#29 きなこさんすっげー
朝ごはんを食べ終わったきなこは机から飛び降り、跳ねながら移動する。
向かう先は俺の自室である。
……きなこがこの家に来て数日。完全に勝手知ったる我が家である。
自室に行って何をするか……といえば、きなこ専用コーナーに積まれたパズルやらおもちゃやらで遊ぶのである。
もしくは、本棚の絵本を引っ張り出して読んでるかもしれない。
……読めるのかな、文字……。
この数日で、俺の部屋は4割ほどきなこコーナーに占領された。
それは母君が通販や商店街でいろいろ買い与えたってのもあるのだが、何より父上が仕事帰りにお土産を毎回買って帰ってくるようになったから、が大きい。
いや、この-街-、まーじで”眠らぬ-街-”っていう二つ名に相応しく、24時間営業の店が多いのだ。おもちゃ屋さんだって24時間営業している店も多い。
この-街-は夜行種族が多いからね。マイナー種族にしては、だが。
それでも、公立夜間学校が小中高にもあったり役所であるArkが24時間開いており、夜間は夜行種族が働いているくらいには、夜行種族のウェイトは重い。
ついでに、夜行種族にも朝型はいるらしく、俺の通っている幼稚園にも何人か通っている。
ドラキュリアのマリーちゃんなんかもその一人だ。
今日は、マリーちゃん幼稚園来てるかなぁ……。
朝型、とはいえ、やはり元が夜行種族なので、眠そうだったり睡魔に負けて休むこともままあるので、ちょっと不安。
時計を見ると、まだ余裕はあるが、そろそろ幼稚園に行く時間だった。
「きなこ、呼んでくるね」
「ハルトよろしくね」
母君は今日も朗らかな笑顔を浮かべて手を振ってくれる。
階段を静かに登り、そっと自室のドアを開ければ、きなこは積み木でタワーを作っていた。おー……あの短時間で結構高くしてる……。
少し眺めていると、きなこが振り向いた。
「あ」
「きゅっきゅー……」
不服そうにひと鳴きし、触手でタワーをひと凪して崩した。ぱきゃんっ、と派手な音を立てながら崩れていく。
「ご、ごめん……?」
「きゅっきゅっ?」
俺の気配が邪魔で怒ってるのかと思って謝ったが、きなこは謝られた意図がわからない様子で首を傾げた。
それからいそいそと積み木を片付けていく。鮮やかな手つきである。
一通り片付けてから、きなこは部屋の隅に置いてあるキャリーリュックに潜り込んだ。それから触手を長く伸ばして、きなこコーナーからぬいぐるみを一つ掴み、すごい勢いでリュックに戻っていく。
自ら出かける気配を察して準備をするきなこさん。流石である。
ここ数日で順応が凄まじいい。
幼稚園の制服に着替え、幼稚園のカバンとキャリーリュックを抱え1階に下りたら、母君が玄関先で待っていた。
もう行くらしい。
きなこ入りのキャリーリュックを母君の自転車の前かごに置き、俺は後ろの子供用シートによじ登る。
母君がシートベルトで俺を固定してから自転車に跨った。
「じゃぁ、行きますかー」
幼稚園には徒歩でも行ける距離なので、自転車で行くとすぐにつく。
「せんせー、おはようございます」
幼稚園について早々、先生がいたので挨拶をする。
母君が二言三言先生と会話している間に、俺はきなこのキャリーリュックを覗き込みつつ「いってきます」と声を掛ける。
きなこは猫に擬態したまま「にゃー」と応えた。
擬態って、すげーよなあ。
ちゃんと猫の姿だし、猫っぽい。
割と長時間は擬態するのもしんどいらしいが、それでも擬態中は猫そのものである。
……ただ、きなこは性格上猫っぽくない動作もままする。
なんというか、性格が犬っぽいのか、サービス精神が旺盛なのだ。
「きなこちゃんだあー!」
「にゃにゃーん」
母君の自転車の前かごに乗せたペットキャリーを見止めて園児たちが集まってくる。2,3日できなこの存在は園児たちに周知され、朝は毎回大人数の園児たちが集まってくる。
そんな園児たちにきなこはリュックから顔を出して「にゃー」とあいさつをする。
リュックから完全に出るのはまずいときなこは分かっているのか、出すのは上半身までで、完全には出てこない。
が、出した上半身で届く範囲腕を伸ばす。……当然猫の可動域で許される範囲であるが。そして園児たちとタッチを交わすのである。
「にゃー」
「きゃー、肉球ぷにぷに!」
「きなこちゃんのおててかわいい!」
園児たちには大興奮、大好評である。
しばらくきなこは園児たちと交流していたが、母君を見て「にゃー」と声を挙げた。
その声に母君は心得たとばかりに「そろそろ帰るわねー。ハルト、楽しんで来てね」と挨拶して帰っていく。
「いってきまーす」
手を振りつつ応えれば、園児たちはきなこから離れていった。
きなこがいないのは少し寂しいが……まぁ、幼稚園は楽しい。
今から6時間ほど……あーそーぶーぞぉおおおお!
半ばやけくそなのは、気のせいなのだ。気のせい、気のせい。




