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#9 ようやく対面ですね?

「あ、そろそろバス停に着くねぇ。大人とセットで幼児の運賃免除だから、許可にくれや」

「あ、そか。すまん」

 そういえば俺5歳だったわ。

 この世界でも、幼児運賃は大人とセットにすると一人免除になる。前世では口頭でいうの多かったが、こっちではこういうこともサテライトが管理している。

 ユウキから申請された書類がサテライト経由で届いたのでOKを押す。これで証明になる。


「あんまり前世のことは気にしないで、子供であることを満喫しとけ」

 俺の頭をポンポン叩いてユウキが笑う。


 ……ここへ来る途中のあれは、これを言うための布石か。


 軽く叩くように撫でられた頭を手で擦り、俺はユウキの後を追った。


 バスに乗り、電車を乗り継いで越境。

 南区から南西区に入ると雰囲気が少し変わる。


 南区は農業が強い場所だが、南西区は酪農が盛んであるらしい。

 牛……といっても前世の牛とは見た目がかけ離れていて、どちらかといえば魔牛と呼んで差し支えのない巨体と角を持っている。


 正確にはわからないが、前世でみた記憶と比べても、2周り、3周りくらいは大きいか。

 気性も荒いらしく、不用意に近づいてはいけないと口酸っぱく言われる。


 窓越しに見る牛は、乳牛らしいが、闘牛のように人を振り回していた。

 絶対に近づいちゃだめだな。確かに。


 ……なんで、-街-中なのに命がけなんだ……?

 いや、これ以上は考えないほうがいいか。


 電車からさらにバスを乗り継げば、どんどん牧場から森へと景色が変わる。

 きゅっきゅちゃん……牧場、だよな?

 牧場……っぽい景色から離れていってるんだが?


 不安になっていると、景色は完全に森に変わった。

 牧場なんて、影も形もないありはしないし。

「というか、山登ってない?」

「登ってる登ってる」

 隣で座っていたユウキが面白そうに笑っていた。

「山ん中なん?」

「人の目を避けるためにな。言ったろ? きゅっきゅちゃんは魔物だって。魔物が-街-の中にいるって事、実は、あまり都合が良いもんじゃないのよ」

 確かに、家畜化されているらしいが、明らか体毛のあるスライムという見た目のきゅっきゅちゃんは、動物より魔物のほうふぁ近しいと外見でわかる。

 そんなんが大量にいるっていうのは……やばいか。

 外聞に悪いと言うか、なんというか……。


『次は〜発電所前〜発電所前〜。終点でございます〜』

 気の抜けた運転手のアナウンスが聞こえる。

 いつの間にか、バスの車内は俺とユウキしか居なかった。


「降りよっか」


 発電所前、とはいうけれど。

 バス停の周りはまーじで森だった。

 木、木、木ばっか。


 牧場……どころか、発電所も見当たらないのですが……あるんですか? 


 不安を抱きつつキョロキョロ見渡していると、ユウキが「こっち」と言いつつ歩きだした。

 ……道すら無いんですが?

 獣道とかいうレベルじゃない。


 え、そんな人こない場所なの?

 発電所前……バス停あることが奇跡レベル……?


 素直にユウキの後ろをついて歩いて数分。

 唐突に視界が開けた。


 視界が開けた先は楽園だった。


 † † †


「きゅきゅーん」「きゅっきゅちゃーん」「きゅーきゅっきゅっきゅっきゅっきゅっ」「きゅっぷ」


 見渡す限りのきゅっきゅちゃん、きゅっきゅちゃん、きゅっきゅちゃん!


「ここが楽園(エデン)か」

「エデンじゃねーよ。落ち着け」


 すかさずのユウキのツッコミなんて聞こえません。聞こえないったら。


『世界の外側』で出合った個体もそうだが、きゅっきゅちゃんはとてもカラフルだ。


 個体差は激しく、小さい個体は20cm前後だが、大きい個体は……数メートルっていうか、軽トラックほどある。でっか……


「ぎゅぎゅーーーーん」


 鳴き声というより、最早咆哮。ふふっ、ウケる。


 小さい個体はぴょこぴょこ飛び跳ねて動き回っている反面、大きい個体はほぼほぼ動かない。

 どっちにしろかわいい。


 ずっと見続けたい気持ちもあるが、ユウキを見ると豆粒レベルに小さくなっていた。

 慌てて追いかけつつ周囲を見る。


 森に囲まれた牧場らしい。

 バス停からは想像できないくらい、広い牧場で、多種多様な大きさのきゅっきゅちゃんが悠々と暮らしている。

 ここの景色からは「発電所……?」と不思議に思ってしまうが。まあ、パンフレットにゃ電気プランのご案内しか書かれてなかったし、発電施設もあるんだろう。

「普通に牧場なんだな。見た目」

 ユウキに声をかけると、ユウキは苦笑した。

「ま、見かけはなー」

 と答えてから、一匹手近にいたきゅっきゅちゃんを柵内から抱き上げて取り出す。

「ほい」

 そのまま俺に押し付けてきた。

 思ったより、軽い。そして暖かい。

 極短毛の体は30cm程度。だが、予想以上に軽い。骨とか内蔵とかある? ぬいぐるみと大差ないぞ。感覚が。

 が、ちゃんと呼吸してるし暖かい。恒温動物っぽい。


 ……外側で触ったときのような感動は最早ないが……やっぱなんか安心する。

 どっちかといえば力強さを感じる暖かさに包まれて、やっぱり和む。

「相変わらずかわいいなあ、きゅっきゅちゃん」

「きゅっきゅちゃん? きゅきゅーん? きゅっぷぷぷ……」

 きゅっきゅちゃんもきゅっきゅちゃんで話しかけてきてくれてる様子。ああ〜癒やされるんじゃあ〜。


 クリーム色のきゅっきゅちゃんは、俺の腕の中でさっそく蕩けていた。人懐っこいのかな?

