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#35 きなことおしゃべりします

 Ark。

 思った以上にホワイトだった。

 白って200色あるらしいが……ピュアホワイトにちかいホワイトだった。恐れいったわ……


 そして恐れ入ったわ澪夢さん。

 あんな激烈ホワイト企業でなんであんなブラックな働き方できるんだ。


 きなこの件があって以降。父君はびっくりするくらい定時退社で帰って来るようになった。

 休日もちゃんと休めるようになり、俺と遊んでくれたり、家族で出かけることも増えた。

 かなり、健全な家庭になってると思うし、おおよそ、不満はない。

 ……きなこが家に居ないこと以外は。


 ……なんというか……きなこが居る、居ないで家庭の彩度やら明度が変わるよね。

 なーんか、暗い。

 きなこがユウキ宅で治療されるようになって数ヶ月。特に、きなこが目覚めるまでの1ヶ月はまじで我が家はお通夜モードでした。

 目覚めてからは2,3日に一回、数時間サテライトで通話するようになったのだが……それでもこの有り様である。

 特に母君の落ち込みようがまずい。

 鬱じゃないよね……?

 家事は一通りやってくれるし、俺を幼稚園に連れて行ってくれるし……明るく振る舞おうと努力してくれてるのもわかるのだが……

 俺がわかるくらいには無理してる。

 無理しないで寝てくれと寝室に追い返したことも2度や3度ではない。それくらい、母君にとってはきなこは支えになっていたようだ。

 ……まあ、俺も人のこと言えんのよなあ……


 きなこが家からいなくなっただけといえばそれだけなのに。

「ハルト君大丈夫?」「ハルト君どうしたの?」と会う人会う人に聞かれるし……

 普通にしてるつもりなんだけどねぇ……


 こう、数カ月で俺ら家族の心をかっさらって行ったのだ。きなこ、恐ろしい子。

 ……まぁ、俺は既に『世界の外側』できゅっきゅちゃんに心を奪われてたわけだが。


「き~な~こ~~~~~」

『きゅっ……きゅ、ぺぇ……』

 サテライトのホログラムウィンドウに被りつこうとして、実体のない画面だからこそすり抜けて床に頬をこすりつける羽目になった。

 そんな俺を画面内から見下ろして呆れた声を挙げるきなこ。

 ……あー……これこれ、これがないと……ね。


 ひとしきり、きなこを一人で堪能してから母君のもとへ向かう。

 いや、母君のサテライトとグループチャットにしてもいいんだけど。ね。

 俺が母君のもとへ行ったら済む話だし、ね?


「きなこちゃん! 元気そうでなによりね。……おとーさんはまだ仕事中でいないんだけどね? 最近早く帰ってくるようになったんだけどね……今日は珍しく残業みたい。でも安心して? 比較的早く帰ってくるから。きなこちゃんが帰ってきたら家族みんなでお出かけしましょうね? 何処に行こうかしら……あ、おばあちゃんに会いに行きましょうか。私のおばあちゃんだから、ハルトにとっては曾おばあちゃんだけど。ハイエルフで凄腕の司祭様なのよ? きなこちゃん、今魔術のお勉強してるんでしょ? おばあちゃんと会ったら、新たな知見を得られるかもね?」

 マシンガントークできなこに近況報告やら、提案やらまくしたてている。

 ……あの、母君? きなこが師事してる人……というか、神様……魔術を司る神様だし、魔道教の中でもトップクラスの魔術講師なんだが……。

 曾おばあ様に会ったとて……新たな知見……得られるかなぁ……得られるのは逆に曾おばあ様かも。

 

 そういえば。

 魔道教は宗教である。が、同時に学問でもある。

 ので、信徒には2パターン存在する。

 すなわち、純粋に神を信仰する者と、魔術を研鑽するために所属しているもの。

 前者は母君とか。後者は所謂魔術師だ。

 で。

 曾おばあ様は、司祭なので……宗教色が強い前者……なんだが、魔道教のシステム上、やはり凄腕の魔術師ではある。

 ……曾おばあ様にユウキのこと教えたらどうなるんだろ。

 ……いや、会ったことはあるらしいけど。でも創世神だとか、魔道教の守護神だとかは知らんでしょ。流石に。……確認してないからそこらへん謎だけど。

 腰抜かすかな? ……あの人が腰抜かすとこなんか想像できんが。


 ハイエルフは、とても長命な種族だ。

 竜ほどではないが、それでも数百年程度では老年とは言わない。

 エルフの寿命が平均500歳だと言われているのに、ハイエルフになると20倍もカタいのは、なかなか不思議である。

 まぁ、ハーフエルフは因子がエルフよりか人間よりかで話がだいぶ変わるので、それと比べたらシンプルな話かもしれない。


 ドラゴンもそうだが、異種族とのハーフは、なかなか難しい話である。

 どちらの因子が強いかで、優劣が露骨に決まる。

 

 例えばドラゴンとヒトのハーフは、精神が人間寄りで肉体がひと寄りの場合は神童と崇め奉られる。そしてその悠久に等しい寿命を使って、すさまじい功績を築くものが多いらしい。

