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#15 異種族が共存する世界って、節々で実感しちゃう

 数曲の手遊び唄を楽しめば、昼食である。

 

 他種族を包括して保育している都合上、食性の異なる種族の為に複数種類の給食を用意できるほど、幼稚園の予算は残念ながら充実していない。

 ので、園児たちはお弁当を持参している。

 

 俺ももれなく母君にお弁当を持たせてもらっている。

 台所に立てるようになったら、自分でご飯作るから、待っててね、母君……!


 しっかし、今回も母君お手製お弁当は素晴らしい出来栄えである。

 ちょっと食べるの勿体ない……

 少し甘い味付けの卵焼きに、たこさんウィンナー、飾り切りされた人参とカボチャとブロッコリーの温野菜サラダ、ゴボウサラダに……魚のフライか? あ、ミートボールも入っている。

 見たところミートボールには野菜のみじん切りが混ぜられていて……つまり手作りだ。

 おにぎりは小さいものが3つほど握られていて……愛を感じますなぁ……

 大きいおにぎりだと俺の小さな手では掴みづらいだろうと小さく握ってくれてる。

 

「ハルト君のご飯きれいー」

「おいしそー」

 俺のお弁当を覗き込んで園児の数人が歓声を上げるのもいつものことだ。

 俺は曖昧に笑んでから「いただきます」と手を合わせた。


 ……前世が日本人だからね。手を合わせないと落ち着かないのだ。

 ついでにアルヴェリア王国に「いただきます」の文化はない。

『堕ち人の知識』として「いただきます」の文化自体はあるのだが、言うほど浸透してなかったりする。

 ので、各々お弁当の準備が出来たら銘々に食べだすのだ。


 ……温野菜だと思っていたニンジンは煮つけでした。

 そしてニンジンの下にシイタケやタケノコが忍ばされていました。

 ……母君……!

 まぁ、煮つけ、俺の好物だしね。ありがたい。

 ありがたいんだけど……

 ……ちょっと、多いかな……。


 ……たぶん、母君的にはお弁当のおかずとかをお友達同士交換したりするかもと意図して少し多めに用意してくれてるんだろうけど。

 園児の中にはアレルギーを持ってたり、種族が違うので食性が違う子もいるので、おかずの交換なんぞ怖くてできんのだ。

 ほら、岩食種族の子、岩食ってるし……俺、岩は食えないから、おかず貰っても困るし……? エルフ……つかミリアちゃんだって……あれ、宝石……? あ、魔導結晶か。


 エルフの食性は人間とさほど変わらない。

 が、エルフの大半は魔術師で。魔術師は魔力を多く消費するので定期的に魔導結晶を摂取したり、魔力を正常に流すために内服薬を飲んだりしている、らしい。

 ユウキは内服薬ではなく薬煙草を吸っていたが、アロマを纏っていたり、そこらへんはその人の趣向に寄るみたいだが……

 エルフだからってみんな内服薬や魔導結晶を摂取しているわけではないけれど、ミリアちゃんは魔術師として結構な腕前らしい。

 

「ハルト君のママって、きれいだし、お料理上手だよね」

 隣の席でお弁当を食べていた、ユマ君が話しかけてきた。

 ユマ君は犬系の獣人で、折れ耳とふさふさの尻尾がチャーミングな人懐っこい性格の……ほんとわんこ、って感じの少年である。

 ユマ君は肉食寄りの雑食で、そういうところも犬っぽい。……悪意はないよ?


 今日もユマ君のお弁当は9割強お肉である。

 焼いたステーキ肉がいっぱい詰まったお弁当は、前世の俺なら結構憧れな弁当だっただろう。

 ……今は……まだお肉がたくさん食べれない。……胃がね……もたれるんだよね……ふふふ。


「ユマ君のお弁当もおいしそうだよ?」

 少なくとも、前世の……14歳の少年である俺だったら目が輝くくらいには。

「んー……僕もおいしいとはおもうんだけどさー。ハルト君のお弁当、カラフルじゃない? めっちゃきれーでさー。おいしそーって思うんだよね」

 もっしゃもっしゃとお肉を咀嚼しながら答えるユマ君。

 犬ではなく、獣人であるから、人よりの食性をしている。けど、やっぱり獣の因子に引っ張られているためか、獣っぽいところが強く出る。

 

「そういえば、ユマ君ってチョコレートとか食べれるの?」

「人型のときは食べれるよー。チョコマフィン大好き」

「やっぱ獣人ってそういうところいいよねー」

「獣化してるときにネギは禁忌だけどねー。ネギ食べたら1日は獣化しちゃだめなんだー」

「へー」


 完全に消化するまでは……って話だろうけど。

 獣化すると体の組成が完全に獣になるのかね……

 ネギとかチョコとか人間以外には猛毒だからねぇ……

 そう思うと、この世界の動物や人間は前世のそれと余り変わらない。

 不思議なもんである。

 もちろん、エルフやドワーフ、オーガや鬼など、前世の世界には存在しない種族も多々いるが……獣人もそうか。

 だが、豚や牛、犬や猫……ネズミ……前世の世界にいた動物も多々いる。

 そこらへんもこの世界が異世界っぽくないと感じる遠因だろうか。

 

