お菓子作り
ただイチャイチャしてます。
次話、レイモンドの研究室に行くのでそこから話が大きく動いていきます!
誤字報告ありがとうございます!
「さてと、始めようかな」
夜会でガートン様に、卵の入っていないお菓子の作り方を話したところ、ぜひ食べてみたいと言われてしまった。プロの料理人に食べて貰えるような代物では、と断ったのだけれど、最終的には押し切られお菓子を作ることに。
特に予定のない私としてはいつでも良かったのだけれど、レイモンド様の頼みで彼が休みの日に作ることが決まった。
「時間がかかりますから、お部屋で休んでいてくださって良いのですよ?」
「せっかくの休日を、オフィーリアと離れて過ごすのは嫌だからここにいるよ」
甘い言葉に蕩ける笑顔。
昼食の仕込みをしていた料理人に二度見されていたけれど、気づいていらして?
生ぬるい空気を背中に感じながら、広い調理場の隅で私は身体を小さくする。
「何か手伝うことはないか?」
それなのに、ずずっと距離を縮めてくるレイモンド様に、仕方なく小麦粉の入ったボールを手渡す。
「では、これをふるってください」
「分かった」
ふるいも渡せば、嫌がることなく小麦粉をふるい始める。
その横で私は飾りとなる果物をカットする。カットしたあとは砂糖で煮詰め、甘くするつもりだ。
「ところで卵っていうのは、お菓子のほとんどに使われているんだな。知らなかったよ」
「そうなんです。だから子供の時にどうしても食べたいって我儘を言ってしまって。それでお母様と料理長が卵を使わないお菓子を考えてくれたのです」
「そうだったんだ。でも、卵を使わないことで菓子作りにどんな支障が出るんだ?」
それは料理によっていろいろなのだけれど。ケーキに関してはやはり。
「膨らまないことですかね。ケーキの場合は小麦粉と卵を混ぜてふっくら焼き上げるのですが、それができません。硬くてかちこちのスポンジになるし、風味も悪くなります」
「それはもはやケーキではないな。では、どうするんだ?」
「スポンジの場合はベーキングパウダーを入れます。他にもいろいろやり方はありますよ。お菓子の種類によってはまったく同じとはいきませんが、それはそれで美味しいです」
ふーんと、頷きながらも手は動かしてくれる。ケーキ作りは意外と体力勝負なのでとても助かるわ。
混ぜ終わったところでオーブンで焼き、冷ましてから生クリームを塗って飾り付けをする。ここまでくると普通のケーキと変わらない工程になる。
とはいえ、今日はケーキを食べるのがプロの料理人。必要以上に肩に力が入ってしまう。
「上手だな」
「緊張しているので今は話しかけないでください」
必死な様子にレイモンド様はクスクス笑いながら場所を移動された。どうやら少し離れた場所から見ることにしたらしい。
やっと生クリームを塗り終え、果物をどうトッピングしようかと考えていると、視線の端にサクランボを摘まむレイモンドの姿が。サクランボは煮詰めず端に置いていたのだけれど、目ざとく見つけたらしい。
「美味しいですか?」
「うっ、見られたか。うまいよ、オフィーリアもどうだ」
そう言うと立ち上がって私の近くまでやってくる。
では、と手を差し出せば、そのまま口に入れられてしまった。
少し硬い指先が唇に触れ離れていく。
「どうだ?」
「……お、おいしいです」
近くにある整った顔と触れられた指先に、私はサクランボみたいに真っ赤になってしまう。そんな私を見て何故かレイモンド様までも頬を染め片手で口元を隠した。
そっぽを向いたまま「可愛すぎる」と呟かれた声は聞こえなかったことにしよう。
***
時計が三時を告げるのとほぼ同時にガートン様が来られた。
レイモンド様が出迎えている間に、私はケーキをお皿に移す。
作ったのはフルーツがたっぷり載った生クリームのケーキと、シンプルなチョコレートケーキ。
実はこれ、すでに小さくカットしたものをレイモンド様が食べている。
なんでも自分が一番に食べたかったとか。だから休日に作って欲しいと言ったのね、と合点する。
美味しい、と言う言葉はもちろん、私がいつも食べている味を知れてよかったとまで言ってくれた。
テーブルにケーキを並べると、ガートン様はそれを前後左右から眺め感心したように頷く。
「卵なしでもこんなに膨らむんですね。どうやったのですか?」
「スポンジはベーキングパウダーで膨らませました。卵を使っていない分、味が淡白になるのでシロップ煮したフルーツを沢山トッピングしています」
「なるほど、そこはトッピングでフォローできるというわけですか」
今度はフォークを手にすると、スポンジの柔らかさを確認するようにゆっくり一口分カットする。
始めの一口を敢えて果物と一緒に食べないのは、味を確認するためだと思う。次の一口は果物と一緒に食べていた。
「卵を使ったケーキと同じかと聞かれれば、正直違います。でも、これはこれで充分美味しい。風味が少ないのを補うのなら、果物だけじゃなくて濃厚なソースを加えるといいんじゃないでしょうか。チョコレートケーキは、食感を変えるのにチョコレートを粗く刻んだ物を加えても良いかも」
さすがプロは違う。アドバイスが的確な上に具体的。
私の家の料理人もプロではあるけれど、王室御用達の菓子職人はさすがだ。
「オフィーリアさん、このレシピを買い取らせて頂けませんか?」
「これをですか? 分かりました、でもお金は不要です。レイモンド様が出資されているのですから協力するのは当然ですし、私としてもどんどん改良していただき美味しいケーキを沢山作ってもらいたいです」
「分かりました。では是非試作品の味見をお願いします。レイモンドは甘いものが嫌いだから、オフィーリアさんに協力してもらえると助かります」
えっ、とレイモンド様を見れば、きまり悪そうに頬を掻かれた。
「甘い物がお嫌いだったのですか? でも先程二切れ、ケーキを食べられましたよね」
「オフィーリアが作ったものなら何でも食べられる」
「いやいや、それはおかしいだろう。俺の作ったのは全力で拒否するくせに」
バンと机に手を置き、前のめりになるガートン様に対し、レイモンド様は白々しく足を組み替え視線を別の場所に向けた。
まさか、甘い物がお嫌いなんて。そういえばつまみ食いされていたサクランボはシロップで煮詰めていないものだったわ。
「では、お菓子の類は作っても食べられないのですね」
「いや、オフィーリアの作ったものなら食べられるし、むしろオフィーリアがいつも食べているものを食べてみたい」
そう力説されても、無理はしてほしくない。
でも、これで作るのを止めるとがっかりされそうだし。
と考えたところで、私に良い案が浮かんだ。
ただ仲良しのお話。
次話は研究室、恋敵も登場します。
今回、話が動いていないので、できれば今日中にもう一話投稿したいのですが、お約束はできません。すみません。
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