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#24 きなこさん、魔物ってバレますよ。それ。

 考えごとをしつつ食事を終えてから、ぼんやりと思考の海を泳ぎつつ外出の用意をする。

 リュックにいつも通り水筒を入れ……今日はコップを2個入れる。

 一つはきなこが飲む用のコップで、もう一つは俺用。

 いや、俺が口付けた水筒からきなこのお茶をとる訳にはいかんからね。

 おやつはどうするかねえ……一応きなこのために……


 ……。


 なんだか、頭を抱えたくなった。


 なんというか……俺って物欲ねえなあ……

 こう、何かにつけて「誰々のため」「誰々が喜びそう」……。


 俺本来の性格ゆえなのか、前世の影響なのか……こう、自分のために何かしようってあんまないんだよねえ……

 今思えば、子供らしくない。

 一昨年くらいから、誕生日やクリスマス(この世界では宗教色はほぼ皆無で、ケーキ食って子供がプレゼント貰うだけのイベントになってるが、クリスマスという名称でこのイベントがあるのは驚きだよね)にプレゼント何がほしいか両親が聞いてくるが、ことごとく、家族で美味しいもの食べたいしかいってないのである。


 部屋もだから殺風景なもんだ。

 こう……絵本とパズルはあるんだが、所謂おもちゃがない。


 幼稚園のお友達に時折おもちゃ情報を貰うけど…… 精神が前世に引っ張られてるおかげか、あまり欲しいと思わんのよね……こう、本読みたい。


 そら、母君に「ワガママ一切言わないから子どもとして心配する」とか言われるわ。


 今からそこらへん変更しようにも、欲しくないもん無理やり買うのもイヤだしなあ……

 取り敢えず、きなこをだしにそこらへん訓練するか……きなこ、知能高そうなので、ワンチャン幼児用知育玩具がハマりそうだし。


 一応前世の日本と同じく、公共交通機関を乗車する時はペットはキャリーケースに入れなきゃいけないし、きなこが町中でビビった時用にふわふわした毛布を入れたキャリーケースを用意する。

 ついでに中に、辛うじて俺が赤ちゃんの時に母君が買ってくれたラトルと、鈴入りボールと、輪っかが絡み合った知恵の輪のような玩具も中に入れた。暇つぶしになるかなって……


そんなゴソゴソと用意をする俺の背後で、きなこが俺をじっと見ている。

興味深そうな目線で背中が焼けそう。


熱烈な視線である。


「きなこー、気になること、ある?」

「んきゅぺ?」

 

俺の声に、きなこが首を傾げてから這うように近寄ってくる。

そういう動きをすると、スライムっぽいと感じる。

「きゅっきゅちゃんってマモノなんだねえ」

「きゅっきゅっちゃっ」

 

 俺が感じたままに言えば、きなこは憤慨していた。……それはどういう意味の怒りなんだろう……

 魔物なんて言うなという意味なのか、何を当たり前のことを今更という意味なのか……


 しばらく触手をうにょうにょ蠢かせてきゅっきゅきゅっきゅ憤慨していたきなこだったが、フスッと鼻で盛大に息を吐いてから、離れていった。


 あら、幻滅させちゃったかしら。


 小さくなっていく背中を見送ってから、俺はリュックに必要そうなものを詰め込む作業に戻った。


 子供用リュックサックにわりとパンパンに詰め込んでリビングにいけば、母君が少し驚いたように目を丸くしていた。

「……ハルトにしては、大荷物ね?」

 率直な意見でしょうけど……うるせーやい。

「きなこに要るかなって思ったんだ……」

 なんか、ちょっとしょんぼり。

 きなこが触手を長ーく伸ばして俺の肩をぽすぽす叩いてくれる。

 慰めてくれてんのかなぁ……きなこは優しいなぁ。

 ちょっと感動で俺の目尻に涙がたまる。

「ま、まあ……ちょっと過保護気味ね……毛布とケージだけでよくない? ほら、商店街のほう行くから、おやつとかもいらないと思うんだ? 買い物終わったら喫茶店でお茶しようと思うし?」