 逆に。

 精神がドラゴン寄りで肉体が人間寄りの場合……それはそれで、親に一生かわいがられる。

 残酷な話だが、親にとっては、子が赤ちゃんのまま一生を終えるのと同じなのだ。

 そりゃ、死ぬまでかわいがる。何だったら、一族全員でかわいがるらしい。


 俺から見れば、発達障害に等しい。そんなハーフだが、彼ら本人は、親や一族にかわいがられ、子供の精神のまま、寿命を終える。それは、幸せなんだろうか、どうなのだろうか。


 ……まぁ。今のはドラゴンを例に出したが、俺らも他人ごとではないのだ。

 なんせ、曾おばあ様がハイエルフ。そして曾おじいさまは……人間だ。

 つまり、爺様はハーフエルフなのである。だから、母君はクオーターエルフだ。

 が、曾おばあ様がハイエルフなので、因子の性能からすれば、爺様はエルフ、母君がハーフエルフ相当である。

 だから、俺が因子の性能から見ればクオーターだったりする。

 

 で、だ。

 母君と俺は見た通り人間の器なので、何かのかけ違いがあったら、精神がエルフ寄りになっていた場合もあったわけで。その場合……精神の成長スピードが人間の規格に合わず、エルフ並みにゆっくり成長するわけで……死という観念すらわからず寿命を終える可能性もあったわけである。いわゆる一生子供で死ぬわけである。

 ……まぁ、俺は前世の知識があるしね。精神も人間寄りなのは確定なんだけど。


 なにがやばいってさ。

 ドラゴンは、精神が子供でも「幼い子かわいー」の精神で死ぬまで面倒見てくれるけど、エルフは混血を嫌う純潔主義者の集まりなのである。

 つまり、混血である時点で、その子の人生はオワコンなのだ。

 曾おばあさまは、そんなエルフの枠からは離れた観念をお持ちだったので、この国へ亡命して爺様を産み、育てた。が、大抵のハーフエルフの末路は……悲惨なものである。と、母君から聞いた。母君も、曾おばあ様からの受け売りらしいがね。


 まあ、それ以前の問題で、ハーフは生まれにくいというか、妊娠までもハードルが高いが、やっとこさこぎつけても流産するリスクがバチクソ高い。


 生まれてこれなかった混血児のほうが圧倒的に多いんだよねー……そして無事生まれてもまだまだ困難は続く……


 ……なんにせよ、俺は幸せ者って話だなー。


 ……違うな。魔術師の話だったな。思考が脱線するのは俺の悪い癖だ。


「きなこー。ユウキさんはどうー? 教えるの上手―?」

『きゅきゅ? きゅっきゅきゅー』

 ……反応が芳しくないな。ユウキ、スパルタしてないだろうな?


 俺の心配をよそに、きなこは空に触手を伸ばす。

 そして触手の先端に光を纏わせ、空に文字を書きだした。

 あ、アルヴェリア共通言語。え、書けるの!?


 ショックだった。

 俺はまだまだ書けないのに……


「なになにー? ……ハルト、読める?」

 ふんふんときなこの書いた文字を読み、頷いた母君は俺を見た。

 そして、俺の反応を知っていて敢えて尋ねた。

「……読めてるように思いますか……?」

 さめざめと泣きながら答える俺。……全く情けないが読めない。

 そんな俺の頭をポスポス撫でて、母君は苦笑する。

「きなこちゃん、ハルトとお話しできるようになるの、楽しみにしてたみたいよ? 文字のお勉強、頑張らないとね。……母さんも手伝っちゃうから、がんばろっか!」

「はい……精進します……」

 意気消沈である。

『きゅきゅー!きゅっぷぷー!』

 きなこも応援してくれているようだった。


 しばらくきなこと俺、そして母君でわいわい談笑していたが、画面にユウキが映りこんで来て『そろそろいいかー?』と尋ねてきた。


「ダメ。足りない」

 即答で返す。もっとしゃべりたーい!

『次の土曜、一旦帰宅するから許せよ。……もう9時前だぜ?』

 およ?

 ユウキに諭され、時計を見れば確かに9時を針が差そうをしていた。

 もうこんな時間だったか。きなこと喋っていると時の進みが速いなぁ……。

「じゃぁ、きなこ。また……って、一時帰宅?」

 聞き流しかけていた重要な言葉を認識し、ユウキを見ればいたずらっぽい笑みを浮かべていた。

『そだよー。土曜日あいてるじゃろ?』

 いや、予定入ってても優先しますけど。

「一時帰宅できるくらい元気になったのか」

『んー……まぁ。きなこが賢いからな』

 なに、その含みのある言い方。

『にゃぱぱ。詳しいことは土曜日になー』

「そっかあ、そっかあ。土曜日に帰ってくるのかー」

 ちょっと、いや、だいぶうれしい。あのかわいいボディーを抱っこできるのだ。

 ふわふわもちもちたぷたぷボディーを……!

 感動である。生声を聞けるのもとてもうれしい。

「じゃあ、土曜日はご馳走作らないとね!」

 表情を今まで以上に明るくさせて母君が張り切った声を挙げる。

『きゅきゅきゅ!』

 ご馳走の単語にきなこは過剰に反応した。

 まあ、母君の料理に胃袋掴まれてるもんね……


 わかる。俺も掴まれてるもん。鷲掴みよ。

 いや、母君の魅力は料理だけじゃないけどね。


 一時帰宅なので、またユウキ宅に戻るのだが……それでも、一時でもきなこが帰ってくるのは存外の喜びだった。


 後数日後の土曜が楽しみである。

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