 まぁ、もう5年もこの世界にいるので……異世界って印象もずいぶん薄れてきている。

 この世界に生きている。アルヴェリア王国の国民であるという自覚の方が強くなっている気がする。まぁ、まだまだ日本を懐かしむこともあるけどねー。

 ポテチはあるけど、カ●ビーや●池屋とは何か違うし、ミルクティーも午後ティーやリ●トンとは何かが違う。キノコ、タケノコ戦争もこの世界にはないから懐かしい。

 

 ま、代わりににゃん玉、ワン玉戦争があるけど。

 にゃん玉はふわふわした丸いお菓子で、わん玉はパチパチする丸いお菓子である。

 マシュマロっぽいけど、マシュマロではない。なんなんだろうな、アレ。

 ついでに俺はわん玉派。

 なあんか、癖になるんだよねぇ……あのパチパチ感。


「そういえば、ユマ君はわん玉派? にゃん玉派?」

「猫野郎のことは聞きたくない」


 Oh……これはお菓子戦争より闇が深そうだぞぅ?

 5歳児とは思えないくらい闇が深そうな真顔で吐き捨てるユマ君に俺は怖気ついて謝罪するしかなかった。


「ご、ごめん……」

「いいよぉ? ボクはあのパチパチ感大好きだよー」

「あー、わかる。口の中ではじける感覚が楽しいよねー」


 そしてどうやらユマ君はわん玉が食べれる系種族のようだ。

 岩食系種族であるノームのじゃ太郎君なんかにはこういう話は禁忌以外の何物でもない。なんせ食べれないからね……岩じゃないから。


 では、じゃ太郎君はおやつという概念がないのかっといえばそうではなく。

 薄っぺらい石のようなものを食べるのが好きらしい。食べる様がせんべいのそれである。

 もっといえば、じゃ太郎君的には某ゲームで出てきた漫画肉のような見た目の岩がとっても気になっているらしい。ゲームの話なので現実にはないのだけれども、本当にあったら食べてみたいと目を輝かせて言っていた。


 まぁ、あったら……食べれたら……いいね。


 俺は遠い場所を眺めつつそう願う他ない。


 昼食が終われば、サーキット遊びの時間である。

 平均台や滑り台、ぐらぐら橋など、数種類の遊具が円に並べられている。

 それを園児全員でぐるぐる回りながら遊ぶのだ。


 暫く遊ぶと、帰りの時間になった。

 外の様子を窺えば、みんなの親がスタンバっていた。

 その中には母君ももちろんいる。


 俺が母君の存在に気づいたことを母君も気づいたらしい。

 こっそり手を振ってた。

 ふふっ、母君。自身の母親に思う感情ではないのかもしれないが、かわいい。


「はーい、皆さん。帰りの準備をしますよー」

 先生の号令に、みんながあるいは元気よく、あるいはしぶしぶ返事する。

 いやぁ、5歳児って……純粋でいいよね。

 ……俺もその5歳児のはずなんだがな……

 いかんせん、前世の14年が記憶として存在するせいか、妙に冷めた目線が俺の中にある。

 そこに自嘲じみた可笑しみを感じてしまう。

 赤ちゃんの頃よりは自身の齟齬も薄くなってきたが、暫くはこの乖離とまだしばらく付き合わないといけないんだろう。


 さよならの歌の後、解散してそれぞれがそれぞれの親の元に帰っていく。

 俺も母君のもとへ近づくと、母君が迎えてくれる。

「楽しかった?」

 母君が微笑んで尋ねてくるので、俺はうん、と頷いた。

 事実、童心に帰って遊ぶのはとても楽しい。

 前世の感性が邪魔して少々斜に構えてしまうところがあるけど、まぁしゃあないよね? よね?

  

「粘土でね、いっぱい遊んだよ」

 手をつなぎつつ帰路につく。

 なあんか、いいよねー。親子の触れ合いって感じ?

 母君は冷え性気味なので、夏でもおててが冷たい。

 俺は……若干眠いのも加味して体はポカポカしている。

 ……つかすんげえ眠い。

 くあり、と欠伸を噛み殺して歩く。


 幼稚園から家まではそこまで遠くない。

 というか、徒歩5分程度なので激近である。

 もう少しいうなら公立小学校は徒歩10分だし、公立中学校は幼稚園の隣だったりする。ので、中学までは徒歩で行ける距離にある。通学が楽である。


 もう一度くありと欠伸を噛み殺す。

 ……今日はホント眠いな……粘土こねくり回してただけだが……思考を回し過ぎた……? おうち帰ったら昼寝……時間的には夕寝か。しないとマズそう……ホント眠い……


「ハルト、珍しいね? 眠い?」

 3度目の欠伸をしたとき、母君が声を掛けてきた。

「んー……」

 手を引かれつつ生返事。

 ……やばい、ほんと意識がほつれて……


 ……。


 なんとか、家までたどり着き、そのあと俺はベッドに倒れこんだ。

 眠りに落ちるまでは一瞬で。


 ……。

 

 目を開けると空は暗かった。

 流石に日は落ちたかー。……日付は変わってないよね?

