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#2 これが噂の異世界転生……?

 はた、と気がつけばまっしろい場所にいた。

 天井も床も壁も白い。白すぎて境界が分からない。

 いや、そもそも屋外か屋内かも分からない。

 ただただ白い場所。


 周囲を見渡して、何もないことを知覚して。

 どうしようかと困り果てた。

 車に轢かれてからずっと困っている気がする。


 俺を洞に突き落とした女はここにはいないらしい。

 あのアマ。人を異世界転生だのなんだの意味不明な言動で混乱させるだけ混乱させて逃げやがったな?

 つぎ会ったときはぶん殴ろう。ソウシヨウ。


 少々気が立っているせいで思考が暴力的になっているが、気にしない。

 誰も見てないしね。


 本当に誰もいない。

 何もない場所。俺一人。


 ……どうしろと?


 首を傾げて、困惑していた。

 数拍。

 取り敢えず、歩いてみるか、と思った。


 立ち上がる。

 体があることに気づく。

 床っぽいものを認識し、歩く。

 音はない。

 静かだ。


 しかし歩く感覚はあり、何歩か進んでいる感覚はある。が、前も後ろも上も下もまっしろで距離感はよくわからない。壁があるのか、それとも永遠にたどり着かないのか……

 

 どれくらい歩いたかよくわからないが、ふと、色があることの気づいた。

 赤青黄色、緑……パステルカラーやらビビットカラーの、カラフルな集まりが跳ねている。

 ボールかな? いや、ボールにしては跳ね方がおかしい。猫やうさぎを思わせる……動物……?


 近づけば徐々に仔細がわかってくる。

 それは、手足のない猫のような生き物だった。

 いや、猫か? 楕円形の体には極短毛の体毛に覆われており、耳は小さな三角形。オメガのようなマズルは確かに猫っぽいが……猫にしてはしなやかさがない。手足がないのも、なんだか……もやる。

 猫っぽい特徴をもつ、毛玉のようなスライム。

 そんな感じ。


 そいつらは30匹ほどが集まり、ぴょこらぴょっこらと跳ねている。


 見た目が物凄く可愛い。

 猫っぽいけど猫じゃないところも物凄く、好き。

 お持ち帰りして愛でたい。が、まあ、持ち帰る家もなければもてなせるなにかもない。

 残念だ。非常に、残念だ。


 俺は動物が好きだった。家で飼うことはできなかったので、野良猫とかをよくもふってた。猫はいい……自由気ままにみえるところとか、危険な外でもたくましく生きてるところとか……。

 

「撫でてもいい?」

 せめてモフらせてくれと、眼の前の生き物に触れた。生き物は抵抗なく、むしろすり寄ってくる。


 …………


 酷く優しい暖かさで手を包みこんできた。

 極短毛の体はベルベットのような滑らかさで、底のない柔らかさで沈み込んでゆく。

 儚く、しかし優しい。


 何故か俺は涙を流していた。


 酷く満たされた気分になる。

 なんだ、これは。

 何なんだ。この感情は。


 ぼたぼたと涙をこぼす俺に驚いたのか、スライムのような生き物が集まってきて寄り添ってくる。

 なんだったら増えてた。

 最初は30匹ほどだったのに、あれよあれよと100匹を越して、まわりできゅっきゅきゅっきゅしている。

「きゅっきゅ」「きゅきゅきゅっ」「きゅっきゅちゃーん」「ちゃーん、ちゃーん、きゅきゅっ」

 鳴き声をあげてきゅっきゅきゅっきゅと体を押し付けてくれる毛玉スライム達。

 すんげー和むんだが、何故か涙が止まらない。

 アレルギーかな? 犬にも猫にもアレルギー……無かったはずだが。


 大丈夫、大丈夫と毛玉スライム達を撫でていると、背後に気配を感じた。


「……んえ?」

 鼻水と涙でぐっちゃぐちゃのまま振り返る。


 すんげー困った顔の青年が、何か言いたそうに、しかし言葉を探しあぐねて困惑した顔をしていた。


 青銀の髪ををした青年だった。

 体つきは明らかに男性。薄い胸板だとか、ひょろい四肢とか、どうにも頼りない印象を受ける。

 男性にしては大きな目と、長いまつげ、そして何より長身だが華奢な肢体がなんとも中性的に見せている。

 が、明らかに男性だろう。


 深い深海を思わせる、濃紺の瞳が俺を見ている。

 困惑し、何をどう告げるか迷っているような、そんな色が瞳に宿っている。


「えっと? おたく……ここの住人?」

 とりまこっちから声をかけるかあ、と思ったが、俺も何を喋ればいいのか……まずは誰何か?

