#18 まずは一匹目、お名前は……
キャリーケースから取り出したるきゅっきゅちゃん。
全体的にクリーム色。
釣り目な糸目で、ひげが左右に3本ずつ。
「きゅぺ?」
寝てると思ったら起きてたらしい。
取り出した瞬間声を挙げるきゅっきゅちゃん。
状況が理解できてないところもかわいい。
「きゅきゅぷー」
が、俺の腕の中で即順応。蕩けちゃう。
ほんとKAWAIIが過ぎる。
極短毛に覆われた体は正しくスライム。
蕩けだすと猫以上に不安になってくる。液体を抱きかかえているような……
なんか、そのままぬるりと逃げ出されそう。
だが、このきゅっきゅちゃんは逃げる気はないらしい。ある程度蕩けるとそのまま俺の腕の中で揺れている。
まぁ、逃げたり、落ちたりしなさそうなのでそのまま構わず1階へ向かうことにした。
階段を下りたあたりできゅっきゅちゃんが姿勢を正した。
お?
楕円形のフォルム、小さいお耳を立てて「きゅっぷぷぷー!」と元気よく鳴く。
鳴き声やら手足がないところとかで猫ではないと思えるが、スライム感というか魔物感が軽減された。おお? どした? どした?
戸惑いつつもドアを開けて「かあさん」と声を掛ける。
母君はダイニングでお茶してた。
「あら、ハルト。どうしたの?」
いつも通りな対応で小首を傾げている。
が、すぐに俺の腕の中に納まるきゅっきゅちゃんに目がいって……目を瞬かせた。
「どうしたの? この子」
「うん。きゅっきゅちゃんっていうんだって」
といって母君にきゅっきゅちゃんを差し出す。
きゅっきゅちゃんは、母君にはとびかからず「きゅっきゅ!」と元気よく鳴く。
それに母君はかわいいものを見る目で笑った。
……勝った。
俺は勝利を確信する。
うん。母君はかわいいものが好きなのだ。
きゅっきゅちゃんをかわいいものと認識した母君なら……
「うちで飼っていいかな?」
「なんていう名前なの?」
良いとも悪いとも言わなかったが、母君はきゅっきゅちゃんを見つめつつ問いかけてきた。
名前……名前、かぁ……
そいえば名前考えてねえや。
牧場の様子やユウキの態度からしていちいち名付けてないんだろう。
だから、ここで名付けてしまっても構わなそうだ。
「きゅきゅ?」
きゅっきゅちゃんが何かに興味を持ったらしい。
机の上を見て首を傾げている。
「あ、これ? ばれちゃったか―……きなこ餅」
どうやら母君、きなこ餅をお茶うけにお茶タイムを楽しんでいたらしい。
俺も好きー。きなこ餅。
前世が和菓子屋の孫だったもんで、結構和菓子を嗜んでいたのだ。
ついでに一番好きなのはみたらし団子だったりする。上生菓子も好きなんだけどねー。アレは抹茶を点ててこそだ。
……脱線したな。
「きなこ、とかどうかな?」
きなこ餅見てたら食いたくなったなぁ……とか思いつつ提案。
きゅっきゅちゃん……改めきなこは「きゅきゅー!!」と上機嫌に鳴いた。
それに母君は満面の笑みを浮かべる。
「いいわよー。きなこちゃん、これからよろしくね」
と手を出すと、きなこはにゅっと体から腕……というか触手? を出して母君の手とタッチした。
うわっ、こうみると魔物っぽい!
が、そんな触手は気にしてないみたいで、母君は何も言わず、背中を向ける。
何してるんだろ、と見たらお皿にきなこ餅を何個か乗せて、2つのコップにお茶を入れてお盆に乗せていた。
「ばれちゃったから、お茶菓子、出すわね?」
おちゃめだなぁ、母君。……気にしなくていいのに。
お茶ときなこ餅を盛った母君と、きなこを抱えた俺と、2階の自室に戻れば、ユウキが何故か正座していた。
「話はできましたか?」
「あ、まぁ。一応? ハルト君、お母さんから許可もらえた?」
「うん。きなこって名前つけた」
「そか、きなこ。良かったな」
「きゅっきゅぷぷぷー!」
頭を撫でようとしたユウキの手を両の触手で捕まえて、きなこが鳴く。
……威嚇か? これ。
「きゅきゅきゅきゅきゅっ」
「ちょ、きなこさん? あの?」
戸惑うユウキにきなこはきゅっきゅちゃん語でまくし立てていた。
そんな一人と一匹の戯れを、母君は華麗にスルーし、笑顔のまま部屋を出ていく。
「ごゆっくりしてくださいねー。ハルト、ユウキさんからちゃんときなこちゃんのこと聞いてね? 食べ物とか、しつけとか」
そういって去っていく。
俺は母君に手を振ってから、ユウキを見た。
「で、許可はもらったが?」
「あ、はい。なんかギャップスゲーな、お前」
「ん? そうか?」
まぁ、繕わなきゃいけない相手に対しては、ね?
ユウキ? 俺の前世知ってるんだし。転生者だって知ってるし? 別にいいだろ。
「まぁ、きゅっきゅちゃんの食性は一昨日聞いたろ? 総合飼料でも、人間の残飯でも」
「残飯食わすとでも?」
「まぁ、ないな。基本的に禁忌はないよ。基本的な生態は魔物そのままだ。ただ情報を集めることがメインなデザインがされてるから積極的に襲ってこないってだけ。危害を加えたら徹底的に……こう、襲ってくる」
ユウキが首を傾げる。
いや、避けたのだ。
ユウキの頬に血が流れた。かすり傷。
きなこが触手でパンチしたのだ。
鞭のようにしなった高速の攻撃は、掠ったユウキの頬を切り裂く。
浅いが、確かに傷をつけた。
「きなこ?!」
-街-なかでの攻撃は、いかなる場合でも罰則の範囲である。
最悪……前世でいう警察のような場所に突き出される。
ペットが他人に危害を加えたら、その責任は飼い主がとるものだ。そこは前世の日本と一緒。
で、この場合……母君か父君になるのか? それとも俺?
「大丈夫だ。まだ、きなこの所有権は俺にある。し、仮にお前に渡っても……この程度でことを起こさせねーよ。だがきなこ? 次があったら……どうなるかわかるよな?」
まくしたてつつユウキは自身の頬を撫でる。
すると傷が元からなかったように治っていた。回復魔術だ。
……こいつ、息をするように魔術使ってるな。流石魔術を司る神。
後半はきなこへの忠告だった。
きなこは「きゅぷー」と不満げに鳴いたが、俺を見上げた後「ぷぷー……」と力なく鳴く。……反省の意か?
「んまぁ、見ての通り。俺はきゅっきゅちゃんに嫌われてる」
「それは、過去の因縁か?」
「そもそも、今の俺は『世界の外側』にいるシステムの優樹と喧嘩中だ。こいつの創造主はあっちの優樹だからねぇ。そら犬猿の仲だよ。ましてや、祖先の仇だぜ? 俺」
「恨まれることはしてるのか」
「まぁな。俺らの都合で一か所に集めて飼殺してるってのもあるしなー」
そういいつつ、ユウキはサテライトのチャットを起動する。
なんだ?
だが、相手は俺ではなかったらしい。
に、さん言葉を綴ってウィンドウを切った。




