#20 母君の料理はうまいだろう?
そういえば、アルヴェリア王国には三権というのが曖昧だったりする。
そもそも、王国だし、これで女神による絶対王政なのだ。実は。
国の規模がでかすぎて、実権は各-街-に委託されているが……委託なのだ。移譲ではないのである。
王権によって強制的に法律が制定されることもないことはないし、そういうシステムも実際あったりする。……実施されたことはないらしいけど。
一応は、女神の元政治家が法律を建て、運営しているが。政治家が暴走した場合は女神が王権を行使して暴走を止めるという名目で造られたシステムらしい。
そして女神自身は創世神よりこの国の管理を委任されている……らしい。
俺は(一応は)魔導教の教徒であって女神教の教徒ではないので詳しいことは知らんが。
(一応)絶対王政なので、女神王女の名のもと、立法権、司法権、行政権は集約されている。
全部Ark管轄である!
Ark内に検察部だの警察部だの、司法部だの……あったりする。
立法部は立法院という王城の中にある場所で政治家が集まって議論しているらしいが、まぁ、女神女王の鶴の一声がないと……というような連中である。
女神女王は代替わりなんぞしないが、政治家は一応選挙で決められているはずなんだがな……。
ついでに、人間の場合は選挙権は20歳で獲得し、被選挙権は25歳からである。
人間の場合とつくのは、種族によって年齢が若干変わるためで、最長ではドラゴンが1000年で選挙権、1500歳で被選挙権というえっぐいのがある。
もっと言えばドラゴンの寿命の中央値は50000年であるらしい。
……いるのか、5万年以上生きるドラゴンが。
女神暦2万年代だぞ。今。
……まあ。女神暦以前にも歴史はあったはずで。
ユウキが言うにはこの世界は300億年前にできた世界なはずなので……
ま、5万年以上いきてるドラゴンも……まぁ、いるか。
……思考が脱線してるな。
そう言えば、母君のサテライトはシンボル型である。
一般的には小学生を卒業したあたりでシンボル型をやめてノーマルサテライトに移行することが多い。
まぁ、シンボル型だからって日常生活を送るにあたってデメリットはない。
まぁ、ゲームするには少し……能力が低いけど。それくらいである。
オンラインゲームをしない母君にとってはシンボル型で十分なのだろうか。
ついでに父上はノーマルサテライトである。ウサギ型のかわいいやつ。
少し羨ましい。
俺は……何がいいかなぁ……
前世の俺は、犬を飼うことが憧れで。
だから、犬も良いなぁとは思うんだが。……今はなんか、悩む。
まぁ、まだすぐに決めなきゃいけない時期じゃないし……も少し悩んでいようと思う。あれだったらシンボルのままでもいいわけだし。
「ユウキさーん? 夕飯、食べていかれます―?」
下の階から声がした。例にもれず母君である。
「あ、えーと?」
ユウキが困ったように俺を見た。
「よばれてけ。たぶん、普通にユウキの分まで用意してるぞ。あの言い分だと」
「お……おう……じゃぁ、お相伴に与らせていただきます」
「きゅっきゅぷー!」
「きなこちゃんの分ももちろんあるわよー!おっきーの作ったんだからぁ!」
「きゅっぷー!」
きなこ、母君の言葉に大興奮。
おっきーのって、どんだけ大きいんだろ。
すこし不安である。
† † †
結論から言えば、バカでかかった。
ハンバーグっていうよりミートローフだし。
21㎝×21㎝のスクエア型で作られたそれが、大皿に盛られていた。
……でかすぎんだろ……
当然だが、このでっかいミートローフをみんなで分ける感じである。
一人一個ではない。当然。
「おかーさん、張り切っちゃった!」
にっこにこの笑顔で笑う母君。笑顔が眩しい。
母君がきなこを抱えて机に乗せる。
きなこの前にカレー皿を置き、その上にカップで形を作ったごはんと切り分けたミートローフ、マッシュポテトと人参とブロッコリーのソテー、最後にバターコーンを盛りつけられる。
一品一品置かれるたびに、きなこの目が開かれ、キラキラした金色の瞳がピカピカ輝く。
「きゅっきゅちゃぁ……」
感動しているようだ。
楕円フォルムのお尻の部分で立ち上がったきなこは、前足部分の触手を伸ばす。
それからパチン、と手を合わせて「いただきます」のポーズをした。
お? きゅっきゅちゃんは日本の文化をご存知?
それからきょろきょろと見渡して、首を傾げた。
「きゅきゅ?」
「え、あー……ハルト君、きなこにスプーンかフォークあげてくれる?」
へ?
きょとんと目を瞬いてしまう。
てっきり犬食いで食べるのかと思ったが、きなこさん意外と文明人?
ちょっと失礼なことを考えつつ、フォークを取り出してきなこに渡した。
「きゅっぷちゃー!」
元気な返事。ありがとうかな?
俺たちも席につくと、母君が一通り配膳し、席につく。
「じゃぁ、食べましょうか」
と食事を始めた。
俺とユウキが同時に「いただきます」と手を合わせ、きなこもそれに倣って改めて「いただきます」のポーズをとる。
料理は相変らず最高だった。
「……料理うまいな……」
俺にだけ聞える声で囁くユウキ。
それに俺も「だろ?」と返した。
母君は料理がうまいのである。
「きゅっ……」
きなこは一口食べて……小さく悲鳴を上げた。
えっ、ダメだった?!
心配になってきなこを覗くと……
泣いてた。
感動して号泣だった。
「きゅ……ぷっ……ちゃ……」
えぐえぐ泣きながらもぐもぐと口を動かしている。
な、泣くほど……泣くほど感動するものですか……。
まぁ、きなこが知ってか知らずか……きなこの母親がいなくなって、そして仲間とも離れて寂しい思いをしているはずである。
料理で気がまぎれたら……うれしい。
……俺が与えたものじゃないのが、少し悔しいけど。
何故か、少しだけ、母君に嫉妬した夜だった。
ついでに、ミートローフに掛かっているデミグラソースは母君お手製だとユウキに教えたら、めっちゃ感動していた。
「お母さん、料理の天才ですね!」
「えっ、えっ、それほどでも……?」
母君は戸惑いつつも、ユウキの褒めにまんざらでもないようで照れつつ謙遜していた。




