#23 きなこさんは感情豊かですなぁ
「絵本でも読む?」
「きゅ?」
このままではまた深い思考の沼に入りそうなので、膝に乗せたきなこに尋ねる。
……牧場育ちのきなこさん的に、絵本とは何ぞやって感じだろうか?
実際見せた方が早いと判断した俺は、サテライトを呼び出し、絵本読み上げアプリを起動する。
色とりどりの絵本の表紙をウィンドウ内で並べると、きなこの瞳が開かれてキラキラ瞬く。
「きゅきゅぅ~!」
きなこの興味がどれに行くかよくわからないので、オールジャンルで雑多に表紙を見せる。
紙媒体ではなく、サテライトのウィンドウなのでもたなくていいし、負担はない。
が、少し物足りない気もする。といっても前世もパソコンの画面に噛り付いて小説を読んでた口
クチなので、あまり変わらないと言えば、そう。
か、紙媒体のラノベも読んでましたー! 金なくてあまり買えなかったけど!
ぶっちゃけ週刊誌は友達が読んだ後のものを良く読ませてもらってた。まあ、コンビニの立ち読みもままやったが。
だからメジャーな漫画は一通り履修してたけど……ライトノベルはそもそもが高いし、友人の中で読んでるやつもあまりいなかったので、自分で買うしかなかったのだが……なまじ小遣いなんてものは親からはもらえず。……時折じいちゃんにもらってたくらいなので古本で買うくらいしかできなかったんだよなぁ……。だから少し情報が古いというか……専ら二次創作物というか……。
……。
今世では飽きるほど本を読みたいものだ。
うんうんと頷けば、きなこが首を傾げる。
が、敢えて説明するもんでもないので、曖昧に笑って適当な一冊を選んだ。
ふわふわ羊さんシリーズ、第15弾。ふわふわひつじさんとくまのぬいぐるみ。
ふわふわひつじさんの家に、女の子に捨てられたくまのぬいぐるみがやってくる話である。
森の奥に住んでいるふわふわひつじさんは、時折町に買い物へ行く。
その途中で、ぼろぼろのくまのぬいぐるみを拾うのだ。
ぼろぼろなのは可哀そうだと家に持ち帰り、きれいに洗って、壊れた部分を繕ってやると、くまのぬいぐるみが勝手に動きだした。
「ひつじさん、僕を助けてくれてありがとう!」
ぬいぐるみには名前がなかった。いや、捨てられる前はあったはずなのだけれども、捨てられて、長い旅の果てに名前をわすれてしまった。
『ぬいぐるみのくせに喋るなんて気持ち悪い!』
と、女の子に捨てられてしまったくまのぬいぐるみ。
ふわふわひつじさんは「君にはきっと、神様が魔法をかけたんだ」と言って暖かい服と、ポーラという名前をあげた。
「君はホッキョクグマのように白くて大きなぬいぐるみだから。北極星から名前を貰おう」
君の青い瞳にもぴったりだ。
そう笑うふわふわひつじさんと、くまのぬいぐるみのポーラとの、奇妙な共同生活が始まるのだ……
という、お話。
一冊読み終わったとき、きなこは号泣していた。
「ぎゅっ……ぎゅぢゃぁ……」
ぼったぼったと涙をこぼし、泣いている。
感動したらしい。
これ、このまま2冊目行っていいのか?
ついでにふわふわひつじさんシリーズ第16弾、ふわふわひつじさん、町へ行く。では、ふわふわひつじさんがポーラと街へ行って、ポーラにおもちゃのピアノを買ってあげたり、一緒に喫茶店でホットケーキを食べたり、町で一番高いビルの展望台から町を見渡したり、ポーラが迷子になってふわふわひつじさんが慌てたり……しっちゃかめっちゃか楽しい本なのだが……これ、読んで大丈夫? 感情がジェットコースターにならない? もうなってるから今更か……?
ティッシュで鼻をかむきなこに「2冊目行く?」と聞けば、きなこはこくりと頷いた。ので、ふわふわひつじさん、町へ行く。を読む。……って言っても、読むのはアプリの電子音声だけど。
『ある日ふわふわひつじさんとポーラが……』
朗読の声は心地よい。
優しい声に耳を傾けつつきなこを見れば、一生懸命本を見ている。
金色に輝く瞳が、絵本のページに釘付けになっているのは、とてもかわいい。
きなこもふわふわひつじさんシリーズが気に入ったらしい。
俺も好きな本だから、うれしい。
何冊かふわふわひつじさんシリーズを読み、一息。
それから部屋を出た。
そろそろ朝食の時間である。
「むきゅっきゅきゅ」
歯ブラシを渡せば、ごっしゅごっしゅ磨き始めるきなこ。
それを見てから俺も顔を洗ったり歯を磨いたりする。
きなこの学習能力は目覚ましいものである。
ほんと、昨日まで農場で動物然と暮らしていた生物だとは思えない。
歯磨き自分でしてるし。トイレ自分で行くし……しかも人間用トイレで用たすし……俺ですらひとりで行けるようになったのここ1,2年のことなのに。
……何度もいうが、俺、5歳だからね?
