#14 幼稚園はいつでも楽しい。
幼稚園は楽しい。
いわゆる公立の幼稚園なので、遊ぶのが仕事! レベルで遊ばせてくれる。
昨日あの後、家についたのは夜近くだった。
晩御飯を食べて、風呂に入って、そのまま寝たわけだが……
なあんか、変な夢見たんだよねー。
真っ暗闇で『タスケテ』って声だけが聞こえる夢。
助けを求める声を、無視できるほど俺は非情でないつもりである。
助けれるなら助けてやりたい。
んだが……どちら様が助けを求めてるやら……
問題は山積みである。
可哀そうなきゅっきゅちゃんの件もあるしね。
「ハルトくんなにしてるのぉ?」
俺の手元を覗き込んで女の子が問いかけてくる。
エルフの女の子で名前はミリアちゃん。
銀髪に緑の瞳をしている……まぁ、将来有望な顔立ちをしているね。
俺はといえば……粘土を捏ねていた。
考えがまとまんないときは指を動かすに限る。
今も粘土を捏ねて……きゅっきゅちゃんを作っていた。
「猫ちゃん? かわいいー」
手足のないフォルムだが、小さい耳とかで猫と判断したらしい。
ミリアちゃんがニコニコ笑顔で感想をくれる。
まぁ、肯定も否定もする気はないんだけどね。
きゅっきゅちゃんはかわいい。猫っぽいフォルムだが、猫ではない。
きゅっきゅちゃんはきゅっきゅちゃんである。
幼稚園には人間以外も通っている。
そもそもアルヴェリア王国は他種族の国である。
幼稚園の中には種族を限定して募集している園もあるが、公立幼稚園はそういう縛りを基本的にはしていない。
だから、獣人もいれば、エルフやドワーフ、オーガもいる。
ついでに、夜行性種族がいる都合、公立幼稚園にも夜間幼稚園が存在する。
そちらにはヴァンパイヤなど夜行性種族が多く入園している。
もっと言えば、夜間があるのは幼稚園だけではなく、小学校以降も当然あるし、多くの業種で24時間営業している。
異種族が共生する世界あるあるだろうか。
まあ、夜に開いている店があるのはいいことだ。
夜泣きの激しい赤ちゃんを連れてカフェに行くお母さんをちらほらみたし。
俺は夜泣きをしなかったクチだが、たまーにママ友の集まりにお邪魔していた。懐かしや……
常にどこかしらの店がやってるし、急に何か要り用になってもいつでもすぐ手に入れることが出来るのは、前世から考えると有り難いことだし、便利なものだ。
「……あ」
考え事をしつつ粘土を捏ねていると大量のきゅっきゅちゃんフィギアが出来ていた。
まあ、油粘土なんで再利用可能なやつだけどね。
机の上に小山になったきゅっきゅちゃんフィギア……かわいい。
「ハルトくん、じょーずだねえ。手足ないけど、本物みたい」
ミリアちゃんが手を叩いて褒めてくれる。
んまあ、世間一般ではきゅっきゅちゃんの存在は知られていない。まさかこんな形の生き物が−8番街−の南西区に存在するなんて……思わんわな。
俺はミリアちゃんに曖昧に微笑んで一旦山になったきゅっきゅちゃんフィギアを潰して捏ねた。
また一からきゅっきゅちゃんフィギアを作るのだが……
きゅっきゅちゃん、か。
あのクリーム色のきゅっきゅちゃん、人懐っこいどころの話じゃなかったなあ……
初対面の、しかも見た目だけは幼い俺の腕の中で蕩けちゃってさあ……危機感とかないのかな?
可哀想な目にあっている子は、あいつではないだろうな……平和しかしらない顔をしてた。
ミリアちゃんが一所懸命褒めてくれているが、俺はミリアちゃんをそっちのけできゅっきゅちゃんフィギアを量産しつつ思考の海に没頭するのだった。
一応幼稚園にもカリキュラムはある。
まぁ、言っても幼稚園だからね、授業と呼べるものでもない。
今俺がやってる粘土弄りもカリキュラムの一環だ。
自由遊び時間の、制作というやつだ。
結局何回かきゅっきゅちゃんフィギアの山を作って、最後にできた山をサテライトで撮る。うん、いい出来である。
ミリアちゃんは途中で飽きたのか、離れた場所でお絵描きをしていた。
お花が好きなのはエルフだからか、女の子だからか……
周りを見れば同じ組の少年少女が各々銘々に制作やら、外遊びやら、うち遊びやらを楽しんでいる。
そろそろ時間なので俺は片付けに入っているが、まぁ、5歳児の大半は時間管理なんぞ埒外のところで生きている。俺が稀有なだけである。
粘土板を所定の場所に置いたと同時、先生が園児たちに片付けを促した。
それの声にのろのろと答えて片付けに入る者、まだ楽しみたいと駄々を捏ねる者、逃げ出す者……対応は様々である。
が、なんだかんだ、歌を歌ったら昼食だということに気づくと動きが速くなる。
みんな昼食が楽しみなのだ。
まぁ、全力で遊んだら腹減るしね!




