#32 きなこのいる日常
きなこが家族として加わって数カ月がたった。
父上の仕事は忙しい。
お役所の仕事なので、しゃーないっちゃ、しゃーない。
毎朝、日が明ける前に出社し、日付が変わるギリギリに帰ってくる。
……疲れ切った、げっそり顔で。
そんなくたくたに疲れた父上を見かねてか、哀れに思ってか。
父上がご飯を食べているときにきなこは歌を歌っていたらしい。
らしい、というのは。
俺は夜9時あたりで寝てしまうからだ。
……いやぁ、5歳児があんまり夜更かしするのは、ねぇ……?
きなこが9時あたりに寝かしつけにくるしねぇ……
俺はきなこに対して父性みたいなものを抱いているらしいが、きなこはきなこで俺に対して姉ポジションだと自認しているらしい。
俺が寝るまで一緒に添い寝してくれ、俺が寝たら父上が帰ってくるまで待っているらしい。
……ちょっと不甲斐ない。
まぁ、俺が寝ずに待っててもね? 父上や母君が心配するのわかってるからね?
俺は寝るしかないのよ。余計な心労掛けさせてどうするって話でさぁ……
……まぁ、心配ではあるんだけどねぇ……。
きなこが夜更かししているせいか、最近は昼までぐっすりなのも気になるし……朝の語らいがないので少しさみしい。特に平日は俺が幼稚園に行く分、なかなか……きなことのふれあいの時間が少なくなっているのである。
こう、父上も何とかならないかねぇ……。
父上さえ定時退社できれば、問題はすべて解決しそうだけど……
給料がそれを許さないのか、職場環境がそれを許さないのか……
……難しい話である。
「……とうさん、今日も早く行ったの?」
朝ご飯を食べつつ母君に聞けば、母君は困ったように苦笑していた。
「そうねえ。誰よりも早く起きて仕事に行っちゃったわねえ」
「……今日もきっと遅いんだろうねえ……最近とうさんを見た記憶がない……」
「早く帰ってきてほしいわよねえ……」
少し怒り気味の母君。
まあ、育児家事一手に担ってる現状ですしねえ……なんだったら帰ってきてからの父上の世話まで……そら、もうちょいはよ帰ってこいってなりますわなー。
俺も父上と遊びたいぞー。特に休日。
まーじで、休日出勤も常態化してるので、どうなってるんだと言いたい所存である。
……あ。
そういえば。
父上の職業はお役所仕事……つまり、Ark職員である。
で、Ark職員を統括しているはずのお方……とは流石に直接連絡できないが。
そんな−8番街−のNo.2と直接話せるらしいやつとはチャットで繋がっているのだ。
ちょっと相談してみようかしら?
んまあ。
幼稚園から帰ったあとでいいかなー?
「そろそろ幼稚園にいきましょうかー」
と、母君が言うので俺は頷いてリュックを背負う。
きなこはまだベッドでスピョスピョ寝息を立てていた。
ほんと良く寝はる。
「きなこ、行ってくるねー」
声をかけても起きない。
普段なら一瞬起きて手を上げてからまた寝る、とかそれくらいの反応はあるのだが……
たまたま深い眠りのタイミングだったのかな。
俺は深く考えずに母君の待つ玄関に向かった。




