり返ってしまった。

「おやおやおや!? ここまで墜ち人が文明侵略してる世界であのイベントが存在しないとでも!?」

「ま、ままままま……まさか!?」

 処理が復帰する毎にテンションが鰻登り。

 期待が確信に近づく度に俺の冷静な部分が『おおおおおちつけけけけけけ』と叫ぶ。

「……まあ、お前がハマるジャンルがあるか知らんが。アニメはいろいろ履修しとけ?」

「あああああああああああああ!?」


 崩れ落ちた。

 青天の霹靂だった。


 まじか。

 あるのか。

 そらそうだ。

 なんか泣けた。


 あの祭典に、俺は行けるのか。


 前世の俺は、ネット小説に齧りついていた。

 それこそ貪るように読みふけっていた。

 そして、あの祭典は夢であり、憧れだった。

 でも夢は潰えたのだ。


 なんせ事故で死んじゃったんだもん。

 異世界に転生したんだもん。


 でも、諦める必要はないと言われた。


 前世で流行ってた漫画はこの世界じゃないだろう。

 だが、この世界でも、あの祭典に準じたものはあると明示されたのだ。今度こそ行けるのだ。


 感動した。感激だった。

 きゅっきゅちゃん以外にも目標ができたのだ。

 うん、俺、頑張って生きようと思う。


「……な、なんかがんばれよ」

「うん、がんばる」


 と、いうか。

 これから頑張ればクリエイター側になれるんでは?


 粘土こねてフィギアもどきは作ってるのである。

 所謂原型師、目指せるのでは?


 二次創作、できるのでは?


「おーい、ハルトー? ハルトくーん? ……だめだ、あっちの世界に行っちゃったよ……でもまあ、澪夢には報告しとくか……いい仲間、できそうだ……ってね?」


 なんかユウキがブツブツ言ってるが、知らない。

 ユウキをほっといて俺は夢への目標を考えるのだった。


 ……


 何時のまにか夕方を過ぎていた。

 クッションに寄りかかってユウキが寛いでいた。

 手の中では透き通った青い結晶が構築されている。

 魔導結晶……だろうか。

 キラキラ輝いていて、綺麗だ。


「あ、戻ってきた?」

「戻ってきたって……まあ……」

 思考に熱中してたのは謝るが。

 言い方よ。


 部屋が暗くなるつつあったので、照明をつける。


「結構暗くなってたのなあ」

 なんてユウキが呟く。

 2時間位、思考にふけってたようだ。


 何時のまにかきなこも部屋にいた。

 クッションで寛いでるユウキの膝の上に丸くなっている。


「あ、きなこ」

「きゅきゅー」

 きなこは微動だにせず、俺を一瞥してから視線を落とし、またとろける。

 ええー、来てくれないのか。

 つか、入院生活でユウキときなこの仲も変わったようだ。

 いいことなのだが、少し淋しい。


「きなこ、母君とはお話できた?」

「きゅ? きゅきゅー!」


 できたらしい。良かった。

 きなこはユウキを見上げて、それから俺の足元に跳ねて移動する。


 それから触手を伸ばして俺の足をペシペシ叩いた。

 それから俺の肩に飛び乗って、触手で俺の頭をなでりこなでりこと撫でてくれる。


 うふふ。なんかすっごく癒やされる。


「きなこー、来月仮退院だって。またお家で一緒に暮らせるってー。うれしいねえ」

「きゅっきゅー! きゅーきゅきゅきゅ!」

 きなこも嬉しそうである。

 俺の肩の上でぴょこぴょこ跳ねてきゅっきゅきゅっきゅ鳴いていた。

 きなこはかわいいなあ……

 ひとしきり跳ねたきなこはユウキを見てから首を傾げた。

「きゅきゅ? きゅっきゅきゅー?」

 何か尋ねたらしいきなこ。

 それにユウキが首を傾げた。

「んえ? え、あー……まあ、退院は可能だよ。ただまあ、そういうなら月に1回か2回家来るか?」

「きなこ何言ったの?」

「家に帰れるのは嬉しいけど、魔術のお勉強が中途半端なのが気に食わないって」

「べんきょーねっしんだなあ……」

「きゅきゅ? きゅきゅーきゅー。きゅっぺぺ」

「魔術師として相当優秀だなあ。魔術は楽しいから学びがいがあるってさ」

「きなこは賢いなあ……俺も勉強頑張るから、一緒に頑張ろうなあ」

 肩に乗ったきなこを抱きかかえて、頭をなでこなでりこと撫でる。

 と、一階から声がした。


「ご飯できたわよー。おりてらっしゃーい」


 およ。御飯の時間か。


「もちろん食ってくよな?」

「お相伴に預かります」


 素直に答えるユウキだが、あのユウキがこう……大人の対応してるのみると、なんか不思議な感覚。


 長く生きてるんだから、そら社会も相当経験していて、そういう対応も慣れたもんだろうけど。

 見た目があの時と(色の変化は劇的だしTSだが)さほど変わってないからか、どうしても変なところでユウキを14歳のあのユウキだと認識してしまってる俺がいる。

 頭では、神様で、俺よかずいぶん長生きな超越者だと認識してるのに、心のどこかで、感情がこのユウキは俺の知る高藤優樹だと思いたがってるというか……?


 まあ、俺自身も転生して、かつての……橘悠人とは、見た目は変わり果ててしまってるのにね。中身があまり変わってないと思ってるから、こう……ユウキもそうだと思いたいのかね?


 難儀な性格だな……俺も。


 夕ご飯はすきやき定食だった。

 きなこは滂沱の涙を流してご飯を食べた。ご飯もおかわりした。


「いっぱい食べるから作りがいがあるわあー。いっぱい食べてねー」

 母君が笑顔で山盛りご飯をきなこに渡す。

 きなこの食欲は、入院前よりさらに旺盛になったようだった。そんなきなこを微笑ましく母君は見ている。

 俺は……きなこほどの食欲はないけど、でも、きなこの食欲につられてか、いつもより少し多めに食べれた。


 ユウキはきなこの食欲にドン引きしていた。


「ユウキさんもおかわりいります?」

「あ、いえ……充分です。ありがとうございます」

 

 母君とユウキ、どちらの反応が正解なのかは、俺は考えないようにしようと思う。

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