「……ん、っと……住……人……なのかな……」

 えらく歯切れの悪い応え。


 しっかしこの男性。

 なんだか見たことあるような……

 いや、こんな奇天烈な髪色の人間は見たこともない筈なのだが。


「えーっと、あー……墜ち人……いや、君等の世界じゃ転生者っていうんだっけか。転生者、だよな? キミ」

 男が問う。

 白いワイシャツにジーンズ、カーディガンを着て、更に寒いのか大判のショールを羽織っている。

 まあ、そんなぺろい体つきじゃ寒かろう……可愛そうに。もっと筋肉をつけろ。筋肉は全てを解決する……。


 思考がどんどんあらぬ方に行くのはきっと現実味を帯びてないせいだ。つまりこれは現実逃避。だが、気になるフレーズを聞いた。


「転生者。……つことはやっぱここ異世界? アンタは神様ってこと?」

「ラノベの読み過ぎでは?」

 すごく、呆れたような……いや、馬鹿を見たと言いたげな表情を彼はしている。

 そこまでご都合主義ではなかったですか。

「神様じゃないよ。それに近しいものだが」

 やっぱご都合主義でしたか。

 否定されたと思ったが、それは事実上の肯定では?

「異世界なのは否定しないんすね」

 吐息を吐いて言えば、青年がにゃははと笑った。

 笑うとイケメンに花が咲く。華やかでいいですなー……。

「日本がある世界ではないのは確かだね。やったねたちばなくん。異世界転生だよ。チートスキルとかハーレムとかないけど。あと、なろう系展開もないね。きっと」

「ないんだ。ちゃんと現実なんすね……って、なんで俺の名前」

 橘悠人。それが俺の名前。

 それを知っているということは……死ぬ前の俺とかかわっている人のはずだが……俺はこんな奇天烈な髪色をした人間を知らん。


「わからない?」

 にまっ、といたずらっぽく男が笑う。

「キミにわかるよう、この姿にしたんだが……もっと若くしたほうが良かったか……」

 若く……? いや、そもそもその髪色をなんとかしてくれた方が……

 

 あ。

 

 ふと、気づいた。

「おま……タカトー?」

 その言葉に、男は満足そうに笑んだ。


 高藤優樹。

 俺の、前世でのクラスメイト。

 教室ではあまりどころか、片手で数える程度しか会ってないが……。


 なぜなら彼は病弱で。原因不明の不治の病を患っており、入退院を繰り返していたからだ。

 だから、幼稚園からの幼馴染な割に、学校でのかかわりはさほどなかったんだよね。

 ほんと、中学入ってからはこいつ、病院が家みたいなレベルで入院してたから、お見舞いに通ってたけど……最近はずっと寝てると思ったら、こっちに転生してたのか。

 じゃぁ、あれ? 今あっちの世界にいるユウキは脳死状態なんです?


「タカトーも異世界転生してたのか。え、でも神様……じゃないけどそんなポジション? なんで?」

 余計混乱する。混乱のまま言葉を紡げばタカトーがにゃはは、と笑う。

「ま。ほんとはキミの言うタカトーじゃないんだけどね。ボク」

「違うんだ?」

「……違うくないけど、違う。説明しづらいな……んっと……魂はそう。タカトー。でも人格が違う。で、理解できる?」


 人格が違う? チョットイミワカンナイ。


「んー……まあ、理解できなくていいよ。どうせ君はこれから生まれ変わるんだもん。ここの記憶も忘れてるよ」

 それ、奇天烈な女も言ってたな。

 なんかイラッとする。

「忘れるから説明しないって、今俺がモヤッてるんだが?」

「ええー? 面倒くさい。どうせ知ってもさあ。どうしょうもないし」

「どうしようもないって、なにが」

 ちょっとイラッとした。

 こう、知らなくていいじゃん。ってスタンス。俺は嫌いだ。

 ここまで気になるフレーズを出しているのに、お預けってのは……あれだ。

 餌を目の前に置いて「待て」されている犬の気持ちもわかるってものだろう。

 

