#22 きなこさん……?
寝る前に歯磨きをしていると、きなこが不思議そうに俺を見ていた。
「……あふ?」
口を泡だらけにしたまま「やる?」と問うと、きなこが「きゅっ」と手を伸ばす。
だから、俺の歯ブラシ(新品)を一本渡した。
きなこは俺の歯磨きを見よう見まねで真似する。かわいい。
最後に仕上げみがきをしてあげると、嬉しそうだった。
……口の中は思ったより雑食よりな歯並びだった。
猫っぽいフォルムなので、てっきり肉食っぽいか、スライムだからそもそも歯がないと思っていたが……結構びっしりあって驚き。
……歯があるってことはやっぱ頭蓋、あるのかな……。
……深く考えたら負けな気がする。……誰に負けるのかは謎だけど。
「きゅっぷぷぷー!」
きなこがうれしそうに跳ねる。
きなこがうれしいと俺もうれしい。
歯磨きもして、後は寝るだけになったのだが……
ここで問題が一つ。
「きなこ、どこで寝る?」
「きゅ?」
糸目の瞼が開いて金色の瞳がピカピカ光っている。
……そういえば、驚いたりすると、普段は閉じている瞳が開く。
金色の瞳はキラキラと輝いていて……宝石のようだ。
トパーズかシトリンに、ダイヤモンドダストの煌めきが乗っている。
そんな、瞳。
めったに見れないが、見ると見とれるくらい、綺麗だ。
「きゅきゅん?」
「目、綺麗だなーって……って、じゃなくて、寝る場所!」
「きゅっきゅぷ!」
わたわたと慌てる俺を真似てきなこもゆらゆらと触手を揺らす。
そんな触手は、夢に出てきた触手に比べて小さい。が、色は似たクリーム色。
やっぱ、親子だからだろうか。
……あの時、助けれたら……今、ここには2匹のきゅっきゅちゃんがいて、二匹できゅっきゅきゅっきゅしてたんだろうか。
まぁ……もう、叶うことのない景色である。
って。しみじみしてる場合ではないのだ。
「きなこの寝るとこ!」
「きゅきゅきゅ!」
再び、三度、あたあたと見渡す俺を真似してきなこもあたあたと慌てている。
ペット用のベッドなんて上等なものはなく。
かと言って雑魚寝は些か寒い時期である。
……ベッドで一緒に寝てもいいんだが……
きなこを見る。
30cmくらいの、楕円フォルム。
ちっちゃい耳がピンと立っていて、短い尻尾がピルピル揺れている。
一緒に寝たら潰してぺっちゃんこにしそう。
取り敢えず、座布団とクッションと毛布を駆使して簡易的なペットベットを作成する。
あとは……近くにトイレを用意しておくべきか……?
「トイレ、あったほうが良いかな?」
「きゅ?」
「おしっこだすとこ。要るでしょ?」
「きゅ!」
何か察したらしいきなこ。
何故か部屋から出ていく。
……?
ぴょこぴょこ跳ねて、トイレへ向かい……
がちゃっ……ぱたん。………………ジャー……
扉が閉まり、水音が流れた時点で思考を放棄した。
もう、何でもありだな。
チャットを起動し、ユウキにトイレ前の画像と「ペット用トイレは不要なようです」と送っといた。
「きゅっきゅちゃん!」
かなりさっぱりした顔でトイレから出てきたきなこを抱きかかえて、自室に戻る。
「今日はここで寝てね。明日はペットショップ行って、きなこの身の回りのもの整えよっか」
「きゅ!」
簡易的なベッドの上にのせると、きなこは心得た! とばかりに触手を伸ばして挨拶してから毛布に潜っていった。
程なくして寝息らしき音が聞こえる。
寝るのはっや!
「おやすみ、きなこ」
聞こえてないと思うけど、俺はそう声かけてから自身のベッドにもぐりこんだ。
……なんか、疲れたなぁ……。
† † †
翌朝。
目を開けたら目の前に尻があった。
クリーム色の体毛に覆われた、小さな楕円の尻。
わお、絶景……じゃなくて。
……きなこ、何でここにいるんだ……?
確か、寝るときはお手製仮設ベッドに寝てたはず……
……まぁ、いいか。
きなこを起こさないようゆっくりベッドから降りる。
早朝の部屋はやっぱ冷え込む。
すぴすぴ寝息を立てているきなこに毛布を掛けてやり……普段なら窓を開けて空気を入れ替えるが、きなこが寝ているのでやめた。
クローゼットを開き、私服に着替える。
姿見を見れば、当然だが自分が映っていた。
亜麻色の髪に茶色の瞳、身長は120㎝程度……。まぁ、平均身長ほどである。
良く動くからか、子供にしては筋肉もある方だが、言うほどガチムチや筋肉ダルマってほどでもない。
そんな姿の、俺。
前世とはやっぱちがうなー。
ま、前世は日本人だしね。黒髪黒目だったし。
前世と比べれば、俺の顔は整っている方だと思う。母君と父上のお陰だわ。
この姿で日本にいたら……アイドルも狙えたね! やる気ないけど!
ぼんやりと自分自身を眺め、ナルシストっぽいな、と冷静になる。
振り返ったらきなこが起きていた。
「あ、きなこ。おはよ」
「きゅっぷぷー」
にゅっ、と触手を伸ばして挨拶。かわいい。
きゅっきゅちゃんは基本的にはスライムっぽい挙動をする。
極短毛の体毛で覆われた、猫耳のスライム。そんな見た目なきゅっきゅちゃん。
顔あたりを両手で包んでむにむにと揉み込んでみる。
「むきゅきゅきゅきゅきゅきゅ……」
こりこりとした、骨っぽいものが頭にある……頭蓋骨……かな……
体の方にはなさそう。手を沈めたらどこまでも沈んでいく。た、頼りなあい!
全身くまなく触診じみた撫で方で愛でてやる。
きなこは……満更じゃないどころか気持ちよさそうに蕩けている。
蕩けると、余計骨が見当たらない。
頭蓋も蕩けている平べったくなりつつあるので、ほんとに頭蓋が骨なのか不安になってくる。
どうなってんだ、体……
こういうところ、やっぱ魔物というか……既存の動物ではない、全く別の存在なのだなと思う。
こう……生物分類学的階級とか考えたら……界からして違うだろうね。
……そもそも生物なのかな……魔物って……仮に生物だとして……
……。
「きゅぺ?」
深く深く思考を潜らせつつきなこを揉みしだき続けていたが、流石に不審に感じたらしいきなこが声を挙げつつ俺の顔に触手を伸ばす。
後ろ向きなのに、触手は可動域とか関係ねえといったノリで俺の頭を撫でてくる。
なでり、なでりこ。
……うふふ。
なんか、すごく和む。
頭を撫でられことにより少し冷静になれた。
我に返った俺は、きなこを抱えて膝の上に乗せる。
やっぱ軽いなぁ……ほんと体の仕組み、どうなってんだろ。
気になるが、こう……解剖することも出来んしなぁ……ほら、イタイの嫌じゃん?
大体、こういう好奇心が、きなこの母親を殺したのだ。
俺も自重すべきなんだろう。
しかし、だ。
俺自身、前世と比べても好奇心が強い気がする。
気になることは調べないと収まらないし、知りたくて仕方がないのだ。
こう……両親を困らせるくらい聞きまくったことも一度や二度ではなく…….;/\。
そして、ユウキが言うには根源接続というチートなスキルが俺にあるらしく、その能力のお陰で(暴発気味だが)いろいろ知ることができるのだがら、知的好奇心の暴走も一入である。困った。




