距離を縮めたい二人.2
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突然抱きしめられた私には戸惑いしかなくて。
それでなくても顔が赤いのに、もはや全身が熱い。
「あ、あの。レイモンド様?」
「可愛いことをいうオフィーリアが悪い」
えっ、何のことですか。
手でレイモンド様の服を引っ張っり、離して欲しいと伝えても腕の力は緩まらず、肩を押してもピクリともしない。
「オフィーリアの前では少しでも好印象でいたかったんだよ。紳士らしく、丁寧な物腰で」
「そうでしたの。すみません、私余計なことを申し上げましたね」
「いや、嬉しい。俺との距離を縮めようとしてくれているのだろう?」
初めて私に対して俺、といったレイモンド様はそのまま私の肩に顔を埋める。
何やら大きく息を吸い込んでいるような気も……
「あ、あの。そろそろ離して頂けませんか」
「嫌だ。せっかくオフィーリアが距離を縮めようとしてくれているんだ、それに応えるべきだろ?」
「い、いえ! 確かにレイモンド様のことはもっと知りたいと思っていますが、物理的な距離のことではありません」
「俺、は物理的にも縮めたいのだが?」
「そ、それは。もう少しゆっくりでも良いと思います」
何だか、俺の使い方が絶妙に強調されていて、自分で頼んでおきながら心臓がバクバクとうるさい。
わたわたと身じろぎしていると、耳元からクツクツと笑い声が聞こえてきた。
「レイモンド様?」
普段よりツートーンほど低い声を出せば、やっと腕を解いてくれた。じとりと睨みあげると、初めて見る少し意地悪な瞳がそこにある。
「揶揄っていますね」
「すまない。嬉しすぎて少々調子に乗りすぎた」
整ったお顔に甘い雰囲気はそのままに、でも肩の力が抜けた顔。なんだかグッと親しみが持てて、私も苦笑いを溢し許してしまった。
「明日から一緒に出勤できるなんて、今から朝が楽しみだ」
腕は離してくれたものの、先程より近い距離。腰に手を回していることに気づいていますよ、払い除けはしませんが。
「帰りもご一緒できますか?」
「うーん。ちょっと今取り込んでいるから、それは難しいかも」
「私も一緒に残りましょうか?」
「気持ちは嬉しいけれど、無理はさせたくない。そこはおいおい考えていこう。新しい環境に馴染むのは、自分で考えるよりストレスがかかるはず。無理せずゆっくりこの国の生活に慣れていって欲しい」
そう言われれば、心当たりがあるような。
以前は夜ふかしして本を読んでいたのに、最近はお風呂に入るとぐったり眠くなる。自分でも気づいていなかった疲れを気遣ってくれていたのだと、今さらながら感謝した。
とはいえ、やると決めたからには今回のようなことは避けたい。
「では、早く帰る分勉強します。今まではアゼリアに効く薬を探すために文献を読んでいましたが、それでは実用性に欠けると分かりました。お借りした本は主に薬草の取り扱いについて書かれていますので、私の仕事に役立つはずです」
「ありがとう、そこまで言って貰えるなんて嬉しいよ。では、俺が帰ってきた時、部屋にまだ灯りがついていれば立ち寄っても良いだろうか。読んだだけでは分からないこともあるだろう、質問をしてくれればいい」
「それでしたら私がお迎えに行きます。食事をしながら教えて頂けますか?」
にこりと笑えって答えたのに、レイモンド様は悲しそうに眉を下げる。
「それはもうこの部屋に入るな、ということか。抱きしめたことがそんなに嫌だったか、すまない」
しょぼんと肩を落とすレイモンド様に、私は違うと慌てて首を振る。
「そ、そうではなくて。その方がお時間を取らせないかと。お疲れでしょうから早く眠って欲しいですし」
要は効率的な時間の使い方を考えてのことで、他意はない。レイモンド様と二人で過ごす時間が嫌な訳ではなく、私のために時間を取らせたくないのだ。
「それなら問題ない。食後のお茶をこの部屋で取ろう、その方がゆっくり教えられる」
確かに。説明しながらお食事は落ち着かないですものね。これは私の配慮不足だと頷けば、嬉しそうに私の髪を一束手に取られた。うん?
ゴミでも付いていたのかと、されるがままになっていると、レイモンド様は躊躇うことなく髪に口づけを落とされた。さらには綺麗なご尊顔が近づいてきて……
と、その時トントントンと扉を叩く音がした。
絶妙のタイミングに思わず大きな声ではい、と返事すればアンが入ってくる。
「レイモンド様、旦那様とのお約束は覚えていらっしゃいますか?」
にこりと微笑むも目は笑っていない。レイモンド様は気まずそうに私の髪から手を離す。
「深夜にオフィーリア様のお部屋を訪れないよう、もし火急の用であっても長居はせず扉を開けておくこと、とお約束されたはずです。カートラン侯爵家として恥じる行いはされませんよう」
「……分かっている。それに、今回はオフィーリアが心配で、手当をしていたからだ」
「そうですか。ジェイムス様が殆どお帰りにならず、旦那様と奥様は領地。とはいえ、お二人はまだ婚約者なのですからね」
どうやらアンはお目付役でもあるらしい。
うっ、と喉を詰まらせたレイモンド様は、のそりと立ち上がるとバツの悪そうな顔で私を見おろす。
「……では、お休みオフィーリア。それから、手伝ってくれるのは嬉しいが、手の赤みが引かなければ明日の仕事は休んでくれ」
「分かりました。お休みなさい、レイモンド様」
ジロリとアンに睨まれつつレイモンド様は出てった。私とそんなに歳は変わらなさそうなのに、強いわね、アン。
とある作品の書籍化作業で編集者様からイチャラブ○○字追加できますか? と言われたぐらい、私の作品イチャラブが少ないんです。今回は頑張って書いてます笑
○○字って、いろいろ始まって終わってムーンになる!?と思いながら頷きました。もちろん全年齢に仕上げています。
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