〜第1章〜地獄編
「ぎゃぁぁぁあああ…も…もうやめてくれ…熱い熱いぃうっ…」
真っ赤な炎で燃え盛る体はやがて灰になり消えていった。
数秒もしないうち、時間を戻したように灰が人の形に固まっていく。
やがて元の体が出来上がった。
「どうして…どうして?
どうして俺はここにいるんだ
ここはどこだ?いつからここにいた?…ん?
あ…ぁがぁぁぁぁあああ」
出来上がった体はまた炎に包まれ灰になった。
何度も何度も、何度も何度も何度も……
苦しみと痛みによる恐怖、そして長い年月が過ぎたことで生前の記憶は無くなり、最近起きたことすら思い出すのに時間がかかるほどであった。。
目の前の苦痛に耐えるので精一杯なのだ。
覚えていることは『ネーレ』という自分の名前と自分が何者かわからなくなったら感情を失い廃人と化してやがて魂が消滅するという。
ネーレはふらつきながらあたりを見渡した。
噴火した山々、深紅に染まった池、どこもかしこも熱風が吹いている。
そして、ネーレと同じように体を焼かれ灰になる人々。
(誰でもいい教えてくれ)
「ここがどこだか…わかる方は…」
言葉の途中で話すことを諦めた。
すでに周りの人々の顔からは一切の感情を読み取れないからだ。
記憶を少しでも思い出したいネーレは隣にいた者のボヤッと大きく広がった黒目に映る自分を確認する。
年齢は20歳ぐらいだろうか。髪色は橙色、それ以外特にこれといって特徴はなかった。
そして尚も体は焼かれ続けている。
炎に数千回は焼かれたかというところで肉体がもとに戻った時、突然腕を掴まれた。
掴んできたその手には鋭い爪。
肌は緑色で、腕の先に目をやると腰の高さぐらいの背丈の細く小さな鬼がいた。
小鬼はどこかに連れて行こうとしている。
とにかく腕を掴まれてからは炎に包まれることがなくなり、ネーレは一息ついて小さな鬼に恐る恐る言葉をかける。
「助けて…くれたのか?
ありがとう、俺はネーレ。君の名前は?」
小鬼は立ち止まり呆れた顔でこちらを見つめ返し返事をした。
「何度答えれば気が済むギィ、2000年前 閻魔様の御前で出会って以来1つの罰が終わるたびに同じことを聞くなギィ。」
何を言っているかわからなかった。
言語はわかる、なのに言葉がひとつも理解できないのだ。
「あと、ワッチは助けてるわけじゃないギィ。
ワッチはウロスだギィ。
そろそろ忘れるなギィ!!
話し方もお前が沢山話しかけるせいで覚えたギィヨ!」
「2000年前?何を言ってるんだ?俺はさっき目が覚めて…それまでは…え?あれ?何だこの記憶…うっ…うわぁぁぁああ」
少し前の記憶が断片的ではあるが走馬灯のように頭に流れた。
「その反応も何度すれば気が済むギィか?
いい加減飽きたギィ
まぁ、ワッチが言葉をほとんど理解して話せるようになった800年前から見ればだいぶ話が進んだギィ」
そこからの道中、ウロスが慣れた口調でネーレが聞きたいことを質問も聞かずに答えていく。
要約するとこうだ。
ここは地獄。
地獄は八大地獄と言い8層の縦構造に分かれているという。
ネーレがいる層は最上階、等活地獄という所で
ウロスがネーレの案内役を担っているらしい。
地獄の鬼のほとんどは言葉を話せず、「ギィギィ」言い合うことで会話をしている。
ウロスの語尾に着く『ギィ』もその名残りだろう。
話は続く。
1000年に一度鬼達の娯楽としてまだ人の意識を保つことができる者を集め大会が開かれるという。
八層地獄大会 通称ヘルトーナメント。
大会の優勝者は生前の記憶を全て与えられる。
自我を忘れてはいけないこの世界において、記憶を貰えるということがどれほど大切なことか。
そして前回の大会、ネーレは惜しくも2位であった。
最上層は出場者も多いが基本的に力がなく、上位に入ることはない。
ウロスは鬼の中では背も低く落ちこぼれであり、自分の管轄で上位者を出したことで鼻が高いらしい。
前回優勝者は最下層無間地獄より。
リアースという者が優勝したらしい。
無間地獄の新参者ではあったが、そもそも無間地獄へ行き名前だけでも記憶を保持できている人間はとても珍しいという。
ウロスの慣れた口調が終わり、一呼吸したところでネーレは問いかける。
「なるほど、教えてくれてありがとな!
それより次は…どこに向かうんだ?」
ニヤリと笑いまた歩き出したウロスは背を向けながら問いに応えた。
「ネーレはまた1000年よく耐えたギィ
ヘルトーナメント今回は優勝するギィヨ!」
少し歩きよく目を凝らすと長い道のりの先に大きなコロシアムが見えた。
コロシアムに近づくに連れネーレの顔には不安と焦りが浮かんでいた。