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アゼリア初出勤.2

本日二話目です


 全員が出勤し、アゼリアの挨拶が終わったところで、それぞれの研究室に向かい仕事を始めることに。


「オフィーリア、昨日頼んだ実験器具の手入れだが……」

「はい、終えてハリストン様の机の上に置きました」

「これ、ネジが一つ外れているんだけれど、何か知っているか?」

「えっ!?」


 顕微鏡を手に実験室から出てきたハリストン様。駆け寄り見れば、レンズを止めているネジが一つ外れている。


「昨日、私が見た時はそんなことなかったのですが……」

「そうか、困ったな。パトリシア、外の倉庫に行って予備の顕微鏡を持ってきてくれないか」

「分かりました」


 ハリストン様は「ネジ、緩んでいたかな?」と首を傾げながら実験室に戻られた。パトリシアさんが大きなため息をつき、腰に手を当て私を見る。


「オフィーリアさん、素人だから仕方ないとはいえ実験道具は丁寧に扱って貰わないと困るわ」

「でも、私が手入れした時はそんなこと……」

「それに、あの顕微鏡、本当にきちんと手入れしたの? 拡大レンズの部分が汚れていたわ。専用の布で拭いたのよね?」


 その問いに、私は首を振って答える。


 だって、手入れを頼まれた時、やり方を聞いたら「これで拭いて」と布を手渡してきたのはパトリシアさん。レンズはどうしたらいいのかと思い「全部この布を使えばいいですか?」と聞けば億劫そうに頷いていたし。


「パトリシアさんに聞けばこの布で、と仰ったので」

「確かに布を手渡したのは私だけれど、それぐらい少し考えれば分かると思ったの。だって常識でしょう」


 研究者にとっては常識でも、私は知らないことが多い。だから聞いたのに、と思うもこれ以上言っても仕方ないと言葉を飲み込んだ。隣でアゼリアがオロオロしているけれど、昨日の会話を知らないので口の挟みようがないのでしょう。


「とにかく、顕微鏡を取りに行ってくるわ。あなたのせいで私の仕事が遅れるじゃない」

「それなら私が行きます。場所はどこですか?」

「外にある倉庫――元実験室よ。私も入ったことはないけれど、今は物置になっているわ。そうだ、昔の実験結果を書いた書類でレイモンドの役に立ちそうなものがあったはず。それも持ってきてくれないかしら」


 パトリシアさんは共通の執務机から一冊のノートを取り出し、パラパラとめくる。チラリと見れば、書類のタイトル名と棚番号が書いてある。ノートは元実験室に何が置いているかを書き留めたものらしい。


「これとこれが使えそう。他にもレイモンドの役に立ちそうなものがあれば持ってきて欲しい……ってあなたでは彼のこと(・・・・・・・・・)何も(・・)分からないものね、いいわ、これだけで」

「……はい」


 にこりと微笑む口元から溢れるのは、レイモンド様のことなら自分の方が理解してるという自負。でも、私では必要な書類が分からないのも事実で、悔しいけれど頷きノートを受け取ろうとすると。


「あの、私が行って来てもいいですか?」


 アゼリアが手を上げた。


「私はオフィーリア以上に素人なので、出来ることは限られています。倉庫に行ってこれを取ってくるだけですよね、その間にオフィーリアは私ではできないことをしたらどうかしら」


 机の横には薬草が入った箱。中身を確認して下準備の作業もしなくてはいけない。


「そうね、分かったわ。元実験室の場所を教えるから……っと、鍵も必要ね」


 机の引き出しを開けると小さな鍵を取り出しアゼリアに渡す。私が行くことになっていても、鍵を渡してくれたかしら。


「場所も教えるわ。実験道具は入って右手、左手には番号の振ってある棚があると聞いたわ。この数年誰も入っていないから、書類の場所も変わっていないはずよ」

「……分かりました」


 不安そうなアゼリアを連れてパトリシアさんは研究室を出ていくと、すぐに戻ってきた。


「外の実験室の鍵はいつもその引き出しに入っているのですか?」

「そうよ、あとはハリストン様とジェイムス様が持っている。ここにあるのは辞めたターナー様の物よ」

「ターナー様?」

「ハリストン様の元補佐官で、ジェイムス様の同期。今は辞めて違う部署で働いているわ。では、私は昨日の実験結果を纏める手伝いをするようハリストン様に言われているから、薬草はお願いね」


 そういうと、ハリストン様の実験室へと向かう。と、そこでハッと気がついた。


「どうして私がレンズを同じ布で拭いたと分かったのかしら」


 多分、レンズが綺麗になっていなかったからだと思う。でも、ハリストン様がネジが外れていると言ったとき、顕微鏡は手に持っていた。


「至近距離で見たわけでないのに、どうして汚れに気づけたの? それにネジは絶対に外れていなかったわ」


 となると、私が手入れしたあとに誰かが外したことになる。その時に汚れに気がついたとか?

 ううん、でも証拠がない。これでは追求するのは無理かな。


「それより、薬草の下準備をしなきゃ」


 箱をよいしょと机に置き、釘抜きで釘を取る。始めは時間がかかったけれど、最近では手早くできるようになった。


 箱の中にある薬草を一枚ずつ手に取り、他の葉や使えない葉があれば取り出していく。一時間ほどかけてその仕事を終えた時、アゼリアが戻ってきた。


「おかえりなさい、随分時間がかかったのね。外の倉庫は遠かったの?」

「いいえ、近くよ。でも、持ってくるよう頼まれた書類がノートに書かれた棚になかったから見つけるのに時間がかかってしまって。オフィーリアは薬草の選別?」

「ええ、それは終わったから今から半分は乾燥させて半分は煮詰めるの。一緒にしてくれる?」

「もちろん。ところで彼女、いつもあんな感じなの?」


 ところで、の箇所でぐっと声のトーンを落とし聞いてきた。私が苦笑いで答えると、アゼリアはふん、と鼻息荒く腰に手を当てる。


「婚約者の前であの態度はないわ、許せない!」


 威勢がよく頼もしいはずが、小柄で愛らしいアゼリアがしても可愛いだけで。思わず笑ってしまう「あなたのことよ?」と叱られた。

 

 そのあとにした作業がいつもの何倍も楽しかったのは言うまでもない。


 

証拠がない→証拠があれば。

最終話を書いているんですが、いつも最終話は長くなりがち。まとめに入っているのに、二話に分けるのが嫌なんですよね。なんとなくですが。


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 明らかな意地悪!オフィーリアさんが言わないならアゼリアさんが言っちゃえ! 少しでも和やかになるから、アゼリアさんが来てくれてホントーに!良かった! [気になる点] 意地悪が加速してますね。…
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