#36 この世界の神様はみんな働き者なのか?
土曜だー!
ようやく土曜である。
もう早朝から待ちきれなくてうろうろしちゃう。
自室の出窓と玄関を行ったり来たりうろうろ歩いてたら、起きてきた父上に不審がられた。
「……気が早すぎないか、ハルト」
「へ!?」
わくわくを抑えきれない顔で父上を見たら、少しヒいてた。
そんな顔せんでも……
と、いうか。
土曜日……と、いうか。休日だったとしても、父上のパジャマでいる場面なんて見たことないからさぁ……なんか、新鮮だよね。
いや、今までの環境がおかしかったんだけどさぁ……まぁ、この違和感にもとれる新鮮さは、しばらく慣れないんだろうねぇ……慣れるしかないんだけど。
俺も父上をしげしげとみていたが、父上も俺をしげしげとみていた。
なんだか、珍しそうに見てる。俺は珍獣か何かですか……?
「な、なに……?」
声を掛けると、父上は気まずそうに笑い、俺の頭を軽く撫でた。
それから「きなこちゃんが戻ってくるの、10時ごろじゃなかったか?」と言いおいて、父君は去ってしまった。
行っちゃったよ。
まぁ、確かに10時ごろなんだけどね。ユウキが言ってた時間。
時計を見る。まだ7時。時間はたっぷり残ってる。
待ち遠しいなぁ、待ち遠しいなぁ!
……いったん深呼吸。すー、はー。すー、はー。
少し落ち着いた気がする。
キッチンへ向かうと、母君が苦笑していた。
……まぁ、あんだけ家中うろうろしてたら、ね。
「……母さんだって、きなこが帰ってくるの楽しみでしょ?」
俺の奇行がばれてるの前提で話したら、母君は笑みを朗らかなものへ変え「それはそうよ」と頷いてくれる。
「きなこちゃんの為に、ラ・ブリーズでケーキ予約したんだからぁ」
いつのまに……
ラ・ブリーズとは母君のお気に入りである、あの喫茶店の名前で。
いつのまにかケーキを予約していたらしい。チーズケーキ……ではないですね。
たぶんきなこが好きなフルーツケーキでしょう。
それか母君お気に入りのベリーケーキ。
……まぁ、予約だからねぇ……ホールケーキだろうから、しゃーないんだけど……ラ・ブリーズでチーズケーキ頼まないって……マジ? チーズケーキないのぉ……?
チョットしょんぼり。
……まぁ、また今度母君が連れてってくれるだろ……いいんだぁ……別に今日はチーズケーキなくったっていいんだぁ……
……いつか大人になったら、ラ・ブリーズでコーヒーとチーズケーキをキメて優雅なブレイクタイムをするんだぁ……
ちょっとしょげつつ朝ごはんを平らげ、ご馳走様でした。
それから軽く散歩する。まぁ、休日の日課ですな。
ちょっと遠出して、駄菓子屋さんまで行くかなー。
俺の行きつけの駄菓子屋さんは、珍しいことに早朝から開いている。
朝7時から開いているので、もう入れるだろう。
徒歩20分くらいの距離にあるのだが、行けばやっぱり開いてた。
みんなには秘密だが……この駄菓子屋さんの店主は神様なのだ。
名前をイワナガヒメという。
そう、日本神話に登場する神様の……分け御霊なのだ。
ありがたや~。
店前で合掌したくなるよね。
「イワナガヒメ様~おはようございます~。開いてますでしょ~か~」
間延びした声で言いつつ扉をくぐれば、昔懐かしい駄菓子屋が視界を占める。
木造の家の、一階部分……広く取られた土間に棚や机が置かれて、しこたま駄菓子が並んでいる。
一番奥に上がりがあって、その上に長机と七輪。
長机の上にレジが置いてあって、レジ前に妙齢の女性が座っている。
長い灰色の髪を後ろでポニーテールにし、甚平姿で法被を着ている……ギャルメイクの女性。
瞳は魔力を宿して、キラキラと輝いている。
「おー、少年。おっすー」
気軽に手を挙げて応えてくれるが、視線は新聞から動いていない。
……正真正銘、イワナガヒメ様である。
やっぱり、美人だよなぁ……いつ見ても人知を超えた美しさを感じる。
が。
ユウキとは違って、時代によって価値が変わる美しさだ。
……あれだ。
ギャルだもん。
日本神話では醜女として有名な神様だが、あれだ。
人類がこの美に気づくには、時代が早すぎたんだ。
だって、サクヤヒメのお姉さまですぜ? そら、単なる醜女なわけねえよなぁ……。
……いや、イワナガヒメ様を拝みに来たわけ違うのよ。
俺はきなこにお土産を買いに来たのだ。
ユウキのもとで修業しているかわいいきなこさんの為に、日持ちするお菓子をいっぱい買って持たせてやるのだ。
「ということでイワナガヒメ様。おいしくて片手で摘まめて日持ちするお菓子を一緒に見繕って下せえ。上限は1ガルドで」
ガルドは、アルヴェリアの通貨だが……本来駄菓子屋で出るようなものじゃない。
単価の安い商品は大体補助通貨のリーブで事足りるからだ。
日本で例えるのは難しいが……駄菓子屋で1万円使い切ろうとしている……的な?