「本来墜ち人がここに来ることなんてないんだよ。ここはいわば世界の外側で、あり得ない場所なの。だから、こんなところにいたら世界に溶かされちゃう」

 そう言ってから、彼は苦笑した。

「まあ、勿体無いから死なないように保護してるよ。今は」

 勿体無いからって何……。勿体無いからって……。

 やっぱ、こいつは俺の知るタカトーではないんだなぁ……と納得してしまう。

 なんなんだ、この……超越者っぽい視点が混じっているからか?

「本来僕以外がいる場所じゃない……っていうか、場所って概念もないからねえ……ここにあるのは僕だけ。そして僕の内側に世界がある……って、理解できないか。理解しなくてもいいよ?」

「なんか苛つく」

 まるで幼稚園児に大学の問題を説明しているような。理解できないことを知ってて、それでも説明しているような……ガキ扱いはあまり好きじゃない。

 まあ、俺自身ガキだからだが。享年14歳だしね!


 「ま、本来生まれる場所に送ったげるよ。ここでのことはきっと忘れるし、異世界で新たな人生楽しんで?」

「送ってくれるのはありがたいが、の前に答えろタカトー」

 タカトーではないらしいがもう俺がタカトーと認識しちゃったし、体はタカトーらしいのでタカトーと呼ぶことにする。……ってややこしいな?!

「なん?」

 タカトーが小首をかしげた。

「この、毛玉スライムは何?! 転生しても存在するのか?! この可愛い生き物!!」

「きゅっきゅー」

 俺が掲げた毛玉スライムが、鼻息荒く鳴いた。

 この子はノリが良いらしい。

 問うと、タカトーは眼を瞬いた。

 それから、破顔する。


 ……タカトーはイケメンだったことを思い出した。


 まぁ、タカトーはいいとして。実際この場所のこととか、俺の処遇とか、いろいろ聞きたいこともあるが、どうせ教えてくれないだろうし、それより目の前のこの生物が気になったので、質問してみる。

 この子のことなら教えてくれるような直感があった。

 

 そして最重要項目。

 この子は俺が生まれる場所にもいるのか。

 これだけは。この情報だけは持って帰らねばならない。


「そいつらはきゅっきゅちゃん。内側でも仲間がいるよ。一箇所に集められてるっぽいが……頼んでいい?」

「何を?」

 純粋によくわからないから尋ねてみた。

 タカトーは儚げに笑い、言葉を続ける。

 つくづく、苛つくくらいの美形だ。

 俺もそういうふうに産まれたかった。

「転生して、もし、このことを覚えてたら。内側にいるきゅっきゅちゃんのこと。何匹か、可哀想なことになってるぽいから」

 可哀想なこと?! この愛らしい生物を虐めてるやつがいると?! そいつを生地獄に突き落として、早くきゅっきゅちゃんを助けねば。そして甘やかさねば。

 俺は魂に刻む勢いで決意する。

「きゅっきゅちゃんは全て俺の手で幸せにする。約束する」

「覚えてたらでいいよ」

「絶対記憶する。絶対助ける」

 真剣な眼差しでタカトーを見れば、タカトーがたじろいだ。

「じゃ、じゃあ……任せた」


 それを聞いた瞬間、なぜか睡魔に襲われる俺。

「あ……ぇ……?」

 たたらを踏んで、その場にへたり込んでしまう。

 酷く眠い。そして力が入らない。

「じゃ、楽しんでね」

 そういってタカトーが手を振った。

 きゅっきゅちゃんタチがぴょんぴょこ跳ねている。

「きゅきゅーん」「きゅきゅーん」「きゅ、きゅーーーん」

 さよならって言ってるのかね……


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