 俺の感涙をどうとったのやら、母君が少々焦りつつ、目線を泳がせつつ俺を説得してくる。うーん……まぁ、お茶するなら、いいのかなぁ……。

 まぁ、水筒だけは持ってくか。水分補給できるかわからんし……。

 母君に頷いて俺は自室に戻った。


 † † †


 ハルトが階段を上った後、ハルトの母親は階段をぼーっと見つめていた。

「きゅきゅ?」

 きなこが不思議そうに声を上げつつハルトの母親を見る。

 その声に気づいたハルトの母親はきなこを見下ろして苦笑した。

「きなこちゃんの、お陰かな?」

「きゅんきゅっきゅ?」

 ハルトの母親のいう意図が分からずきなこは首を傾げた。

 それにハルトの母親は苦笑を深める。

「きなこちゃんが来てから、ハルトの知らない一面をいっぱい見てる気がする。自分の子供に対して言うのもなんだけどね? ハルトできる子だったからねー。あんなポンコ……いえ、これも自分の子供に言うことじゃないわね。……ペットに言うことでもないわね……これ。でも、なんだか安心しちゃったわ。完全無欠だと思ってたけど、ちゃんと人間だったのねぇ……」

 ハルトの母親が頬杖を突きつつ呟いた。

 そして嘆息。

「ほんと、子供に対して言うことじゃないし、ペットに対して言うことでもないわね……これ」

「きゅっきゅぺぇ」

 ふしっと鼻で息を吐きつつきなこが鳴く。

 それにハルトの母親は笑みを零した。

「ふふっ、まるで言葉が通じてるみたい。きなこちゃんもきっと賢いのでしょうね」

「きゅきゅん?」

 首を傾げて鳴くきなこの目は、糸のように細い。

 暫くハルトの母親を見上げていたきなこだったが、ふしっと吐息してから階段を見た。それから階段へ近づき、跳ねながら階段を上る。

「ハルト、また大荷物作ってるかも。きなこちゃんが怒ってあげてね」

「きゅっきゅー!」

 半ばまで階段を上っていたきなこが止まり、ハルトの母親を振り返ってアイっと触手を伸ばして返事をした。

 それにハルトの母親は目を細めて笑った。


 きなこが見えなくなってからハルトの母親は肩を落とした。

「……あの子も……なのね。……ううん。大丈夫。……大丈夫なはずよ」

 徐々に表情を暗くしつつ、母親は床を見る。

 胸元で手を組み、目を閉じる。

「……お願い。お願いよ……気付かないで……」

 祈る様に、呟いた。


 † † †


「……」

 部屋の中で、俺はぼんやりと天井を見ていた。

 大体の荷物をリュックから取り出して、元の場所には戻していた。

 じゃぁ、1階に戻ればって?

 そーだよねー。俺もそう思う―。

 ……ん、だけど、なーんか、空気? 雰囲気? 怪しいんだよねぇ。1階の。

 母君がきなこに何か話してる。

 まぁ、それはいいんだけど。思ったよりポンコツだったとか聞こえたけど、別にいいよ! 俺はポンコツなの事実だしな! ってか母君俺のことそんな超人だと思ってたのかよ! いや、いうて俺、享年14歳プラス5歳だからね!? 前世の知識があっても、俺自身5歳児だから! ミスだってするし、そこまでできた子じゃないって!! ……や、まぁ、それはいいのよ。ほんと。別にいいの。

 問題は、母君の、きなこに対する言動である。


『あの子も……』

 ……きな臭いなー。大丈夫かなー? 

 いや、母君を疑いたくはないのよ?

 こう……母君は人格者よー? 犯罪のハの字すら見当たらなそうな、できた人よ。

 俺に対しても深い愛情をもって接してくれるし、一度世話すると決めたら曲げない人だというのは自明の話だ。が、なんか……きなこに対してもなんか……警戒してる……? それが、悪い方向にいかないといいけど……


 まさか、きなこが魔物だって気づいて……?

 あ、まぁ……今更か。

 きなこ……触手伸ばすし、なんか、挙動がスライムっぽいし。

 そもそも手足のない、不定形の動物なんて……この世界でもいないしね……!


 十中八九、気づいてますよねぇ……気付いてて気づかないふりして、ペットとして接してくれてるよねぇ……そこが見えてないところ……俺がポンコツたる由縁だよね。あれっすよ。きゅっきゅちゃんが絡むとどうも……。


 ……現状ではどう転ぶかわからんから、静観かなー……


 とか思考してたら視線を感じた。

 いつの間にかきなこが目の前にいた。


 ……あの、きなこさん?


「扉開けるの面倒だから、平べったくなって扉の隙間をくぐったね? それ、動物っぽくないからやめた方が良いよ」

「きゅっきゅちゃ?!」

 なんか驚愕するきなこさん。やっぱ魔物だなぁ。

「扉叩いてくれたら、扉開けるから……できればそうしてくれ」

「きゅっきゅ!」

 あいっ、と触手で挙手することで了解の意を示すきなこさん。

 ついでだからこれも言っとくか。

「それ、スライムってバレるよ」

「キュッキュッチャッ!?」

 ガーン、とショックを受けるきなこもかわいいなぁ……。

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