地味〜な結婚式
フランもアメリも幸せそうな顔をしていた。
今日は2人の結婚式に来ているのだが、これまでに色々ありすぎて、正直無事に今日を迎えられるとは思っていなかったのだ。
フランもアメリも女性で、この結婚は同性婚だ。それゆえに反対する人も多かった。2人の両親は全員反対していたし、周りの友人たちもそうだった。
2人はそんな周囲の人間を皆殺しにし、見事結婚式を挙げてみせた。これはとても素晴らしいことだ。
しかし、良くないこともあった。2人が己を貫いた結果、結婚式に来ているのは私1人だけという状況になってしまったのだ。
「イギリさん、仲人のスピーチをお願いします」
呼ばれたので行ってくる。
「えー、まず、この度はご結婚おめでとうございます!」
「キャッキャ!」
「ウフフ!」
幸せそうな2人の近くにいるとこちらまで幸せな気分になってくる。
幸せな気分になったせいで、この後喋ることを全て忘れてしまった。
「〈まさか〉です」
ほとんど内容が抜けてしまった頭からなんとか絞り出したのがこれだった。
「キャッキャ!」
「ウフフ!」
なんとか誤魔化せたようだ。
「なんと本日は、スペシャルゲストの方々にお越しいただいております! まずはお1人目、ニッポさんお願いしまーす!」
パチパチパチパチ〜
良かった、今日は私だけだと思っていたから嬉しいサプライズだ。
「どうもみなさんこんにちは、ニッポです。漢字で書くと二宝です。今日はですね、みなさんにお話したいことがあって来ました」
みなさんっていうほど人いないけどね。
「私が伝えたいことはただ1つ!『ヌモヌモの未来は明るい!』これに尽きます! それではまた!」
パチパチパチパチ〜
「ニッポさん、ありがとうございました〜。次のゲストは、シンガポーさんです! よろしくお願いしまーす!」
パチパチ⋯⋯
「どうも、ご紹介にあずかりましたシンガポーです。突然ですが私、昨日タトゥーを入れました。見てください」
腕に『佐々木 紗希』と彫られている。
「実は私、これでもけっこう有名人でして、サインを求められることが多いんですよね。昨日もいつものように街で取り囲まれて、ファン対応してたんですけど」
シンガポーさんは暗い顔をした。
「そのうちの1人が『シンガポーさんですよね! タトゥー彫らせてください!』って言ってきて、彼女の身体に僕の名前でも彫るのかな、ちょっと重いななんて思ってたら僕の腕に彫られてたんですよ」
なるほど、そのファンは彫り師だったのね。
「じゃな!」
シンガポーさんは式場の窓を割ってどこかへ走り去っていった。
「うぅ⋯⋯ひぐっ⋯⋯とても感動的なスピーチでしたね! 次のゲストはパプアニューギニさんです! よろしくお願いしまーす!」
シンガポーさんもなかなか露骨だと思ったけど、上には上がいたか。パプアニューギニ⋯⋯長い名前だ。
「チャス!」
彼はそれだけ言って式場の窓を割って逆立ちで走り去っていった。
名前のわりに短いスピーチだった。
「アザッス、次のゲストはぁ〜⋯⋯!」
そろそろ飽きてきたので帰ろう。中華屋に寄って芋虫でも食べて帰ろう。
そう思いながら私は式場をあとにした。ロケットで。