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流行病.1


 忙しい季節はあっという間に過ぎる。


 研究室は、毎年夏に交代で休暇を取るらしい。

 私は学園の夏季休暇と同時期に取り、実家に里帰りした。結婚式は春に決まり、その報告も兼ねての帰省だ。


 レイモンド様の休暇は私より短く、テーランド国とトラッド国を往復するほど長くはないので、一人で船に乗った。ちょっとした冒険気分だったけれど、帰ってきたら溺愛が五割り増しになっていて、クローゼットが一つ増えていた。


 専門科の授業は薬草の基礎知識に加え、病気について学ぶ科目が増えた。医学専門科だけあって医師希望者も受講するから当たり前なのだけれど、これが中々難しい。薬草についての科目は、レイモンド様に既に教えて貰っていたから復習のようなものだったけれど、こちらはそうはいかない。

 医師になる訳ではないけれど、病を知らなきゃ薬を作ることなんてできないので必須なのは分かるけれど、毎回出される課題をこなすのが大変だ。


「オフィーリア、学園が忙しくなってきただろう。出勤日数を減らすようハリストン様に俺から頼もうか?」

「いえ、まだ大丈夫です。医師の卵達は座学に加え実地研修も始めるようですが、よくこなせるなと感心します。若さ、でしょうか」

「四歳しか変わらないだろ?」

 

 今日は授業がないので学園に行かず、レイモンド様と一緒に研究室に向かっている。


 馬車の中、レイモンド様は私を膝に抱えたままクツクツと耳元で笑う。それだけでなく、時折私の髪を指に巻きつけ楽しむことも。


 赤い顔でされるがままになっているうちに馬車は王城に着き、私達はいつものように実験室へと向かう。ちなみに、ターナーが潜んでいた小屋は防犯面を考え取り壊しとなった。保管していたものは整理して、執務机の後ろに新たに作った棚に並べている。


「おはようございます」


 いつものように扉を開け研究室に入ると、見慣れぬ白衣の男性が一人。歳はハリストン様と同じぐらいだろうか。作業台には何枚もの書類と一緒に地図も広げられている。

 それらが載った作業台をハリストン様、ジェイムス様、白衣の男性が囲む。全員が厳しい顔をしていて、尋常ならざる雰囲気だ。


 どうしようかとレイモンド様に目配せをすると、小さく頷き作業台に向かってくれる。


「何かあったのですか?」

「あぁ、レイモンド。実は国の南部で流行病が出た。数年前にも大流行した病だ」

「数年前というと、もしかしてバーダス病ですか!? 湿疹が出て数日後に高熱、内臓壊死する……確かハリストン様が特効薬を作られたのですよね」


 バーダス病。昨日授業で習ったばかりの病名で、数年前に西の地域で流行った時の致死率は八十パーセント。でも特効薬ができ、初期に投薬すれば死に至ることは殆どないと習った。その薬を作ったのがハリストン様だったなんて。


「では、急いで特効薬を作ります」

「そうしてくれ、レイモンド。城の薬師達も調薬を始めているのでそちらと連携しながら作業を進めよう。アゼリアが、今薬草を貰いに行っている。明日までにまとまった量を作り、医師が現地に向かう予定なのだが……」


 とそこで、ジェイムス様の視線が白衣の男性に向けられる。


「医師は四名派遣されます。私も行きますが、ハリストン様にもご同行頂けないかとお願いに参りました」

「ハリストン様が行かれるのですか?」


 思わず会話に入ってしまった私に、ハリストン様は事情を説明してくれる。


「数年前に流行った時、俺は現地に赴き新薬の開発に取り組んだ。しかし、その時バーダス病に感染してしまい、研究途中の薬に僅かな望みをかけ接種したところ、一週間後に回復した。そのあと改良を加えてできたのが発表された特効薬だ」

「そんなことがあったのですね」

「今思うと生きているのが奇跡だと思う。バーダス病は一度罹れば免疫ができるというのは習ったか?」

「はい。では、免疫があるのでハリストン様も行かれるということですか」

「そういうことだ。俺が留守の間はジェイムスを責任者代理とする。特効薬は完成次第早馬で随時運ぶ予定らしい」


 そこまで話すと、ハリストン様は再び白衣の男性と出発時間や道程を、地図を見ながら確認し始めた。

 ハリストン様の研究室は暫くの間レイモンド様が使うらしい。もちろん今進めている研究は一度中断になる。


 扉の向こうから声が聞こえたので開けると、アゼリアが両手いっぱいの薬草を抱えて立っていた。走ったのでしょう、額には汗が浮かんでる。


「ありがとう、アゼリア。次は私が取りに行くわ」

「それなら後から追加で持ってきてくれるよう頼んだから大丈夫よ」

「さすがね。……ねぇ、顔色が悪いけれど体調は大丈夫? 少し休んだほうがいいわ」

「平気。ちょっと走ったから息切れしただけよ」


 荒い息で答えると、アゼリアはジェイムス様のもとに駆け寄り指示を仰ぐ。アゼリアは最近研究室の手伝い以外にもいろいろと忙しい。これ以上無理はさせたくないし、明日は学園を休んで手伝うことにしよう。


 

ハリストン様だって、わりかし凄いんです。

一応、責任者なので。


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハリストンさん、凄いですね!今後の展開は緊迫、シリアスですね! [気になる点] アゼリアさん?本当に、大丈夫ですか?何かのフラグでは?
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