「きゅぷー」

 毛玉スライムという印象は変わらず。

 ほんと、骨のある動物には到底思えない平べったさ。

 猫も液体だと言われるが……猫もびっくりの平べったさだ。

「きゅっきゅちゃんって液体だったりする?」

「液体……かは知らんが……スライムの系統だとは言われてるな」

 毛玉スライムという印象は正解だったか……

 まあ、そらスライムだろうなあ……


 しかし、スライムか。

 前世ではスライムはかなりの雑魚キャラという印象だったが、今世のスライムは最強格の厄介さである、らしい。

 実際見たこと無いんでなんとも言えないが。


 何でも物理無効属性攻撃無効状態異常無効、魔術もたいていが耐性もちらしく……え、どうしろと?

 スライムが-街-の近くに来るだけで警報がなる。

 何なら一部は避難するらしいので、オオゴトである。


 俺の家はいうて、南区だが中央区よりなので警報がなることはあまりないが……これ、外壁側だと大変なんだろうな……


「ンま、きゅっきゅちゃんの前で下手な事言わないことをおすすめするぜー。こいつら、いつの間にか情報共有して袋叩きにしてくるから」

 え、なにそれ、怖……


 蕩けているきゅっきゅちゃんを見下ろすと、とてもそんなことしないと思えるんだが……ユウキが言うのだから、言動には注意しよう……いや、ハナから虐める気は皆無だが。


 きゅっきゅちゃんを抱きつつ小さな掘っ立て小屋の中に入る。

 ……抱いたままで良かったかな? ま、ユウキが何も言わなかったから、良いか。


 掘っ立て小屋のなかは事務所らしかった。

 牧場以上に質素だな。オフィスデスクとイス、ファイルを収納する棚……あとはパソコンと電話。

 殺風景にも程がある。


 そして作業着のおじさんが部屋の隅でゴソゴソしていた。

 中肉中背のおじさんらしいその人はこちらには気づかない様子でダンボールの中を漁っている。

 探しものかね?


 しばらく様子を見ていると、流石に気配を感じたのかおじさんが振り返った。

 人の良さそうな顔をしている……

 困ったような笑顔を湛えて、おじさんは口を開いた。

「ユウキ様じゃないですか。何用で?」

「んーにゃ。俺は特になんだが……この子に牧場を見せてやりたくてなー」

「はあ、親戚で?」

「見える?」

「……まあ、ユウキ様神様ですしね……親戚……いませんしね」

「喧嘩売ってんのかなー? マツヤくーん?」

 あ。ニッコニコでコブラツイストをおじさんに仕掛けるユウキ。あ、青筋たってる。

 本気で怒ってる様子ではないが……まあ、じゃれ合いか。

「ちょ、ユウキ様、やめ……」

 の割に、おじさんはまじで嫌がってる……あ、技は全力で掛けてたらしい。おじさんの顔がみるみる青ざめて紫かかってる……

「そっ……それ以上はいけない……!」


 まあ、元ネタはコブラツイストじゃなくてアームロックだけどね……


 マツヤと呼ばれたおじさんは、常に困ったような笑い顔をしていた。

 気弱そうな、気の良さそうなおじさんだ。

「で、牧場見学……でしたかな。ぼく? お名前は?」

「ハルトです。きゅっきゅちゃんの生態とか知りたいです」

「あー……そういうのはユウキ様のほうが知ってるから、ユウキ様と一緒に適当に周ったらどうです?」

 とマツヤさんがユウキを見た。

 俺もユウキを見ると、ユウキは呆れたような、哀れみに近い顔でマツヤさんを見ていた。

「おまえさあ……やっぱポンコツだな?」

 おや? パワハラかな?

「まあ、いいや。こいつは飼育員だがいうほど真面目なやつでもなくてなあ……」

「いや、本人の前で言ってやるなよ。事実でも」

 いじめか? 世が世なら犯罪だぞ?

「大丈夫、大丈夫。パワハラくらい霞むほど酷いことしてるから、こいつ」

 ええー? そうは見えないけどなあ……

「何したの? おじさん」

「いやあ……ははは」

 誤魔化すように笑うマツヤさん。マジなにしたんだ……?

「きゅっきゅちゃん発電所だけ説明してくれー」

 というユウキの声に、マツヤさんは時計を見た。

「ああ、丁度交代の時間ですね。一緒に行きますか」

 前で待っててください、といいつつマツヤが奥へ消える。

 あ、気づかなかったけど、奥にも部屋があるのね。

 マツヤさんを見送って俺たちも外へ出る。

 空を見上げると、今日もいい天気だった。

 まあ、アルヴェリア王国の-街-は全てドーム状の結界で覆われていて、今見える空も投影された擬似天空なわけだが……それでも、空が青いと少し嬉しい。

 閉ざされた空とはいえ、−街−内に雨が振らないわけでもないしね……ただ、天気予報ではなく天気予定なだけだ。天候システムで管理しているから、不足の天候なんてないだけなのだ。

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