実際はもっと酷いんだけどね。
なんせ、アルヴェリア王国の通貨はガルドだが、補助通貨はリーブともう一つ、ペニーがあり、ガルド>ペニー>リーブだからだ。
1ガルド=10000ペニー=100000リーブである
リンゴ1つ100リーブ(もしくは1ペニー)だから、日本円なら……1リーブ=1円くらいだろうか。
まぁ、だから。
1ガルド(実物はもちろん金貨だが、基本サテライトにされているので俺らが使うのは電子マネーである)を駄菓子屋で使うのは、豪遊も豪遊だったりするんだが……
まぁ、次いつ会えるかわからんしね。たくさんお土産もたせてやるんだ……!
「……少年。あーたって、ブレーキとかないわけ? 駄菓子で1ガルド使うやつ、そうそういないんだけど」
「うんむ。わかります。が、滅多に会わない愛しのきなこに貢ぐ用です。またしばらく会えないので、たーくさんお菓子を持たせたいのです」
「きなこ……あーたのペットじゃなかったっけ? あーし、ペットに駄菓子与える奴、初めて見るかも。悪いこと言わんからやめとけー?」
ちょっとヒキ気味というか、確実に虐待疑われてるよね。
そらそうだ。俺も聞いただけならペットは犬猫の類だと思うし、止もする。
「大丈夫ですイワナガヒメ様。うちのきなこは駄菓子を食べてもいいと主治医からお墨付きをいただいております。だから買わせてくだせぇ~」
「そこまで言うならあーし、とめはしないけど、さぁ……それ、大丈夫なやつー?」
「大丈夫です。きなこが家に帰ってきたら、連れてきます。かわいいやつですよー。うちのきなこ。そして賢いんですよ~」
「ノロケはノーセンキューだよ。少年」
結構塩対応してくるが、そこがいいんだよなぁ……
やっぱ神様はこうでないと……
が、きなこに興味を持ってくださらないのはちょっと、寂しい。
「きっと会ったらきなこのこと好きになってくださると信じてます……っと、きなこの由来はきなこ餅だけど……きなこ棒も、きなこにたべさせてみたいな……」
「……きなこ、きなこって、ややこしいね?」
駄菓子を入れるバスケットを差し出しながら言うイワナガヒメ様。
ありがたく使わせていただきつつ、ややこしいか? と思考する。
確かに、きなこきなこ連呼してるけど、さぁ……。
「まぁ、きなこ餅からとってますからね。名前……母君が食べてたんですよ。名付けるときに。僕、和菓子好きなので……」
「なるー? じゃぁ、千寿荘の汁粉とか気に入るかもねー?」
話を変えられたが、聞き捨てならないことを聞いた。
だから俺はイワナガヒメ様に意識を集中する。
おいしい和菓子屋の情報は、いくらあっても足りねえからね!
「せんじゅそう……ですか?」
「そう。あーしの姉妹……チルヒメ知ってーしょ? あやつがその店で占いしててさー。たまーにあーしも行くんだけどー。汁粉が絶品なんよー」
チルヒメ様が店主……ってわけじゃないんですね。店の一角を借りて占いをしているのか。その占いも気になるね? が、今重要なのは汁粉の話だ。
「へー……せんじゅそう……覚えておきます」
「夏限定だけどー。くずもちも最強」
「くずもち……いいっすね。僕も好きです」
じゅるり。俺、くずもちも好きなんだよねー。
じいちゃんの和菓子屋の人気メニューでもあった。
季節ごとに餡や封入する花とかを変えて、見た目の美しく食べておいしい和菓子だった。一時は映えスイーツとして女子にも人気だったのだ。
もう食べれないけど、じいちゃんの和菓子……もっと食べたかったな……。
「少年、落ち込んでるけど……大丈夫?」
「心配は無用です。イワナガヒメ様……遠い昔を想っただけですので……」
「そう?」
急に興味なくすやん? 流石……ギャルだ? ギャル関係あるか?
まぁ、そもそも神様ですしね……こう、人の世に降りて人々に混じっているとはいえ、神様の価値観と人の価値観のスケールが違い過ぎるからねえ……しゃーないんですかね?
とにかく、イワナガヒメ様とも相談しつつ、結局買い物袋1袋分買い込んで、帰宅した。1ガルド使い切ることはできなかったよ。そらそうか。
「少年、多すぎても困ると思うぞー」
ドクターストップならぬ、イワナガヒメストップだ。
「きなこが元気になったら連れてきますからー」
「あいよー。期待せずに期待しとくー」
手を振ってお見送りしてくれるイワナガヒメ様。
……神様なのに、軽いよなぁ……そもそも商いしてるし……
神様だからって、神様稼業だけでやっていけないのかね……ユウキも魔術講師や魔療師、そもそも冒険者とかいろいろ働いているらしいし。
……この世界も世知辛いにゃぁ。




