病弱な従妹を心配するのは当然だ(ディオ視点)
四話まで短編と同じ内容です
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「アゼリア大丈夫かい?」
青白い顔で俺を見上げ、不安そうに瞳を潤ませるアゼリアの頬に手を当てる。
「ええ、もう学園に行かなきゃいけない時間なのでしょう?」
「ああ、授業が終わればすぐに帰ってくるよ」
俺は冷たいアゼリアの手に触れそう約束すると部屋を出た。出たところでエルナ叔母に出会う。
「エルナ叔母様、行ってきます」
「ええ、流行りのチョコレートが届いたの。帰ってきたらアゼリアと一緒に食べてくれるかしら」
「はい、頂きます」
「行ってらっしゃい」と儚げに笑うところが、アゼリアに似ている。父が領地に戻りタウンハウスにいるのは俺とエルナ叔母様とアゼリアの三人。頼りなげな二人だから、俺がしっかりしなければと気が引き締る。
父も言っていたが、守るものがあるのは良いことだと実感する。自分が強くなったように感じ、彼女達に優しくする度に感謝される度に男としての自信を得ることができた。アゼリアと一緒にいると心が満たされる。俺がいないと生きていけないんじゃないかと考えると、絶対守ってやらなければいけないと思う。
それに反比例し、俺の心はオフィーリアから離れていった。彼女はとてもしっかりしている。自分の考えを持っていて頭が良く機転も利き、なんでもそつなくこなしてしまう。彼女といると俺は必要ないのではと感じるし、正直劣等感を抱いている。
かといってオフィーリアと別れてアゼリアと結婚するつもりはさらさらない。優秀なオフィーリアはファーナンド伯爵夫人に相応しいし、凛とし透明感のある美しさは他の令嬢にはないものだ。劣等感を感じながらも俺はオフィーリアを愛している。だから、従妹のアゼリアとは仲良くしてもらいたいのに。
と、そこまで考えて思い至った。
そうか、オフィーリアは嫉妬していたのだと。
そう思ったとたん、胸にこみ上げてきた優越感に口元が緩む。
「ふん、そんなことか」
今まで、どこか近寄りがたいところがあったオフィーリアが、俺の言動で感情を乱されていたのだと思うと、なんだか気分が良い。劣等感がなくなり自尊心が高まる。
だから、オフィーリアの見舞いに行ってから、俺はますます彼女と距離をとるようになった。
アゼリアの体調が良い時でさえデートやお茶会を当日キャンセルした。その度に残念そうなオフィーリアを見る度に、俺は愛されているんだと自信がもてた。
そんな日々が数か月過ぎた頃、領地の父親から頻繁に手紙が届くようになった。
どうやら俺の言動がオフィーリアの父であるダンバー子爵の耳にも入り、父の知るところとなったらしい。手紙には婚約者であるオフィーリアを大切にするよう書かれていたが、俺はそれをぐしゃりと丸めゴミ箱に投げ入れた。
別にオフィーリアと結婚しないと言っているわけではない。ダンバー子爵家の領地は小麦の大量生産地で爵位以上に財力がある。対して、我がファーナンド伯爵家は鉱山の採掘量が年々減ってきて財政的には厳しい状態だ。新規事業に乗り出すにはダンバー子爵の財力がどうしても必要なのだ。
しかし、その手紙が、ある日ピタリとなくなった。
最後の手紙はやたら分厚く、不思議に思い開けてざっと目を通したところ、付箋が二ヶ所貼ってありサインをしろと書かれていた。
ちょうどアゼリアの熱が下がらず、エルナ叔母様と看病しているときだった。叔母様はこっちのことは心配しなくていいので書類にはしっかりと目を通した方がよいと言ってくれたけれど、構わないとサインをした。どうせ大したことではない。
分厚い手紙が届いてから一ヶ月。あれ以降父親からの手紙はおろか、オフィーリアからの手紙も誘いもぴたりと止まった。もっともこのひと月、卒業を控え試験で忙しかったので、それはオフィーリアも同じだろうと気にはしなかったのだが。
そして試験も無事終え、三年間の学園生活も卒業パーティを残すだけとなった。