 サテライトを確認すると、夜8時だった。

 2時半くらいに家についてベッドにインしたから……6時間くらい寝てたのか。

 ……ひっさびさに夜以外の時間に寝たなー。

 

 背筋を伸ばし……軽いストレッチすると空腹なことに気づいた。


 昼食のお弁当から何も食べてないしね。

 一階に降りると話し声が聞こえた。

 声のもとはリビングかな?


 ……?

 母君と父上かな……?

 父上にしては帰りが早い……?

 父上は最近深夜近くに帰ってくることが多いのだ。仕事が忙しいんだろねえ……。


 ……浮気……とか、ないないないないない。

 ないよ……ね?

 近所で父上と母君は鴛鴦夫婦として有名なのだ。

 

 が、リビングに近づくにつれて、話し声が言い争いであると気づく。

 え、まさか父上やっちゃった?

 が、どうやら言い争いの相手は父上ではないようだった。


 なんというか……アルヴェリア共通言語じゃ……ねぇな?

 語感からして……エルフ語……?

 話している意味まではよくわからないけど……なんだ?

 母君がかなり怒っている。……珍しい。


 ちょっと邪魔しちゃ悪いな……トイレ行って茶を濁すか。

 ……ちょうど催してきたし。

 静かにその場を離れてトイレ休憩。

 一息ついてからリビングに戻ると、諍いは終了したらしい。


 母君が吐息してから俺のことに気づいたらしい。


「あ、ハルト。……お腹すいた?」

「うん」

 素直に頷いておく。


「テーブル座ってて。いまごはん持ってくるからね」

 母君はソファーから立ち上がってキッチンへ向かった。

 見送って俺は……手伝おうかなって思ったけど、今日は素直に席に着いた。

 なんとなーく、座ってた方がいいかなって……勘が囁いてた。虫の知らせかな?

「かあさん、とうさんは……まだ帰ってないんだよね」

「……あ、うん。まだパパは帰ってきてないね。……今日も仕事が立て込んでて遅くなるんだって」

「そっかぁ……忙しいんだね」

 といっていると、母君がどんぶりを出してくれる。

 ……おじやだった。


 おじやだあああああああ!

 俺おじや大好き! 鍋の〆でよくやったわぁー。

 あれだな、母君? 俺がいつ起きるかわかんないから、深夜起きてきても食べやすいように配慮してのチョイスだな!? 流石母君! 素敵!

 ネギも入っているが、上に散らされたもみのりがニクい。

 半熟の卵が絡んだ米が……うまいのよ!


 内心テンションぶっ壊れで歓喜している俺だが、外面は悟られないように「いただきまーす」といつも通りを装っている。

 ……いや、おじやで狂喜乱舞する5歳児って、何。

 心配させまくってる自覚はあるからねぇ。これ以上変な子だと思われたくないんだよねー……。

 

 そういう心配をしている時点で子供っぽくない? あ、そう?

 しゃーないじゃないの。俺、母君に迷惑ばっか掛けてるし。これ以上、ね?

 この世界に生れ落ちてから、俺は一貫して母君に迷惑を掛けたくないのだ。


 しっかし、母君の作る料理はまっぢでうまい。

 火加減から何から……ほんと、俺の好みをビタで突いてくる。天才か? 天才か。

 おじやのうまさに感動しつつ口に運ぶ。


「おいひぃ……ほんと、おいしいよ。かあさん」

「よかった。おかわりもあるけど、食べる?」

「いただきます」


 なぞに敬語になるくらいうまい。

 ハンバーグやグラタン、唐揚げとかも好きだけど。

 煮物系とかおじやが特段好きなのよね。

 特に母君の作る煮物やおじやはホント大好き。

 絶妙な味の染み加減とか、だしの効かせ方が天才なのよ。

 あと卵焼き。

 母君の作る卵焼きはほんと……金を払ってでも食べたい。

 ……母君にはそこまで具体的に好きって言ってないけどね。



 ほんと……この人の子供で俺は幸せ者だよ……。


 もう少し大きくなったら卵焼きのレシピを教えてもらおう。

 ……って言っても完全再現できる自信ないけどね。


 結局小さなどんぶりに2杯、おじやをいただいて。満腹になった俺は再び睡魔に襲われる。

 洗面台で歯磨きをしてから、またベッドにもぐりこんだ。

 ……お風呂入ってないけど、明日早起きしてシャワーくらい浴びとこ……。

 布団をかぶった瞬間、意識は溶けて。俺は速攻夢の国に旅立った。


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