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#30 平穏な日常

「……」

お迎えに来たきなこと母君。

朝より仲深まってない?

なあに、これぇ。俺もきなこと仲良ししたーい。


「にゃぁー」

相変わらず顔だけだしたきなこが鳴く。

当然猫モード。抜かりはない様子だ。

「あっ、きなこちゃんだー!」

 園児たち、再び。

 まぁ、朝と比べれば先に帰っていった園児もいるので、集まってくる数は少ない。

 それでも、前かごを囲んできなことタッチしていく。新たな日課よろしくきなこの動作は機敏である。


 暫く園児たちと戯れていたきなこだが、ある程度すると「にゃぁ」と鳴く。

 それがさよならの合図になっているようで、園児たちが「ばいばーい」と手を振ってくれる。きなこはもう一度「にゃーあ」と鳴いてリュックの中に消えた。

 代わりに俺が手を振る。

「また明日ねー」

「ハルト君また明日―」

 

 純粋な子供たちと戯れると、俺も童心に帰るものである。

 ……そもそも、5歳児だけどね?


 自転車が走り出すと一瞬で家に着く。

 玄関でキャリーリュックを置くときなこが出てきた。

 クリーム色の楕円形フォルムがぴょこぴょこ跳ねて洗面台へ向かう。

 めっちゃ賢いやん。

 俺も手を洗うためにきなこを追えば、洗面台に飛び乗って石鹸で触手をあわあわにしていた。つまり手洗い。

 俺も便乗……両手をしっかり石鹸で泡だらけにして、手洗い……

 きなこが触手で蛇口を開けてくれるので、きなこが泡を流してから俺も泡を流す。

「きなこ賢いなぁ……」

「きゅぺ?」

「手洗いできるの、すごい」

「きゅっきゅぷん」

 褒めると得意そうに胸を張ってくる。かわいい。


 手洗いうがいを済ませて、キッチンへ向かえば、母君が晩御飯の準備に取り掛かっていた。

 ……手伝える感じでもないんだよなぁ……

 ちょっとため息を吐きつつ、パントリーへ近づく。

「母さん、きなことおやつ食べていい?」

「あげすぎないようにねー。今日の晩御飯はオムライスよー」

「やったぁ。たまご薄焼き卵が良いなー」

「はいはい。まっかせーなさい」


 母君、リクエストしないとタンポポオムライスにしちゃうんだよねー……や、すげえ技術だと思うんだけどね? 半熟タンポポオムライス。

 でも俺が食いたいのって、薄焼き卵で包んだオムライスなん……。

 できればバターではなく、サラダ油で焼いてほしい。そういう家庭のオムライスが好きなのよ。俺は。


 パントリーのおやつ入れから駄菓子を選ぼうとして、ふと母君を見た。

『食べ過ぎないように』じゃなくて『あげすぎないように』って……

 俺に対する信用が高いのか、低いのか……。

 いや、俺が食べる分には心配ないんだろうね? だけど、きなこにあげる分には信用がない……いやぁ、俺のことよくわかってらっしゃる……。

 甘いお菓子としょっぱいお菓子を一個ずつ取り、自分用にさらに1個選んで合計3つ。よし、許容内!


 お盆にお菓子を置いて、コップ2つ用意し、麦茶を注ぐ。

 一つは無論きなこ用である。

 

 お盆をもって自室に戻れば、きなこがわかめのように長く伸びて揺れていた。

 上に掲げた触手が天井に着きそうなくらい全体的に伸びている。


 う、うわぁ……。


 完全に、魔物である。

 スライムだぁ……ものすごくスライムしてるぅ……

 これ、邪魔していいのかな……


 とりあえず、きなこ用の机にお茶のコップとお菓子を置き、さらにクッションの上に座り、麦茶を一口。

 ふいー、体に沁みますなー……


 そして改めてきなこを見た。

 相変わらず昆布のように伸びて揺れている。

 うーん……きゅっきゅちゃんに言うことでもないんだが……最早コワイ。

 やっぱ魔物なんだねえ……きゅっきゅちゃん。

 ほんと物理法則を無視した存在である。

 普段からは考えれない体積の増加具合。

 どうなってんだ……


 しばらくきなこの奇行を眺めていたが、きなこと目があった。


 あ。


「きゅっちゃあ……」


 ぼろぼろと涙を流しだすきなこさん。

 あっばあああああああああ!?

 おおおおおおおおおおれなにかしましたか!?


 あわあわと慌ててしまうが、きなこの涙は止まらない。

 しゅるしゅるといつものサイズに戻ったきなこが俺に飛びついてきた。

 背中を撫でてやるしか出来ない。

 極短毛の、ベロアのような撫で心地は俺のほうが癒やされる。ああ、いや、癒やされてる場合じゃない。

 ほんと、何があったかわかんないけど、取り敢えず泣き止んでもらわないと……

 あわあわと慌てつつ、俺はきなこの背中を撫でながら泣き止むのを待った。


 結局夕ご飯まできなこは泣き続けた。


「……きなこちゃん泣かしたの?」

「なんで泣いてるかわからんとです」


憔悴しきった顔になってるであろう俺と、抱きかかえられて涙で目元をぐっしょり濡らしたきなこがダイニングへ行くと、母君が少しいたずらっぽい笑みを浮かべていた。

なーんですか、その顔はあー。

俺だってなんで泣かしたかわからないんだよぅ。


「きなこちゃん、ご飯食べれる?」

「きゅっきゅぷ!」

 触手を伸ばして挙手するきなこ。

 やっぱ食欲には抗えないらしい。


 夕ご飯はオムライス。

 チキンライスを薄焼き卵で包んだそれは、安心するおいしさだった。

 コンソメスープとシーザーサラダもしっかり完食。

「ごちそうさまでした」

「きゅっきゅー」

 二人同時に手を合わせて言えば、母君は笑っていた。

 

 食休みしてからお風呂。

 号泣した後だが、きなこの様子はご飯後からはいつもどおりで変わった様子は無かった。

 ほんと、何がきっかけであんな泣いてたのやら……


 お風呂入って、少し遊び、ベッドに入って絵本を数冊サテライトで読み、何時のまにか寝入ってしまった。


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