大人用に設計されたトイレだから、一人で座れなかったのよね。
まぁ、それはいいんだよ。
この際、トイレ内できなこがどのように用をたしているかも、置いておこう。
すんごく気になるけど!
まぁ、いいや。
にょーん、と体を伸ばしてうがいの水を吐き出すきなこ。
体積を無視した伸び方をするきなこを見下ろしていると、見上げたきなこと目が合った。
「……」
「……んきゅ?」
首を傾げるきなこ。
「……質量保存の法則とか、働いてるんかね。きなこ」
「むきゅー?」
質量保存の法則は、流石に知らなんだか。……そらそうか。
しっかし、つくづく……不思議生物だ。
興味が尽きないし、そこに魅了される。
かわええのぉ……。
きなこを抱きかかえ、キッチンへ向かうと母君が朝ごはんを用意してくれていた。
「おはようハルト、きなこちゃん。今日の朝ごはんは和食よ!」
母君、張り切ってんなぁ……
机には既にずらっと朝食が並んでいた。
焼き鮭、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、五目豆、人参とツナのしりしり……
みそ汁には玉ねぎとジャガイモ。ごはんは炊き込みご飯だった。
炊き込みご飯というか、鶏五目。
とりごもく! 母君、やっぱ女神だな……!
そして、あまり意識してなかったが……ツナってマグロだよな……海……あんのかな……
いや、海自体は、ある。
なんせこの星……ネピュラスと呼ばれてるんだが、前世の地球と瓜二つななりをしている。……厳密には暦前の【大戦】の影響で差違があるようだが……直径やら公転周期やら、惑星の数……そもそも銀河系の構成もほぼ同じなのである。
何故って? 我らの創世神サマが、この世界を作る時にそのまま前世の世界をコピペして作ったかららしい。
現代の地球をコピペしたわけではなく、世界規模の組成やら因果やらを複製し、分解し、原初レベルまで巻き戻して創造したらしいので、こう、厳密に同じ……ではないらしい。……らしいらしいと曖昧なことを言っているのは、根源接続というチートスキルが暴発した結果、夢の中で『世界の外側』にいる優樹と繋がってしまったらしく、そこら辺の話を明晰夢として話したからである。つまり聞きかじり。
いやぁ、もっと聞くことあるだろうとは思ったんだがね。
1年が365日なのは明らかにおかしいと思った結果がこれだよ。
「きゅっきゅちゃー!」
きなこの悲鳴に近い声で現実に戻される。
まぁ、感激の、黄色い悲鳴なんだけどね。
机に並んだ料理を目の当たりにして感動で目をキラキラさせるきなこ。
そら、こんなご馳走ならべられたら、ねぇ……俺も感動してる。
心の中で母君に両手を合わせて祈りを捧げる勢いである。
……表に出したら変な子扱いされるというのは、流石に俺でも自覚しているのだ。
きなこを机の上に乗せ、俺はきなこの隣の席に座る。
そして俺ときなこは同時に「いただきます」と両手を合わせた。
……アルヴェリアにいただきます文化がないことは知ってるんだが、どうもやらないと落ち着かないのだ。母君や父上は当然しない。浮いてる自覚もあるんだがなぁ……母君がなんも指摘しないので、気にせずいただきますを続けている。
「きゅっ……きゅっちゃー……」
一口、フォークで口にしたきなこが感動している。
そうだろう、そうだろう。
母君の料理は何をとってもおいしいのだ。
「炊き込みご飯、おいしいね」
「そう? そう言ってくれると、うれしいわぁ。デザートにりんごもあるからね」
冷蔵庫で冷やしてくれているらしい。リンゴの存在を示唆する母君。
きっとかわいらしくうさぎさんに剝かれてるんだろうなぁ……
たぶん、きなこは感動する。今以上に。
しばらくもそもそと朝食を楽しんでいると、母君が「食べ終わったら買い物にいきましょうねー」ときなこに話しかけていた。
「きゅっぷぷぷ」
お出かけと悟ったきなこが嬉しそうに頷く。
コミュニケーション取れてんなぁ……。
今までマツヤさんとユウキくらいしか話す相手いなかったろうに。
マツヤさん、あんなんだしユウキもあんま寄り付いてなかったから、実質人と話すことなんてなかったかも……?
なのに、頷いたり身振り手振りでコミュニケーションをとっているので、かなりすごいことでは……?
と、いうか。逆に、だ。
ここまで賢いのなら、牧場にいた時は浮いてたのでは?
いや、他のきゅっきゅちゃんもきなこ並みに賢いのか……?
うーん、謎。
悶々と考えていても、材料が足りな過ぎて答えに至る気がしない。
根源接続とやらを自在に使えたら……違うのかね。
やっぱりりんごはうさぎさんに剥かれてたし、きなこは両目をぴかぴか見開いて感動した。
予想外だったのは「かわいくて食べれないー」とてもいいようにりんごを食べなかったこと。
女子か? 女子か……。




