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突然現れた婚約者.2(パトリシア視点)

本日二話目。誤字報告ありがとうございます!


 研究室へ戻ってきた私の目に入ってきたのは、オフィーリアの手当をするレイモンド。

 心の底から心配する姿に、どうしてそんな顔をするのかと胸が苦しくなる。


 さっき研修室へ、契約書の保証人欄にサインを貰いに行ったとき「ちょうど良かった。今からこの二つの薬品を混ぜて時間を計りながら変化を検証するところだったんだ」と言っていた。つまり、今ここにいるということは、もう一度始めからやり直さなくてはいけない。


 それなのに馬車まで送るなんて言いだす始末。

 きっと私がいない間にオフィーリアは泣きながらレイモンドに痒みを訴えたのね。自分の無知のせいなのに。


 レイモンドは優しいもの。それが異国から連れてきた婚約者となれば、責任を感じるのは当然。もしかして、母国を離れたオフィーリアに留学中の自分の姿を重ねているのかも知れないわね。

 思えば、この国に連れてきたことはレイモンドにとって重責。

 オフィーリアから帰りたいと言い出さない限り、レイモンドから追い返すのは無理なのではないかしら。


 とにかく、オフィーリアはもっと自分の立場を理解する必要があるわ。

 レイモンドの理想はあなたのような媚びて甘える令嬢ではなく、気心知れ本音で語り合えるような人。

 寂しい心の隙間にしたたかに入り込んだオフィーリアは、私がどうにかしなくては。


 

 それなのに、彼女は私が思っていたより図太かった。

 何度失敗させても、次の日にはケロリと研究室に来る。

 反省なんてちっともしていないかのように、レイモンドの隣で笑う彼女に苛立ちは募るばかりで。

 しかも最近は薬草のことも覚え、失敗させるのが難しくなってきた。


 だから、私は別の方法を取ることに。

 薬草の知識はついてきたようだけれど、街にはまだ不慣れなはず。

 そんな彼女にお使いを頼んだ。敢えて雑に描いた地図を一度だけ見せ、ポケットに隠す。少しは外で頭を冷やしてくればいいんだわ。自分の無能さを知るところから彼女は始めるべきよ。


 友人が来ると言っていたけれど、どうせ碌な友達じゃないでしょう。

 幸いにも、オフィーリアがお使いに行ったことで私は一人。書類をさっさとまとめて薬草園の手入れに行こう。研究室に誰もいなければ、お友達も帰るでしょう。そう思っていたのに。


「パトリシア!」


 薬草園へと向かう私をレイモンドが呼び止めた。今はまだ会議中のはずと思いつつ振り返れば、見たことない程狼狽えたレイモンドがいた。オフィーリアにお使いを頼んだことを伝えると、難しい顔をしたあと踵を返し走り去っていく。


「レイモンド?」


 後ろ姿に呼びかけるも、振り返りすらしない。

 それがまるで、もう私のことを必要としていないようで胸に痛みが走る。




 オフィーリアを連れて研究室に戻ってきたレイモンドは、私に詰め寄るとバンと机の上に地図を置いた。


「パトリシア、この地図に見覚えは?」


 スカートのポケットを上から押さえると、確かにそこには地図がある。いったいどういうこと、と言葉を詰まらせていると。


「これはオフィーリアが、パトリシアが書いた地図をそのまま描き写したものだ。オフィーリアは一度見た絵や図を忘れない。この地図で薬草屋にたどり着くのは無理だ」


 何その特技、初めて聞くわ。

 確かに地図は私が書いたものと全く同じ。一瞬しか見ていなかったのに全部覚えたというの?

 ……でも、私が書いた地図と同じだという証拠はどこにもない。 


「そ、そうよね、オフィーリアさんはこの街にまだ不慣れだもの。でも、私、もう少し細かく書いたと思うわ。オフィーリアさんの描き写し違いじゃないかしら」


 レイモンドなら私の言葉を信用してくれる。だって私はもう何年も彼の一番近くにいたんだから。

 それなのに、返ってきたのはオフィーリアを擁護する言葉だった。


「……だったらわざと、私が書いたのとは違う不親切な地図を書いたのよ。それで、貴方の気を引こうと……」


 そもそも、どうしてオフィーリアが貴方の気を引こうとすり寄っていることに気が付かないの? 私は貴方のことを思って言っているのに。



 ヒヤリと部屋の空気が冷たくなる。

 冷たい赤い瞳は初めて見るもの。



「オフィーリアはそんなことしないよ。だって、気を引くも何も俺の心にいるのはオフィーリアだけなんだからそんな必要はない」


 淡々と伝えられた言葉に全身が冷たくなる。

 あぁ、ここまでレイモンドは彼女に騙されているのね。

 弱った心の隙間に入り込んだオフィーリアは、きっと手練手管で彼の心を自分に向けているのでしょう。


 そのあとのやり取りはあまり覚えていない。今のレイモンドには何を言っても無駄だし、なにより微塵の迷いもなく彼女を信じたことが悔しかった。とにかく会話を終わらせたくて「ごめんなさい」と伝えれば「謝るのは俺じゃないよ」と言われてしまう。


 ねぇ、レイモンド。貴方友人がなんて言っているか知っている?

「あいつは留学から帰ってきて人が変わったようだ」って言われているのよ。

 でも大丈夫、人の弱みに付け込む性悪女から私が助けだして、もとの貴方に戻してあげるから。


パトリシア視点はここまで。明日からはオフィーリア視点に戻ります。


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイモンドの「本当の」友人たちはいい意味で「変わった」と言ってるんじゃないかなぁ…… 更新ありがとうございます。毎日楽しいです。
[良い点] 陰険嫉妬馬鹿女は、嫉妬と思い込みと勘違いで暴走してますね。加害者視点で裏側が見えるのは好きです。オフィーリアさんは、前向きで勤勉で努力家で、でもちょっと自分一人で抱え込むタイプで、友達想い…
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